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第四回:“デジタルホーム”は、意外と不自由特集:私的複製はどこへいく?(3/3 ページ)

» 2004年09月22日 08時34分 公開
[渡邊宏,ITmedia]
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 現在、地上波の録画・編集・保存をPCで行っているユーザーからすれば、放送がアナログからデジタルに変わっただけでこうした制約が生じてしまうことは、当たり前の話だが、“不便”と感じてしまうだろう。

 この点について、PCやHDDレコーダーに収められたコンテンツを、イーサネット経由で他のPCやSTBに出力するソリューション「DiXiM(ディクシム)」を開発するデジオンの田浦寿敏氏(代表取締役社長)は次のように語る。

DiXiMの利用イメージ図。IPネットワーク内のどこにあるコンテンツでも自由に好きな端末から閲覧することができる。その際、コンテンツはムーブされるのではなく、表示装置に映し出されるのみとなっている

 「CPRM/CPPMで保護されたコンテンツを、DTCP/DTCP-IPという伝送路に乗せるというアプローチについては、業界内のコンセンサスがほぼ取れた状態になっている。デジタルホーム構想の中心的な技術がDTCP/DTCP-IPになることは間違いない」

 「しかし、“PCで著作権保護を施したコンテンツを扱う際、(PCIなどの)汎用バス上にそのままデータを流してはいけない”というARIBの規定がネックになる。PCがDTCP-IPのクライアント機器として利用されるかどうか、先行きは不透明と言わざるを得ない」

 ここで言うARIB(アライブ/電波産業会)の規定とは、地デジについて「暗号化されていないデジタルデータを汎用バス上に流してはいけない」というものだ。そのため、チューナーなどからの入力信号がPCに入る際には、PCIなど汎用バスへデータが流れる前にハードウェアで処理をする必要がある。これはコスト増につながるほか、ソフトウェアでの処理が不可能になることから、PC(=汎用機)としての性格から逸脱することにもなりかねない。

 田浦氏の述べるよう、デジタルホームの構想において「CPRM/CPPMで保護されたコンテンツを、DTCP/DTCP-IPという伝送路に乗せる」という考え方が主流になるならば、デジタルホームの環境下において基本的にはコンテンツの複製は許されず、録画機(購入機)以外の家庭内機器でコンテンツを楽しみたいときには、IPネットワークやIEEE1394などの伝送路を使って、表示のみを他の機器でも行うということになる。

 ムーブはDTCP/DTCP-IPにも規定されているが、DTCP/DTCP-IPで転送(ムーブ)を行う際には、送受信時に暗号化/暗号解除の手順を踏むことが必要になるので、機器側で行う処理の負担が大きくなり、処理時間も長くなる可能性が高い。「特に機器から機器へのムーブとなると、転送時に暗号化/暗号解除が必要になるので、ムーブに実時間と変わらない時間が要求されるかもしれない」(田浦氏)

 また、これは現時点でも問題になっているのだが、ポータブルプレーヤーで権利保護を施された映像を楽しむ際、一度転送のために画質を落とした映像は、元の画質に戻すことができないという問題がある。この問題は、DTCP/DTCP-IPが普及しても解決することはない。

 これは、現在の権利保護の仕組みでは、コンテンツとその権利が“一体化”しているために起こる問題であり、田浦氏も「コンテンツの実体と権利が分離でき、おのおのを管理する仕組みが構築されてなければ解決は難しいのではと」と問題を指摘する。

 また、田浦氏は、PCが当初からデジタルホーム構想の中に入り込むことは難しいのではないかとも予想する。PCの持つ汎用性と、コンテンツ権利者側が求める権利保護(私的複製の制限)の折り合いをつけるポイントがまだ見つかっていないからだ。

 ただ、AV機器に対応製品が登場しているデジタル画像信号の暗号化方式である「HDCP」をPC側でも実装しようとする動きがあることなどから、「なんらかのブレイクスルーはPCの側から起こるのではないか」とも述べる。


 既にいくつか発売されているLAN対応メディアプレーヤー(バッファローのLinkTheaterや、アイ・オー・データ機器のAVeL LinkPlayerなど)は、ネットワーク越しにコンテンツを手軽に利用できる。

 こうした利便性こそがユーザーがデジタルホームに求めているものであり、DTCP/DTCP-IPが利用されるようになった環境において、コンテンツの他デバイスの利用やムーブにユーザーが“窮屈さ”を感じてしまうようでは、やはり、それはこれまで自由にできた私的複製の権利を阻害されているように感じてしまうだろう。

 「業界内で完全に考えがまとまってから動くということはないのではないか。どこかが走り出して、それに追従する形になると思う」(田浦氏)

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