
急激に変化する市場環境の中で、企業にはより迅速な経営判断と業務効率化が求められています。そうした中、経営資源を一元管理し、企業の基幹業務を支える「ERPシステム(Enterprise Resource Planning)」の導入が注目を集めています。
本記事では、経営層や情報システム部門の担当者向けに、ERPの基本概念やクラウドERPとオンプレミスERPの違い、導入プロセスやメリット・デメリットを分かりやすく解説します。併せて日本企業に採用シーンがある主要のSaaS型ERPを中心に、おすすめのERP製品(全34製品/2025年10月時点)の詳細情報をピックアップしました。これからERP導入を検討する企業にとって、実用的な判断材料となる内容を提供します。
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目次
ERPの基礎知識
ERP(Enterprise Resource Planning)は、企業の基幹業務を横断的に管理し、経営資源の最適活用を支援するERPシステムです。ここではまず、ERPの基本概念と従来の業務システムや基幹システムとの違いを整理します。
ERPとは?
ERPとは企業資源計画(Enterprise Resource Planning)を意味し、ヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源を一元的に管理・活用するための考え方を指します。現在ではこの概念を実装するための統合型業務システム、すなわちERPシステムを指す場合が一般的です。販売管理や財務会計、人事・給与などの部門をまたいでデータを統合し、業務プロセスの効率化と経営判断の迅速化を実現します。
ERPと業務システムの違い
ERPと従来の業務システムの大きな違いは「範囲の広さ」と「統合性」です。一般的な基幹システムは、生産管理や財務会計など、特定部門の業務をサポートするものが中心です。一方、ERPシステムはそれらの機能を包括し、部門間の情報をリアルタイムで連携することで、全社レベルでの業務最適化を実現します。
例えば、生産、販売、会計、人事といった各分野におけるデータが、ERPシステム上で一元化されることにより、部門間の壁を超えた柔軟な情報共有や迅速な意思決定が可能になります。これにより、経営全体の可視性が高まり、競争優位性の強化にもつながります。

ERPを導入するメリットとデメリット
ERPシステムの導入は、企業に多くの利点をもたらす一方で注意すべき点もあります。ここではそれぞれを俯瞰してメリット・デメリットを確認していきましょう。
ERPを導入するメリット
ERP導入の最大の利点は、部門ごとに分散していた業務データを一元管理できることです。情報の整合性が高まり、データの重複や入力ミスといったヒューマンエラーの可能性を大きく減らせます。結果として、業務の正確性とスピードが向上し、全体の業務効率化とコスト削減につながります。
また、リアルタイムで最新の経営情報を取得できるため、経営者や管理者・マネージャーはデータに基づいた的確な判断が可能になります。ERPの導入は、企業の競争力を高め、ガバナンス強化やコンプライアンス順守の基盤ともなり得ます。
ERP導入の注意点
一方で、ERP導入には初期コストや運用負担といった注意点も存在します。システム構築やカスタマイズ、運用・保守には継続的なコストが発生し、特に中小企業にとっては導入負担が大きくなることもあります。
さらに、ERPシステムには企業の重要情報が集約されるため、セキュリティ対策(見直し、強化)が必須です。万が一情報漏えいが発生した場合、企業の信用に深刻な影響を及ぼすリスクがあります。そのため、体制そのもの、暗号化やアクセス制御、バックアップなど、多層的なセキュリティ対策を講じる必要があります。
加えて、ERP導入は単なるITツールの刷新ではなく、多くのシーンで業務フローや企業文化の再設計を伴うプロジェクトとなります。新しいプロセスへの適応には時間を要し、また全社的な合意形成や教育が求められることも忘れないようにしましょう。
ERPの主な種類
