業務破壊の地雷原、野放しのExcelシートをなくそう中堅・中小企業のためのERP徹底活用術(7)(3/3 ページ)

» 2010年12月27日 12時00分 公開
[鍋野 敬一郎,@IT]
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Excelシートの管理とERPとの折り合いの付け方を熟考せよ

 「日常業務に最も貢献しているソフトウェアを挙げろ」と言われたら、筆者は真っ先にExcelを挙げます。経営層から現場層まで、職級や部門を問わず、全社的に使われているのがExcelだからです。もしExcelを正しく使えない状態となれば、ほとんどの企業において業務遂行に深刻な支障が生じることでしょう。G社のように「各種Excelシートを管理していなかったばかりに、正しい生産計画を作れず、納期に間に合わなかった」というケースも決して他人事ではないと思います。

 しかしながら、多くの企業の情報システム部門は、Excelシートの管理は行っていません。これは事例の中でも指摘したように、業務ノウハウに関する知識や経験がなければ理解できないものが多く、管理することが難しいためです。

 ERPは企業活動の管理に有効なシステムであり、「企業の情報基盤である」という説明もよくなされていますが、実質的には「全社の情報を集中管理する“箱”」と言えます。そして、その中に入れる情報については、手元のExcelシートで作成されている例がほとんどです。つまり、企業が持つ業務ノウハウや知識を標準化して共有するためには、ERPだけではなく、Excelシートの機能も含めて、正しく管理・把握しておく必要があるというわけです。

 昨今、厳しいIT投資環境の影響を受けて、ERP導入の際には「テンプレートベースによる短期間・低コストでの導入」というポイントばかりが重視されがちです。しかし、真に留意すべきなのは、「ERPを入れた後、どのようにシステム導入効果を出すか」という点です。

 その点、各業態に特化したテンプレートにもそれなりの機能がありますが、それだけで業務を全てカバーできるわけでもなければ、抜本的に改善してくれるわけでもありません。テンプレート以上に業務効率向上に意味を持つのは、「これまでも使われてきた各種Excelシートをどう生かし、ERPとどう折り合いを付けつつ管理するか」であり、それがERPの導入効果を左右する重要要素の一つとなるのです。

Excelシートを管理する環境は整いつつある

 ちなみに、最近のERP製品には、データの入出力インターフェイスとしてExcelを使うものがあります(富士通のGLOVIA-smartやマイクロソフト、SAPのERP製品など)。ワークフローグループウェアなどのフロントシステムにも、Excelシートを利用してERPや他のシステムとデータを共有し、データ連携させる製品があります。このように日常業務で利用しているExcelシートを連携させることで、ERPをはじめとする基幹系システムをより有効利用し、なおかつExcelシートを管理しやすい環境が整いつつあるのです。

 また、個人のPCや共有ファイルサーバ上に置かれているExcelシートは、セキュリティ上のリスクがあるとともに、「どれが最新のファイルなのか」を作成者以外が判断するのは難しいという問題がありますが、以上のように基幹系システムと連携させて管理すれば、そうした問題も解決し、情報共有による円滑なコミュニケーションを図ることができます。

 先進事例としては、グローバルなビジネス展開において、SaaSとExcelシートを組み合わせて使うケースが挙げられます。具体的には、salesforce.comなどのSaaS製品を利用して、中国・アジア新興国の拠点や代理店とリアルタイムに情報共有を行います。同時に、海外拠点のスタッフにはExcelシートに業績などを入力してもらい、そのExcelシートを日本本社の基幹システムに取り込むことで、情報連携したり、ビジネス分析を行ったりするというケースです。

 この場合、国内と海外で使用するExcelシートのフォームは同じものを使います。これによって分析などの処理も早まり、本社から海外拠点へと、即時に情報などをフィードバックすることが可能となるのです。2010年10月には、マイクロソフトが、Excelを含むMicrosoft OfficeやSharePointなどのビジネスツールをクラウド上で提供する「Microsoft Office 365」という新サービスを発表しましたが、これを利用すれば、海外拠点とのネットワーク回線管理やセキュリティ対策、そしてITコスト抑制といった課題解決も狙うことができます。

 いずれの手段を採るにせよ、大切なのは、「現場で無秩序に利用されているExcelシートをどのようにコントロールすべきか」を明確にすることです。これが企業の競争力や業績を左右する大きなポイントとなります。

著者紹介

▼著者名 鍋野 敬一郎(なべの けいいちろう)

1989年に同志社大学工学部化学工学科(生化学研究室)卒業後、米国大手総合化学会社デュポン社の日本法人へ入社。農業用製品事業部に所属し事業部のマーケティング・広報を担当。1998年にERPベンダ最大手SAP社の日本法人SAPジャパンに転職し、マーケティング担当、広報担当、プリセールスコンサルタントを経験。アライアンス本部にて担当マネージャーとしてmySAP All-in-Oneソリューション(ERP導入テンプレート)を立ち上げた。2003年にSAPジャパンを退社し、現在はコンサルタントとしてERPの導入支援・提案活動に従事する。またERPやBPM、CPMなどのマーケティングやセミナー活動を行い、最近ではテクノブレーン株式会社が主催するキャリアラボラトリーでIT関連のセミナー講師も務める。


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