
新規顧客の獲得にかかるコストや労力が増す中、これまでに一度でも取引があった休眠顧客の掘り起こしが改めて注目されています。過去の接点を活かしながら、適切なアプローチやツールを使って再びビジネスにつなげていくことで、売上アップや社内ノウハウの蓄積にもつながります。
本記事では、休眠顧客への具体的なアプローチ方法や進め方、BtoB(企業間取引)、BtoC(コンシューマー向け事業)それぞれで意識したいポイント、活用できるツールや注意点まで、わかりやすくまとめていきます。
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目次
休眠顧客とは? いつから・どうなったら「休眠」なのか
ビジネスにおける「休眠顧客」とは、以前に商品を購入したりサービスを利用したことがあるにもかかわらず、しばらく連絡や取引がない/止まっている顧客のことを指します。例えば、最後の購入から半年以上経過したユーザー、最終問い合わせ日から1年以上反応がない客などが該当します。
休眠顧客の「期間」の定義は企業やサービス内容によって異なります。BtoBの場合は一般的に、契約終了後3カ月~1年以上経過した顧客、BtoCの場合は最終購入日から半年~1年程度を基準にするケースが多いです。自社の商品やサービスの特性に合わせて基準を設定することが重要です。
この「自社にとっての休眠顧客」を定義することで、誰にアプローチすべきかがはっきりし、効率的な休眠掘り起こし施策へつなげることができます。
休眠顧客を放置するビジネスリスク
休眠顧客の存在を見過ごすことは、実はさまざまなリスクを生み出します。
まず、新規顧客の獲得単価です。新規客の獲得単価は年々高騰しています。新たな顧客をを広告や展示会、地道な営業活動、マーケティング活動などで集め、リード(見込み客)として育成し、最終的に顧客となってもらうには多額のコストと労力がかかります。しかし既存の顧客リストを活用すればその何分の1かの費用でアプローチが可能です。
また、せっかくつながりのあった顧客を手放してしまうことは、本来得られるはずだった売上やビジネスチャンスも逃していることになります。休眠顧客は、競合他社のサービスや商品に流れてしまう可能性が高く、一気にシェアを失う危険性も含んでいます。
もう1つ、顧客データの鮮度が落ちていくにつれて、せっかく蓄積してきた情報も活かせなくなっていきます。休眠顧客の掘り起こしを怠ると、ますます新規営業や広告に依存する経営体質となり、結果としてROI(投資収益率)が悪化しやすくなります。ROIは投資コストに対して得た利益の割合を(利益÷投資額)×100で示す指標で、費用対効果を比較するときに役立ちます。
下記の表は、休眠顧客を放置した場合の主なリスクをまとめたものです。
| 休眠顧客放置のリスク | 具体例や影響 |
| コスト増 | 新規リード獲得の広告費や営業コストが増加 |
| ビジネスチャンス逸失 | 継続的なアプローチをせず再購入機会を逃す |
| シェア流出 | 競合他社に顧客を奪われ市場での存在感が低下 |
| データ資産の劣化 | 顧客情報の鮮度が落ち、CRM戦略の精度が下がる |
| 収益性低下 | LTV(顧客生涯価値)の最大化が困難になる |
新規顧客ばかりに目を向けるのではなく、眠っている既存顧客の活用こそが、持続的な成長と利益確保につながるのです。
休眠顧客の掘り起こしで得られる効果とは
休眠顧客へのアプローチは、売上アップだけでなく、さまざまな効果をもたらします。
主なメリットを具体的にご紹介します。
- コストや手間を抑えながら売上アップを目指せる
- 既存顧客の分析を通じてアプローチの精度を高められる
- 営業やマーケティング部門全体の活性化やノウハウ蓄積につながる
- 商品やサービスの改善ヒントを得られる
- 競合対策としても有効で、市場シェアの維持・向上に役立つ
それぞれを詳しく見ていきましょう。
新規顧客開拓に比べて低コストで取り組める