ERPシステムは構築場所や開発方式、業務のカバー範囲によって複数の形態が存在します。ここでは代表的な分類方法と、それぞれの特徴やメリット・デメリットについて解説します。
システム構築場所による分類:オンプレミス型とクラウド型
ERPはシステムの設置形態により、主に「オンプレミス型」と「クラウドERP」に分けられます。選定時は、コスト、柔軟性、セキュリティ、運用負担などのバランスを見極めることが重要です。
・オンプレミス型
オンプレミス型ERPは、自社でサーバやインフラを構築し、ERPシステムを社内ネットワーク内で運用する方式です。セキュリティ要件に厳格な業種や、大規模なカスタマイズが必要な企業に適しています。
オンプレミス型のメリット
- 自社環境に合わせた高度なカスタマイズが可能
- データを完全に社内で管理でき、情報漏えいリスクを軽減
オンプレミス型のデメリット
- 初期費用や運用コストが高く、導入までの期間も長期化しやすい
- サーバ管理やアップデートなど、自社に高いITリソースが求められる
・クラウド型
クラウドERPは、ベンダーが提供するクラウド環境上でERP機能を利用する方式です。多くの製品がサブスクリプション型課金モデルを採用しており、導入のハードルが低くなっています。
クラウド型のメリット
- 初期投資を抑えつつ、スピーディな導入が可能
- 自社での保守・運用が不要で、テレワーク環境からもアクセス可能
クラウド型のデメリット
- カスタマイズには制限があり、仕様変更には追加費用が発生することもある
- セキュリティや可用性の多くをベンダーに依存する
(以降、本記事では、近年導入実績が急増している「クラウド型ERP」を中心に解説を進めます)
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開発方式による分類:パッケージ型とフルスクラッチ型
ERPシステムの構築方法には、あらかじめ設計されたシステムを活用する「パッケージ型」と、完全に自社専用で開発する「フルスクラッチ型」があります。
・パッケージ型
パッケージ型は、既存の業種別テンプレートをもとに構築される方式です。中小企業から大企業まで幅広い導入実績があります。
パッケージ型のメリット
- 短期間で導入可能、初期費用も比較的低コスト
- 製造業、小売業、医療、金融など業種特化パッケージも豊富に存在
パッケージ型のデメリット
- 業務プロセスをシステムに合わせる必要がある
- カスタマイズ性に制限がある場合が多く、適応性に課題が残る
・フルスクラッチ型
自社の要件に完全に合わせて開発される方式で、主に大規模企業や特殊業務に対応する業種で採用されます。
フルスクラッチ型のメリット
- 独自業務に完全適合し、柔軟な拡張・連携が可能
- 長期的な運用における自由度が高い
フルスクラッチ型のデメリット
- 高額な初期投資と長期間の開発プロセスが必要
- 内製開発または高度なベンダー選定が求められる
カバー範囲による分類:完全統合型・コンポーネント型・特化型(業務ソフト型)
全事業のうちERPがどれくらいの範囲をカバーするかによっても、選ぶべきシステムの特性は変わってきます。ERPが担う業務の幅により、次の3つのタイプに分類できます。
- 完全統合型
- コンポーネント型
- 業務ソフト型
それぞれの特徴やメリット・デメリットは以下の通りです。
・完全統合型
すべての基幹業務(会計・人事・在庫・販売など)を1つのプラットフォームで包括するタイプです。
完全統合型のメリット
- 情報の重複や分断がなくなり、データ連携・業務最適化が実現
- 経営情報のリアルタイム可視化が可能
完全統合型のデメリット
- 導入には詳細な業務要件の洗い出しと大規模な計画が必要
・コンポーネント型
コンポーネント型ERPは、必要なシステムや機能を選んで組み合わせていく形態です。
コンポーネント型のメリット
- 必要な業務に絞って導入可能、コスト最適化に効果的
- スモールスタートが可能で、段階的なスケーラビリティにも対応
コンポーネント型のデメリット
- 機能ごとにベンダー依存が強くなり、「ベンダーロックイン」が起こりやすい
・特化型/業務ソフト型
特化型/業務ソフト型は、会計・人事・生産管理といった特定の業務に特化したパッケージ製品群の形態です。その業務特有のニーズや要件に最適化された機能を持ちます。
