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CESで分かった、2009年のトレンド麻倉怜士のデジタル閻魔帳(3/3 ページ)

» 2009年01月23日 11時15分 公開
[渡邊宏,ITmedia]
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IPTVの進化

麻倉氏: IPを通じてコンテンツを送受信する、いわゆるIPTVも注目すべきサービスです。これからは、テレビが放送とパッケージだけではなく、IPコンテンツまでも含めて対応する時代になることがCESの会場からは感じられました。

 日本ではIPTVといえばアクトビラが中心ですが、アメリカではYahoo!やGoogleなどコンテンツアグリゲータの提供するサービスを使う形態が中心となります。北米パナソニックの担当者に話を聞き続けて10年近くになるのですが、今回、北米では半数近い家庭でテレビにPCをつないでいるという話をはじめて聞きました。日本ではあり得ない話でしょう。

 これはアメリカではPCの地位が高いということを示す話ですが、テレビがIPサービスの受信機になり、YouTubeなどを直接利用できるようになれば、より利用者にとっての利便性が増すということを示す例でもあります。

photo 「VIERA CAST」から、テレビ単体でYouTubeやPicasa、Amazon Videoなどを利用できる

 パナソニックは今回のCESでIPサービス「VIERA CAST」に、Amazon Videoを新たに対応させると発表していますが、Samsung ElectronicsやソニーなどはYahoo!ウィジェット対応を進めています。いずれにしても、アグリゲーター側からすればどれだけのテレビメーカーを取り込めるかが焦点となります。これもこれも“画面の中で何をするか”が重要になるという、新しいテレビの在り方を感じさせる潮流ですね。

 テレビ本体だけではなく、BDプレーヤーがIPサービスに対応し始めたことにも注意を払わなくてはいけません。LG Electronicsは昨年夏にNetflixのストリーミングが受信可能なBDプレーヤー「BD300」を発売していますし、Samsungやソニーも追従する動きを見せています。

 これらの機器は直的的にはIP機能を持たないテレビを補完するという側面を持ちますが、パッケージ(BD)プレーヤーとして販売されているのに、パッケージがなくてもIPで各種のコンテンツが楽しめてしまうのです。パッケージメーカーからすれば自らの利益に反するという見方もできますが、多くのメーカーがパッケージ販売の付加価値としてIPサービスをとらえています(→IPTVやコンテンツダウンロードはBDのライバルではなく仲間 〜ディズニースタジオ上席副社長インタビュー)。

 「IPサービスが普及すれば、最終的には映像のデリバリーはすべて配信になる」という極論もあるようですが、パッケージには高い画質やメディアを利用することによる安定性、配信には手軽さといった、互いにないメリットがあります。この2つは今後も共存していくことでしょう。

 ここまではテレビを中心に見てきましたが、シリコンイメージの提案するプロトコルスタック「LiquidHD」も非常に興味深いものです。これは次世代HDMIの持つ双方向のネットワーク機能を利用することで、すべての機器がフラットに接続されてコンテンツはもちろん、機能までもシェアします。これまでホームネットワークというとDLNAに代表されるクライアント/サーバー方式でしたが、「LiquidHD」はそれぞれが完全にフラットであるところに、これからのトレンドを感じさせますね。

 また、ネットワークといえばWireless HD(WiHD)の相互接続テストがCESでも行われていました。ネットワークによる映像伝送にはいくつかの方式がありますが、理想的なのはやはりWiHDでしょう。WiHDの責任者は「コンテンツの品質を落とさないために非圧縮でいく。今ある技術の積み重ねではなくて、ハードルは高くてもその目標を変えなかった」といいます。

 やもすれば新技術といえば、手軽さや利便性の重視に走りがちですが、掲げた目標に向かい、努力を積み重ねたからこそ、デファクトの地位を得ることができたのではないかと感じました。今回のCESは目立ったトピックこそ少なかったですが、細部に目をやれば、WiHDのように、情熱をもってもの作りにあたっている人々や現場、技術を発見することができました。そうした意味では、大いに収穫があったと思います。

photo LVCC(Las Vegas Convention Center)前にて

麻倉怜士(あさくられいじ)氏 略歴

 1950年生まれ。1973年横浜市立大学卒業。 日本経済新聞社、プレジデント社(雑誌「プレジデント」副編集長、雑誌「ノートブックパソコン研究」編集長)を経て、1991年にデジタルメディア評論家として独立。自宅の専用シアタールームに150インチの巨大スクリーンを据え、ソニー「QUALIA 004」やBARCOの3管式「CineMAX」といった数百万円クラスの最高級プロジェクターとソニーと松下電器のBlu-ray Discレコーダーで、日々最新AV機器の映像チェックを行っている、まさに“映像の鬼”。オーディオ機器もフィリップスLHH2000、LINNのCD12、JBLのProject K2/S9500など、世界最高の銘機を愛用している“音質の鬼”でもある。音楽理論も専門分野。
 現在は評論のほかに、映像・ディスプレイ関係者がホットな情報を交わす「日本画質学会」で副会長という大役を任され、さらに津田塾大学の講師(音楽史、音楽理論)まで務めるという“3足のワラジ”生活の中、精力的に活動している。

著作


「オーディオの作法」(ソフトバンククリエイティブ、2008年)――音楽を楽しむための、よい音と付き合う64の作法
「絶対ハイビジョン主義」(アスキー新書、2008年)――身近になったハイビジョンの世界を堪能しつくすためのバイブル
「やっぱり楽しいオーディオ生活」(アスキー新書、2007年)――「音楽」をさらに感動的に楽しむための、デジタル時代のオーディオ使いこなし術指南書
「松下電器のBlu-rayDisc大戦略」(日経BP社、2006年)──Blu-ray陣営のなかで本家ソニーを上回る製品開発力を見せた松下の製品開発ヒストリーに焦点を当てる
「久夛良木健のプレステ革命」(ワック出版、2003年)──ゲームソフトの将来とデジタルAVの将来像を描く
「ソニーの革命児たち」(IDGジャパン、1998年 アメリカ版、韓国、ポーランド、中国版も)──プレイステーションの開発物語
「ソニーの野望」(IDGジャパン、2000年 韓国版も)──ソニーのネットワーク戦略
「DVD──12センチギガメディアの野望」(オーム社、1996年)──DVDのメディア的、技術的分析
「DVD-RAM革命」(オーム社、1999年)──記録型DVDの未来を述べた
「DVD-RWのすべて」(オーム社、2000年)──互換性重視の記録型DVDの展望
「ハイビジョンプラズマALISの完全研究」(オーム社、2003年)──プラズマ・テレビの開発物語
「DLPのすべて」(ニューメディア社、1999年)──新しいディスプレイデバイスの研究
「眼のつけどころの研究」(ごま書房、1994年)──シャープの鋭い商品開発のドキュメント


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