休眠顧客へのアプローチは、新たなリードを一から集めるよりも、圧倒的にコスト効率が良いのが特徴です。すでに連絡先や購買データが揃っているため、リストの準備が簡単で、広告宣伝費やプロモーション費用を大きく抑えられます。
また、リスト購入や飛び込み営業のような「ゼロベース営業」ではないため、初期コストを大きく削減しながら売上につなげやすいメリットがあります。
リピートや再契約につなげやすい
過去に商品やサービスを利用したことのある顧客は、すでに自社の提供価値をある程度は理解しています。そのため、ゼロから説明を重ねる必要がなく、再度の提案がスムーズです。また、「離れた理由」に応じて個別対応や限定特典を用意するなどの工夫がしやすいのもポイントです。
実際に、こうしたアプローチによって短期間で再契約やリピート購入につながるケースも少なくありません。「なぜ利用しなくなったのか」を丁寧にヒアリングし、それに合わせて提案することで成果につながりやすくなります。
営業・マーケティング部門の生産性向上につながる
休眠顧客掘り起こしの活動を通じて、営業・マーケティング部門の役割分担や連携が進みます。
たとえば、MA(マーケティングオートメーション)ツールを活用し、関心が高まった顧客だけを営業部門に引き渡す仕組みを作ることで、全体の効率を向上させることが可能です。
さらに、掘り起こし施策で成果を上げた事例やテンプレートを社内で共有すれば、組織全体のノウハウとして蓄積できます。これが将来的な営業力・マーケティング力の底上げにつながります。
顧客理解の深化や商品改善のヒントになる
休眠顧客がなぜ自社を離れたのか。その理由を分析することで、商品やサービスの改善ポイントが見えてきます。
アンケートやヒアリングを実施すれば、新しい要望やニーズ、競合製品への評価など、これまで気づかなかった改善ヒントを直接知ることができます。
このような「顧客の声」は、既存サービスだけでなく新商品の開発や今後の営業活動にも大きく役立ちます。
競合対策としても有効活用できる
積極的なアプローチを続けることで、競合他社へ流れる顧客を引き留めることができます。
また、顧客がどのような理由で他社に乗り換えたのか、その情報を収集できれば、自社の弱点や競合の強みを把握する材料にもなります。
タイミングを見て連絡を取れば、再検討時期を逃さず自社に引き戻すことも十分可能です。この活動が自社の差別化ポイントの再確認や、より強い市場ポジションづくりに役立ちます。
休眠顧客を掘り起こすアプローチ方法と具体策
休眠顧客の掘り起こしは、一つの手法だけで成果を求めるのではなく、いくつかのアプローチを組み合わせて行うことが大切です。
ここでは、代表的な方法とポイントを具体的に紹介します。
CRM施策の全体像や成功ポイントは、「CRM施策にできること|企業成長が加速する顧客管理戦略と成功のポイント」でも詳しく解説しているのでぜひ一緒にチェックしてみてください。
おすすめCRM施策で実現する効果とは? 顧客管理戦略と成功のポイント
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メール配信による掘り起こし
メールは、低コストで多くの休眠顧客に一斉アプローチできる代表的な方法です。件名や本文は顧客ごとにパーソナライズし、開封してもらう工夫をしましょう。
主なポイントは以下です。
- 過去に利用した商品やサービス名を入れる
- 「限定」「お得」など特別感のある件名を使う
- 休眠に至った理由ごとに内容を変える
- メール文のABテストを実施し、開封率・反応率を見ながら最適化する
例えば、過去購入履歴がある方には「以前ご利用いただいた〇〇の商品、リニューアルしました!」のような案内が効果的です。
メールマーケティングの効果的な設計手法は、「CRMを活用したメールマーケティングの効果と実践方法」で詳しく解説しています。
電話によるフォローやトークスクリプトの活用
電話は、直接顧客の反応を聞きながら、双方向のコミュニケーションができる手段です。
