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第一回:コピーは何回? それとも禁止?特集:私的複製はどこへいく?(2/2 ページ)

» 2004年08月25日 17時55分 公開
[渡邊宏,ITmedia]
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 VHSからVHS、CDからカセットテープへのコピーには画質・音質の劣化が存在する。CDからMDへのコピーは劣化の少ないデジタルコピーだが、CD→MD→MDの孫コピー作成を技術的に禁止し、ブランクのMDメディアに「録音補償金」をあらかじめ上乗せすることによって、著作権者側にも利益が発生するモデルが構築されている。

 つまり、コンテンツのデジタル化において著作権者側は、複製において劣化が発生するか、複製するならばその枚数を限定し、なおかつ、何らかの金銭的な補償を得ることができればよい、というスタンスを取ってきたわけだ。

 しかし、著作権物を扱う道具としてのPCや高性能なデジタル家電、映像も視聴可能なポータブルプレーヤーなどが登場・普及し、高品質なデジタル放送やインターネットを利用した音楽配信サービスも開始された今、これまでのルールだけでは対応できなくなっている。

 レーベルゲートCDでは1回までHDDへの複製を無料で許可し、Moraのようなインターネット音楽配信サービスでは複製に関し、「同時に3カ所まで存在する」ことを許すなどのルール付けを行っている。だが、「1回」や「3カ所」といった回数になんら根拠はなく、コンテンツ提供者側が独自にルールを設けているに過ぎない。

 新しいサービスが提供されようとしている今、これまで行われてきた私的複製に対しての考え方や、その方法は再考されるべき時期に来ているのではないだろうか?

コピーワンスを推進するTV業界、「これまでが例外的な状況だ」

 BS/地上デジタルでは、今年4月5日からコピーは1回だけ(コピーワンス)という著作権保護が開始されている。

 このコピーワンスでは、番組に「1回だけ録画可能」という制御信号が付加されており、1回録画すると、後はHDD→DVDなどの移動(ムーブ)しかできない。一度ムーブされた番組の元データは消去される。また、CPRMに対応したレコーダーとメディアでなければムーブも不可能だ。

photo 4月5日から導入されたコピーワンスのルール。地上民放127社、BS民放5社、NHKというすべての放送事業者がこのルールに従うことを確認している

 「放送事業者が持っているのはあくまでも著作隣接権。著作権者の権利を守れなくては、流通の手段として放送事業者が信頼されなくなってしまう。そのためには、できる限りの防止策を採らなくてはならない」「ルールは“1回だけは録画できる”。私的録画的なものは家庭に1つあればいいと言うのが基本姿勢」

 ビーエス・アイ 取締役 管理・技術本部長の藤井彰氏は、放送事業者としての基本姿勢をそう表現する。インターネットや記録型DVDなどが普及し、録画した放送を高いクオリティで他人に手渡すことが容易になった今こそ、自由に録画と複製ができたこれまでの状況が“例外”であったことを喚起したいという。

 コンテンツ保護に対しての基本姿勢は今後も変わらないという藤井氏だが、コピーワンスの導入でユーザーがある種の窮屈さを感じているのも事実。

 「コピーワンスの導入は受け入れられていると感じている。マニア層からの批判はあるが、趣旨を説明して理解してもらっている。不満があるからといってコピーフリーで放送すると言うことはあり得ない」

 しかし、多くのPCにTV録画機能が搭載され、HDD/DVDレコーダーも大きな伸びを見せており、視聴スタイルが変化している。また、コピーワンスのルールに従うと、ポータブルプレーヤー用にメモリーカードへ映像をムーブした場合、元の画質に戻すことは不可能だ。そうした現状を顧みても、基本姿勢は変わらないのだろうか。

 「当然、メーカーや関係官庁とも話し合いは続けている。メモリーカードへのムーブ問題もあるが、そのカードを販売されてしまうと一つのビジネスになってしまう可能性がある。可能性がある限り、権利保護としては不完全だと考えている」

 藤井氏はホームサーバのような使い方においても、「コンテンツがホームサーバ上に1つだけあれば問題はないと考える。複数の部屋にコピーが存在してしまう状況は望ましくない」と基本姿勢の維持を主張する。

 ただ、藤井氏は「ビール片手に気軽にナイターを見たりと、TVとは本来とても素朴なもの」と、技術や法律で厳格にルールを適用するのもふさわしくないと言う。

 「理想としては、コピーワンスの考え方が定着してくれればと思うが……。ホームサーバやポータブルプレーヤーへの持ち出しといった新しい視聴スタイルはかなり先端的なもので、現実的にはTVの世界はもっと素朴なもの。画質や音質は進化・向上していくが、そう本質は変わらない」

 では、その基本姿勢が変わる可能性はあるのだろうか?

 「それは考えていない。コピーを不可能にすることも技術的には可能だが、それはしない。同様にコピーフリーもあり得ない。技術論で言えば、番組ごとにコピーに関するルールを切り替えることも可能だが、放送事業者としてはそうした方法を選択する考えは全くない」

 高品質放送においてはコンテンツの充実が鍵を握るとは以前から言われていること。放送の画質が向上するに従って、「気軽に楽しんで欲しい」という思いと、「可能な限りコピー(録画)は限定的なものにしたい」という2つの相反する目的を求めたい放送事業者の苦悩は深まる。その妥協案として考え出されたのがコピーワンスといえるようだ。

 「基本姿勢を厳格に運用しようとすれば、問題が発生することは避けられない。ビジネスに影響が出るならばとにかく、ある程度は性善説で対処していく方法を模索したい」


■音楽業界ではCCCDでPCへの複製を制限する一方、音楽配信などPCやHDDプレーヤーを利用した楽しみ方を提案している。今、私的複製について彼らはどう考えているのだろうか。

第二回:「コピーの全否定は問題」――音楽業界のジレンマに続きます


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