BPMプロジェクト成功の鍵[5] - 分析・把握・発見BPTrends(13)(2/2 ページ)

» 2007年09月18日 12時00分 公開
[著:デレク・マイヤー, 訳:高木克文,日本能率協会コンサルティング]
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ステップ7:ブレークスルー機会の発見

 BPMスイートの効果的な展開は、ビジネス・パフォーマンスにおけるブレークスルー改善の本格的な機会をもたらす。BPMスイートは、幅広いビジネス・ベネフィットの実現を可能にする。BPMスイートの機能とプロセスニーズを理解すれば、ブレークスルー改善機会への着眼が比較的容易になるのだ。

 ここに紹介するテクニックのいくつかは、すでによく知られたものだ。しかし、プロセス分析に関する重要な機能を備えている。チームが非効率な領域を把握するうえで役立つ原理なので、紹介しておく。ある程度は相互に重複する内容であることを断っておきたい。

■サイクルタイム短縮

 BPMスイートの中核的優位性は、バックエンド・プロセスをフロントオフィスのマニュアルステップと融合し、自動化を可能にする点にある。これにより、サイクルタイムが短縮し、ミスの機会が削除される。また、高次元の付加価値を生むアクティビティへのスタッフ異動が可能になり、顧客サービスの向上に結び付く。

 例えば、ウェルズ・ファーゴ社は、一連の主要な買収を通じて劇的な成長を遂げてきた。その結果、プライベートクライアントサービス部門では多くのばらばらの情報管理システムに向き合わなければならなくなった。200もの独立したオフィスのそれぞれに多くの重複業務が存在していた。それらは工数集約的タスクであり、企業として最も重要な商品、すなわち顧客サービスを阻害することも多く見られた。意思決定に数日を要することもあった。その時間の3分の2が関連情報の追求だけに費やされるという始末であった。

 そこでプロセスと信託管理者の真のニーズに焦点を当てた改善を行った結果、自由裁量支払い業務に要する時間を、1週間から数日間にまで短縮することができた。同時に、業務効率が40%以上向上し、人員削減を行うことなく年間15%のコスト削減を達成した。

■顧客サービス向上

 前記ウーリ銀行は、顧客サービス向上の好事例である。バックエンド・プロセスを自動化することにより、同行は付加価値を生む顧客サービスに注ぐ時間を70%にまで増大することができた。彼らは従業員の時間の使い方に再度注目し、新規顧客の開拓と既存顧客との関係強化に努める一方、収益に結び付かないスタッフに対する投資を最小限に抑制した。

 その結果、ローン処理時間は半減し、6日間から3日間にまで短縮した。これが、2000万ドルに値する節減だけでなく、1億1500万ドルに達する新規顧客の獲得に結び付いたのだ。

■チャネル統合

 今日では、携帯電話、Web・セルフサービス、コールセンター、キオスクなどの、多様なデジタルチャネルが存在する。その中の、どのような場で顧客関係が進展しているのか、それを見定めなければならない。

 従来は、それぞれのチャネルに対応する個別のシステムとプロセスを備えるのが一般的であった。しかし、このアプローチは、不可避的に実効性を失った。顧客に対する一貫したサービスが、事実上、不可能だからだ。

 それらの多様なチャネルを包括的プロセスとして連結・統合する方法を見いださなければならない。潜在的顧客インタラクションと、それらが総合的ソリューションにどのように反映されるかのブレークダウンには、RADsを用いることができる。

■多重作業アイテム

 文書集約的プロセスでは、ある作業アイテムへの取り組みが必要以上の回数にわたり行われることが珍しくない。例えば、マイアミデード州立裁判書記局(米国で4番目の規模を持つ交通裁判システム)では、典型的な出頭命令処理が、最低37回も行われていることが判明した。しかも、それにかかわるタスクの半分は、あるデスクからほかのデスクに書類を引き渡すだけの作業内容であった。

 そこで、(付加価値を生まないマニュアルタスクの削除による)プロセスの効率化、先行的プロセス支援システムの導入、および関連文書の整理に取り組んだ。その結果、15%少ないスタッフメンバー数で30%増の件数が取り扱えるようになり、人件費だけでも年間100万ドルの削減に結び付いた。

■役割の合理化

 可能な限り重複する役割を1つに束ね、ハンドオフの削減を行うとともに既存リソースのより有効な活用を図るべきである。その目的は、ハンドオフを最低限に抑えることだ。プロセスの観点でいえば、リスクが発生する可能性が高い個所である。業務は、1つの役割からほかの役割に移動するごとに、亀裂に落ち込み、忘れられたり置き去りにされたりしやすくなる。スタッフの病欠やずる休みから情報漏えいや連絡ミスに至るまで、あらゆる事柄がこのリスク要因に火をつける可能性を持つのだ。

 人的視点でプロセスを把握するには、RADsを用いる。より広範な職務を担う(1カ所ですべてを済ませる)ことを可能にする有益な役割のデザインが促進されるであろう。

 またRADsでは、役割が示すべき行動と期待されるインタラクションに着目する。システムとほかのプロセスが担える役割があることも忘れてはならない。RADsをベースにして多様な角度からプロセスをとらえれば、大きな付加価値をもたらさない役割の検出が比較的容易になる(フローダイアグラムでこれを検出するのは、極めて困難だ)。