押し売りなどと感じさせないようヒアリングや関係再構築を目的にすると、顧客の本音も引き出しやすくなります。
トークスクリプトの例としては、
- 「ご無沙汰しております。以前、弊社サービスをご利用いただいていましたが、その後いかがでしょうか?」
- 「ご意見やご要望をお伺いしたいのですが、お時間よろしいでしょうか?」
このように、相手を気遣いながら丁寧に進めることで信頼感を築けます。スクリプトは成功例を参考にしつつ、都度見直しを行っていくとよいでしょう。
DM・郵送やFAXでのご案内
デジタルでの接点が薄い顧客層には、DMや郵送・FAXが効果を発揮します。手元に「モノ」として届くことで印象に残りやすく、「限定特典」や「記念日プレゼント」など特別感を強調した案内が有効です。
参考として、日本航空が3年利用のなかった顧客に「押し花入りフォトフレーム」を送付し、サイト訪問率が10倍に増加した例があります。
ポイント失効間近の案内はがきを送ることで、再来店率を高めるスーパーマーケットの例も多いですね。DM送付後に電話などで追加フォローを行うことで、より接点を増やせます。
マーケティングオートメーション(MA)の活用
MAツールは、休眠顧客の掘り起こしを効率化する強力な武器です。例えば「3カ月連続でメール未開封」「最終購入日から半年経過」などの条件を自動検知し、該当する顧客に段階的なメールを配信します。
また、メール開封や資料ダウンロードなどの行動に応じてスコアリングを行い、関心度が高まった顧客は営業担当者にアラート通知することも可能です。
これにより、最もタイミングの良い時期に個別対応ができる体制を作れます。
この1ページで解決!MAツールの主な機能、メリット/デメリット、選定ポイントを徹底解説
セミナーやウェビナー、展示会へのご招待
単なる営業ではなく、価値ある情報提供として、セミナーやウェビナー、展示会への招待も効果的です。
トレンド解説や他社事例など、「参加する意味」を感じてもらえる内容を準備しましょう。
参加できなかった方にも、後日資料や録画動画を送ることで追加の接点をつくれます。
イベント後はアンケートや相談会などを行い、顧客の本音や新たなニーズを探ることもおすすめです。
休眠顧客向けアンケート実施
休眠の理由や現状の不満、今後期待する改善点など、アンケートを通じて直接ヒアリングするのも有効です。
アンケート結果を元に、個別アプローチや社内での商品・サービス改善につなげていきましょう。
質問例:
- 「ご利用を停止された主な理由を教えてください」
- 「再度ご利用いただける場合、どのような点の改善を期待しますか」
- 「現在はどのようなサービスで課題を解決していますか」
回答内容を分析し、改善策や再提案の材料として活かしてみてはいかがでしょうか。
【アプローチ方法別 比較表】
| 手法 | コスト | パーソナライズ性 | 即時性 | 主な用途・ポイント |
| メール配信 | 低 | 中~高 | 高 | 一斉告知やステップメール。件名・本文の最適化が重要 |
| 電話フォロー | 高 | 高 | 高 | BtoBや高単価商品向け。ヒアリング重視で押し売り感を避ける |
| DM・郵送・FAX | 中~高 | 高 | 低 | デジタル接点が少ない層や特別感の演出、クーポン利用などに有効 |
| MAツール活用 | 中(導入費) | 非常に高い | 高(自動) | 顧客ごとに最適化された自動シナリオで効率化と成果向上 |
休眠顧客の掘り起こしの進め方と注意点
成果を最大化するためには、ただ手当たり次第にアプローチするのではなく、しっかりとした準備とプロセスが大切です。
休眠顧客の定義とリスト整理
最初に自社の「休眠顧客」を定義しましょう。何カ月連絡がなければ休眠とするか、また取引額や取引頻度などで分類するなどが有効です。
リストはRFM分析(最終購入日、購入頻度、購入金額)などの指標で分け、優先順位を付けて管理しましょう。反応が期待できる顧客から順にアプローチすることで、限られたリソースを有効活用できます。
