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御三家とは一線を画すクオリティ――ソニー“シネザ”「VPL-HS50」レビュー:劇場がある暮らし――Theater Style (2/7 ページ)

» 2004年11月05日 21時09分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 もちろん、単に絞りを変えるだけでは全体的に絵が明るくなったり、暗くなったりするだけだが、後述するように映像信号を適切に処理することで見かけ上のコントラストを向上させている。松下の「TH-AE700」が備えるダイナミックアイリスと同等の機能と言えるが、アイリスの可変幅が大きい分だけ、本機の方がコントラスト比が大きくなっている。

 加えて「やや騒々しい」との評価が定着していたHS20より大幅に静音化が計られ、三洋電機「LP-Z3」と同等の静かさを実現。上下にそれぞれ1画面、左右にそれぞれ0.5画面シフト可能なレンズシフト機能も便利(従来は電子的な台形補正のみ)。ズーム比も1.6倍あり、100インチワイドスクリーンならば2.9〜4.6メートルの範囲で投射できる。

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 レンズの解像度も高く、シフト最大時にもボケたり、色収差が発生することも無かった。ただし、上下と左右を同時にシフトさせると、シフトさせた方向の角に僅かな歪曲収差が現れ、ヒュンと軽く角が出たような形になる。気にしなければ気にならず、スクリーンいっぱいに映しておけば黒マスク部分に隠れて目立たない程度で、シャープさも考えれば悪いレンズとは言えないが、やや残念なところではある。

 筐体サイズや大きさを考えても、ひょいと手軽に取り出してサイドテーブルに置くといった使い方ではなく、棚の上や天井吊りなどで常設する場合のインストールのしやすさを向上させる機能と考えるべきかもしれない。

効果抜群のアドバンストアイリスが生む立体感

 本機でもっとも気になるのはやはり画質で「アドバンストアイリスを自動にした時に、どのような絵になるか?」だろう。結論から言えば、動的な制御にもかかわらず非常にうまく作り込んであり、従来の液晶プロジェクターにはない立体感のある映像が見えてくる。

 アイリスは絞り込むと液晶シャッターからの漏れ光が減って黒が沈むが、液晶パネルに当てる光量が減るため、画面全体が暗くなる。アイリスモードを自動にしておくと、暗い場面ではアイリスを絞るだけでなく、輝度の高いピクセルまで暗くならないようにより高い輝度へと不足する光量を補う画像処理が行われる。

 言い換えると、液晶パネルが持っているコントラスト比を最大限に活かし、シーン内で使われている輝度範囲にぴったりフィットするように画像処理を行い、光量をアイリスで調整することで、映像シーンに適応した高いコントラストを実現するわけだ。

 シネスコサイズの映画などで、上下の黒い部分を見ていると、シーンごとに細かくアイリスが変化しているのがわかる(黒レベルが変化する)が、見た目上、明るさや絵作りの統一感は保たれる。特に宇宙を題材にした映画では、宇宙がしっかりと黒く描かれ、暗い階調部分に見られやすい色かぶりも感じない素晴らしいものだった。

 一方で、人物だけに光が当たり、背景が暗く沈んでいるような状況も、高いコントラスト感で描かれる。この際、背景のディテールがしっかりと描かれる。ハリーポッターの蜘蛛と戦うシーンでの背景(漆喰の模様)は、アイリスモードを固定にしていると潰れてしまうが、オート時にはしっかりと階調が描かれ、スクリーンの上に浮き上がってくる。

 特にハイビジョン映像の縮小表示は美しく、解像度が損なわれずにI/P変換で1080Pとした後、720Pへとスケーリングされるため、実在感を感じる精細なディテールを伴った絵となる。

photo 色純度は十分に高く、赤も朱色っぽく色相がシフトすることなくしっかり赤く描写される。グレーや黄色に緑が被るようなこともない

 暗い背景の、本当はあるはずのテクスチャが見えないもどかしさは、本機のアイリスモード自動時には全くない。もちろん、DLPのようにカラーブレーキングや暗部のざわついた表現もない。ブラックマスク(画素間の格子)もさほど目立たず、色むらもほとんど見られない。

 ただしアイリスの自動調整も万能ではない。暗い場面で本来とは異なる色に若干変化したり、黒バックの人物の肌がやや飛び気味に描写されたり、シャドウにかけてのグラデーションで色相が回転している部分も少ないながら存在した。アイリスで光が変化しているのだから当然と言えば当然。

 メリットとデメリットを比べたとき、特にシャドウを強調したり、暗い背景の場面が多い映画ではメリットの方がはるかに大きいが、テレビ番組や明るい色調の映画、デジタルカメラ写真をスライドショーで見るといった場合には、アイリスを固定した方が良い結果になる場合もある。

 ここでやや残念なのは、アイリスを固定するモードが二つしかないことだ。絞り開放時とアドバンストアイリス・オンの設定(全閉よりもやや開いている)だけで、その中間は設定できない。部屋の明るさや投影するサイズによって絞りを調整し、黒沈みと白の輝きのバランスを取りたいといった場合の解決手段は残念ながらない。

 筆者が視聴した映画では、各場面で静止させない限りオート設定の方が良い結果が得られた。メーカー側もオートで使う事を推奨しているが、絶対的なコントラスト感よりも色の正確性や階調の滑らかさを重視するユーザー向けにも、この価格クラスならば対応してほしいところではある。

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