■人的パフォーマンスの管理とモニタリング

 多くのBPM活動では、従業員のマネジメントと結果のレビューが不十分にしか行われていない。BPMプログラム全体としてはビジネス・パフォーマンスの向上を目指しているのであろう。しかし、現場のチームレベルで、その真の意味が的確に理解されている例をめったに見ない。

 チームリーダーには、部下の能力を把握し、それに基づく計画を立てることが求められる。そして、目指す目標に照らし、彼らが実際に、どれだけの成果を挙げたかを追跡しモニターしなければならない。

 BPMエンジンを用いたプロセス自動化による生産性向上成果に加え、さらにそれを40%上昇させた企業もある。それは、生産管理領域での活動に重点的に取り組んだ結果であった。

 生産管理とは、本来、プロセス内で働く従業員の監督を主眼に置く業務である。彼らの集団の力で何を達成できるのか、彼らはどのようなところで難渋しているのか、彼らにどれだけの負荷が掛かっているのか、彼らは何を今日、明日、今週、あるいは月末までに出荷しなければならないのか、といった事柄に目を配ることだ。

 従って、まず、管理者の計画、伝達、および部下に対する作業配分の仕方を注意深く観察しなければならない。その上でこそ、モニタリングと分析が可能になるのだ。もちろん、一定期間後には、改善に取り組むことになる。

 従業員の意識を短時間(例えば3時間)内に完了すべき作業に集中させるようなやり方では、1週間後の仕事量の実績と目標との間に大きな差が生じることにもなるだろう。

 ハリファクス社(英国に拠点を置く国際的に著名な金融サービス会社)では、現在、第一線マネージャに対し、システム内にどれだけの仕事があり、どのような仕事が新たに入りそうかの把握に努めるよう、指導している。このことから、第一線マネージャたちは、個人のスキルと成長を全体的視野でとらえ、個々のチームメンバーのパフォーマンスについて、より深く考えるようになった。

 チームメンバーは、それぞれの能力に応じた仕事を配分され、タスクの完了度とその品質の観点からパフォーマンスをモニターされる。マネージャは、週間計画に責任を持つ。また、以降12週間の生産性予測を行わなければならない。

 その結果、同社は、対前年比だけでも20%の生産性向上成果を得た。その後週を経るごとに、アウトプットが上昇し、ビジネスコストがますます低くなるという状態が継続している。バックオフィスだけでも2000名を超えるフルタイム・スタッフを抱える規模であれば、20%の生産性向上は400人年の工数に相当する。会社の純利益に与えるインパクトは、実に大きい。

 さらに同社では、全社的マネジメントカルチャーの実質的改革を成し遂げた。それが企業業績の好循環、チームワーク、および個人的成長の基盤となっている。

■例外管理能力の向上

 例外管理能力が競合企業との差別化要因になることが、非常に多い。さらに、テクノロジ・ベースのアプリケーションを背景にすれば、業務とリソースの大半を例外処理につぎ込むことになる。

 BPMスイートは、標準的・効率的処理の対象である周知の例外事項を含めたコアプロセスの自動化を可能にする。

 短期的には、あらゆる想定シナリオに対応しようとせず、コアプロセスと顕著な例外事項に絞るべきだ。運用過程で新たな例外事項が問題になれば、ビジネスの推進に用いられているプロセスモデルを、それらに容易に適合させられる。例外事項をプロセスオーナーの元に送り、その判断に委ねるメカニズムを構築することにも価値がある(それがBPMスイートに組み込まれていない場合には)。

 こうしたアプローチを行えば、プロセス開発を、短期間内に整然と推し進めることができよう。

■データとドキュメントの統合

 バーゼルII条約やサーベンスオクスリー法に見られるように、コンプライアンス規制がますます複雑化している。この時代の趨勢(すうせい)の中で、意思決定プロセスにおけるコンテントの重要性が一段と増してきた。意思決定に関連するコンテントのマネジメントが不可欠な要素になり、プロセス記述の一環として効果的に組み込まれなければならない、ということだ。

 確かに、プロセスの照準をコンテントが状態を変える重要なポイントに合わせて駆動させるのは、効果的な方法である。適切な情報を適切な相手にタイミングよく確実に伝え、適切な意思決定をより迅速に行えるようになる。

 この分野では、機能的に特化した、いわゆるピュアプレイBPM製品よりも、ファイルネット社のBPMスイートのような製品の方が優位性を持っていることは明らかだ。

(続く)

Original Text

Derek Miers, "The Keys to BPM Project Success." BPTrends, January 2006


著者紹介

デレク・マイヤー(Derek Miers)

個人として活動する業界アナリスト。BPMI.org.の共同議長。最近では、最新のBPM環境に関する総合レビューを完成した(「BPMスイート」 BPTrends刊)。


訳者紹介

高木克文(たかぎ かつふみ)

(株)日本能率協会コンサルティング、テクニカル・アドバイザー。日本BPM協会 ナレッジ研究部会メンバー。グローバル・コンサルティング、リーダーシップ開発研修、ベンチマーキング・プロジェクトなどを中心に活動。戦略、組織、リエンジニアリング、学習する組織、ベンチマーキング、コンサルティングビジネスなどに関する著書、訳書、論稿、多数。


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