RFM分析の具体的な手法や売上への応用については、「売上分析で成果を引き出す! 売上分析の方法と実践ポイント」をご覧ください。
関連売上分析で成果を引き出す! 売上分析の方法と実践ポイント
顧客心理や離反理由の把握に注力
なぜ顧客が離れてしまったのか、仮説を立てて検証しましょう。たとえば「価格が合わない」「サポートへの不満」「存在自体を忘れていた」など、理由ごとにアプローチ内容を変えることで、再接点の効果が高まります。
ヒアリングやアンケートで直接意見を集め、データと照らし合わせながら本当の課題を把握してください。
アプローチ方法は複数組み合わせて検証する
一度のメールや電話で反応がなかった場合も、あきらめずに他の手法を試してみましょう。
複数のチャネルを段階的に組み合わせ、反応や成果を数値で管理・比較することで、ほかの効果的なパターンを見つけられます。
また、施策ごとのABテストを行うなど、常に改善、施策をし続けることもポイントです。
ただし、連絡頻度が多ければ逆効果になるので適切なタイミングを意識しましょう。
BtoB、BtoC別で気を付けたいポイント
顧客へのアプローチの仕方は、業種や顧客層によって最適な手法や注意点が異なります。
BtoB、BtoCそれぞれのポイントを確認しましょう。
BtoB向けビジネスで重視すべきポイント
BtoBでは、まず担当者の異動や退職が多いため、現状の窓口が誰かを確認することが最重要です。
新しい担当者が分かった場合は、丁寧な挨拶メールを送り、今後の関係再構築につなげてください。
また、BtoB顧客は合理性や費用対効果を重視する傾向があります。
業界動向や法改正対応、他社事例など、ビジネス価値の高い情報提供が効果的です。
一度で結果を求めず、長期的な関係構築を意識して定期的にフォローしましょう。
BtoC向けビジネスの工夫ポイント
BtoCの場合は「特別感」を演出するパーソナライズがカギです。
メールやDMに顧客の名前を入れたり、誕生日・記念日・季節イベントといったタイミングを活かして、クーポンやポイントの案内を届けましょう。
デザインや内容にも一工夫し、「自分だけが選ばれた」という印象を持ってもらうことで、再度の購買行動を促しやすくなります。
休眠顧客の掘り起こしに欠かせないツールとノウハウ
効率的に成果を上げるためには、情報管理やナレッジの共有体制が不可欠です。
ここでは、活用したいツールや社内ノウハウについて解説します。
「顧客管理はなぜ営業活動に重要なのか? 」も併せてご覧ください。
CRM、MAツールの導入でリスト管理と効率化を図る
CRM(顧客関係管理)ツールを使えば、顧客ごとの履歴や反応を一元管理できます。
これにより、誰でも最新の情報をもとに、最適なタイミングと内容でアプローチできるようになります。
さらにMA(マーケティングオートメーション)ツールを組み合わせれば、属性や履歴に合わせた自動配信やスコアリングも可能です。
これらを活用することで、営業担当者は確度の高い顧客に集中でき、効率よく成果を出せます。
トークスクリプトやメール例文の蓄積・共有
成果の出た電話トークやメール文面をテンプレート化し、社内で共有しましょう。
一人のノウハウを全員で活用できれば、全体のレベルアップにつながります。
また、定期的に内容を見直し、時代や顧客ニーズの変化に合わせてアップデートすることが大切です。
部門横断で連携し、顧客ごとに最適な提案を行う
営業・マーケティング・カスタマーサポートなど、部門間の情報共有が成果を大きく左右します。
サイロ化(部門ごとの情報分断)を防ぐため、定例会議や情報共有会を開き、進捗や成功事例をシェアしましょう。
また、MAツールなどのアラート機能を活用し、関心が高まった顧客の情報を素早く営業担当に引き渡す仕組み作りも有効です。
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