特化型/業務ソフト型のメリット
- 初期導入が簡単でコストも抑えやすい
- 専門業務に最適化されているため使いやすい
特化型/業務ソフト型のデメリット
- 全社的な情報統合やプロセス最適化には限界がある
ERPを導入する流れ
ERPを導入する際には、詳細な計画と複雑なプロセスが必要です。各ステップを適切に進めることで、導入後にはERPの性能を最大限に生かせるでしょう。ここでは、ERP導入時に押さえるべき7つのステップについて紹介します。
- Step1. 導入目的と課題の明確化
- Step2. プロジェクトメンバーおよび各部署の担当者を選定
- Step3. 該当する業務プロセスの把握・整理
- Step4. 製品の評価と選定
- Step5. 新業務フローの構築
- Step6. システムの切り替え準備・テスト運用・社内マニュアル作成
- Step7. 本格運用
Step1. 導入目的と課題の明確化
まずは「ERP導入で何を実現したいのか」を明確にすることが不可欠です。たとえば「業務効率化」「データの一元管理」「リアルタイム経営の実現」といった目的を定義し、それに基づく課題(例:既存システムの分断、情報の属人化など)を洗い出します。
このステップでは、将来的な業務像を描きながら必要なERP機能をリストアップし、後続の要件定義・製品選定の指針とします。
Step2. プロジェクトメンバーおよび各部署の担当者を選定
次に、ERP導入を推進するためのプロジェクトチームを編成します。経営層の責任者、各部署のキーパーソン、情報システム担当者、必要に応じてERPベンダーやコンサルタントも加え、横断的な連携体制を構築します。
このステップで、業務部門とのコミュニケーションを密に取り、導入に対する理解と協力を得ることが成否を分ける重要要素です。
Step3. 該当する業務プロセスの把握・整理
ERPの価値を最大化するには、現状の業務フローを正確に把握し、ボトルネックや非効率な業務を明確にする必要があります。業務ヒアリングや業務マッピングを通じて、「あるべき業務プロセス」を描き出し、ERPで改善すべき領域を具体化します。
このプロセスは、後のシステム設計とカスタマイズ範囲の明確化にもつながります。
Step4. ERP製品の比較・評価・選定
自社要件を整理した上で、複数のERP製品を比較・検討します。製品の機能性、操作性、拡張性、ベンダーのサポート体制、カスタマイズ性、導入コストなど多角的な視点から評価を行い、自社ニーズに最も適したERPシステムを選定します。
無料トライアルやデモ環境を活用して、実際の業務との適合性を確認することもポイントです。
Step5. 新業務フローの構築
選定したERP製品の機能に合わせて、効率的な新業務フローを設計します。現場担当者と協力しながら、運用マニュアルや業務ルールを整備し、実業務にスムーズに移行できるような体制を構築していきます。
同時に、ERPに適した業務標準化やプロセス改善の視点も取り入れましょう。
Step6. システムの移行準備・テスト運用・社内マニュアル作成
ERPシステムの本番稼働前には、以下の3つの準備が必要です。
- データ移行:既存システムからERPへ正確にデータを移行する作業。データ整備と変換ルールの策定が重要です。
- テスト運用:想定される業務シナリオで操作検証を行い、問題点や仕様漏れを事前に洗い出します。
- マニュアル作成・教育:全社員が新システムを活用できるよう、操作マニュアルの整備と研修の実施が不可欠です。
Step7. 本番運用と定期的な効果検証・改善
ERPシステムを正式に稼働させた後/導入がゴールではありません。業務における実効性を定期的に評価し、必要に応じて業務フローやシステム設定の見直しを行いながら、継続的な最適化を図ることが求められます。
ERPは使い方次第で企業競争力を大きく左右する存在です。業務に定着させ、持続的な成果を出すには、導入後の「運用フェーズこそ最も重要」といえます。
日本企業で採用例が多い主要ERP およびおすすめのERP製品 34選
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