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「液晶」「プラズマ」どちらを選ぶ?麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(2/4 ページ)

» 2006年04月30日 04時10分 公開
[西坂真人,ITmedia]

――動画応答性は、どうでしょうか?

麻倉氏: 改善が見られる視野角と比べて、動画応答性は数値では向上しているのですが、人間の感覚的にはまだ改善が欲しいところです。従来に比べると、動き追従の感度は高くなってきているのですが、まだ違和感があります。大画面になればなるほど、人間は動きに対してより敏感になります。今後、テレビ需要の火付け役として期待されるワールドカップ観戦などでは、動画応答性がより求められますので、液晶もさらに頑張らなくてはいけませんね。

 動画応答性ではOCB液晶に期待していたのですが、なかなか製品が出てこないのは、生産性の問題があるのでしょうね。ライバルであるプラズマの低価格化で大画面市場での競争が激しくなり、画質改善するにあたってのパネル方式変更はコスト面でなかなか難しくなっているのです。結局、作り慣れた方式に絞って、その中でいかに欠点を改善していくかがカギになっているのが液晶の現状ですね。

 もっとも液晶メーカーには、欠点を徹底的に直そうという、ある意味で強迫観念めいたものがあります。デバイスエンジニアには、特にサバイバルへの欲求が強いのです。その意味ではサバイバル欲求とソリューション(問題解決)が、技術開発に好影響を与えていますね。

――つまり、3悪のうち「視野角」と「動画応答性」はかなり改善、もしくは今後よくなる可能性が高いのですね。

麻倉氏: ええ。ですが、バックライトを使う液晶には「暗所コントラスト」の問題が最後まで残るわけで、それを解決しないかぎり、結局は「明るい部屋で観る」しかない特定環境向けの特別なディスプレイになってしまうのです。特に映画を観る時、コントラストの問題は避けて通れません。

 ただしまったく見込みがないわけではなく、シャープのメガコントラスト液晶のようなコントラスト改善技術には期待したいですね。業務用に使うと言ってますが、これを民生用にうまく使えば、液晶の最大のデメリットが解消されるかもしれません。しかし黒が沈むだけではダメですね。柔らかい黒、暖かい黒、艶っぽい黒……というように、黒の質感再現は、液晶はもっともっと頑張らなければなりません。

photo シャープのメガコントラスト液晶

――現在のところは、液晶は映画鑑賞向きではないということですね。

麻倉氏: そうはいっても、実は、プラズマにはない映画向きのメリットが液晶にはあるのです。それは「暗部階調の再現性が非常いい」という特徴です。液晶は黒は浮きますが、それより明るい階調部分の再現が、アナログ階調ゆえに素直なのです。そのため、液晶はコンテンツが持つガンマカーブにそった対応がとりやすいんですよ。その意味では液晶の今後のポイントは、暗所コントラストをいかに改善し、映画に向いている暗部階調性の良さというのをいかに引き出すかにかかっていると思います。

 ただ、果たして液晶でそういった製品が出てくるのかどうか……。視野角と動画対応、この2つは市場からの要求もあり対策しやすいのです。しかし、暗部コントラストの改善には“哲学”が必要になります。「液晶を映画に最適なディスプレイにする」という強烈な思いがなければ、課題克服は難しいでしょうね。

プラズマの将来は明るい?

――さて次はプラズマの進化について教えてください。昨年秋の閻魔帳「プラズマテレビの逆襲」でも取り上げましたが、昨年後半からプラズマ市場がかなり活気づいてきましたよね。

麻倉氏: そうですね。特にここ最近での最大の話題は「フルHD」でしょう。デジタル放送の高精細映像を大画面でドットバイドット表示し、スケーリングせずに元のソースが観られるフルHD対応は、ユーザーが待ちに待った機能といえます。

 液晶の方は65V型から下は37V型までフルHD製品が出てきていましたが、プラズマでフルHD化を果たしているのは(国内市場では)松下の65V型「TH-65PX500」のみという状況でした。それが、今月4月にパイオニアから登場したピュアビジョン「PDP-5000EX」は、非常に難しいとされていた50インチでのフルHD化を実現したのです。

photo 50V型でフルHD化を果たしたパイオニアのピュアビジョン「PDP-5000EX」

――“フルHD"を高画質の宣伝文句のように使うケースが多いですよね。

麻倉氏: フルHDに対応すれば、すべて映像がよくなるということではありません。決して「フルHD=高画質」ではないのです。それは単に1920×1080というプラットフォームで表示できるようになったというだけで、重要なのはその中でどのくらいフォーカス/鮮鋭感/SN/階調性/コントラストなどをきちんと出せるかなのです。

 私は以前から「今の段階ではフルHDのメリットより、ワイドXGAぐらいでもコントラストや階調をしっかり出せる方が大事だ」と主張していたのですが、それをあらためて実感させてくれたのは、パイオニアの昨年秋のモデルでした。この製品は、黒の再現性、階調性、ノイズの少なさなどが高い次元で調和していましたが、今月4月に発表された新しいピュアビジョンは、そのクオリティをそのままフルHDにした製品なのです。

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