ITmedia NEWS >

LEDバックライトの恩恵と難しさ(1)本田雅一のTV Style

» 2009年05月01日 09時47分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 前回は、液晶パネルの光沢化について話をした。いくつかのメールを頂いたが、肯定的な意見を持つ人が多い反面、やはり否定的な人も少なくない。否定的な意見の多くは、PCのディスプレイを例に、映り込みの不快さを挙げていた。

 ちなみに筆者自身はというと、PCディスプレイはハーフグレア派だが、テレビに関してはグレア(光沢)パネル肯定派である。理由はいくつもあるが、実はこの議論はもう10数年前までに結論が出ていた。

 ブラウン管にもシリカ加工による“すりガラス”のような仕上げ(アンチグレア)とARコート仕上げ、あるいは何もしない素のままの仕上げなどがあったが、アンチグレアは主流にはならなかった。理由は画質面の低下に加え、反射する光が多く、見づらかったからだ。

 当時のAR処理と現在のものは性能が異なるが、ARコートが一部の光を吸収して映り込みを緩和させるのに対して、アンチグレア処理は光を吸収しないため、ほとんどの光を拡散しながら反射する。画面が白っぽくなるのはこのためだ。

 ハーフグレアはなかなか良い選択肢で、画質と映り込みのバランスが良いと昨年ぐらいまでは評価していたが、同じフルHDでもテレビの画質が上がってくると、やはり画質低下が気になってくる。

 好みや流行といったものもあるため、ユーザーにどちらかを無理に勧めることはしない。パネルの表面処理以外にも、テレビを選ぶポイントはたくさんある。しかし、メーカーには、”そろそろ本気で表面処理について考え始めた方がいいのでは?”と提案しておきたい。グレアが嫌われると思うのであれば、嫌われないグレアを作ればいいのだ。

 と、話が横道にそれたが、今月の話題は今年の年末に向けて機種が増えるであろうLEDバックライト採用のテレビについて、少しマジメに考えてみよう。

北米では新カテゴリーになりつつある「LED TV」

 最初は冗談なのかと思っていたが、北米の大型家電ショップに足を運ぶと、いつの間にかプラズマ、液晶テレビ、リアプロジェクションテレビ、ブラウン管テレビといったカテゴリーに加え、「LED TV」というコーナーがあった。

 RGBのLEDを多数並べてディスプレイとしている……といった製品ではない。実はLEDバックライトを採用した液晶テレビだ。

 この販売手法を仕掛けたのは韓国Samsung(サムスン)。フルHD化が一巡し、倍速化やインターネット対応など一通りの機能も出尽くしたところで、なんとかLEDバックライトによる画質改善を強く訴求したいと考え、LEDバックライト搭載の液晶テレビを、通常の液晶テレビとは別カテゴリーとして売り出し、それに流通側ものった形だ。日本では家電製品を販売していないサムスンだが、北米のテレビ市場では他を引き離してのナンバーワンを走っている。その彼らが次の目玉として担ぎ出したので、流通側もそれをサポートしたのである(LEDバックライトに本腰を入れるSamsung)。

photophoto 今年1月の「2009 International CES」でも「LED TV」を全面に打ち出していたサムスン。看板にも「LED TV」の文字が見える

 サムスンはLEDバックライトパネルの開発で先行しており、同じ韓国のLGフィリップスのパネルがLEDバックライトの標準品パネルを用意していないのに対し、サムスンは外販も行いつつ、自社製品にも使っている。

 巨大な北米市場でこのような動きがあれば、各メーカーは商品の付加価値を高めるため、こぞってLEDバックライト搭載のテレビを開発し始めるものだ。売れ始めればパネルのコストも下がっていき、さらに幅広い製品にLEDバックライトモデルを展開できるようになる。今はその端緒にある。

 LEDバックライトの利点はいくつかあるが、代表的なものは以下の通り。

LEDバックライトの利点

  • 個々のLEDの明るさを個別に制御し、それと連動して画像処理を行うことでコントラストを拡大できる
  • バックライトの最適化制御を行うことで消費電力を抑えやすい
  • RGBのLEDを並べることで、色再現域を大幅に拡げることができる
  • RGBのLEDを並べ、個々に制御することでバックライト自身のホワイトバランスをコントロールできる

 中でも1番目に挙げたポイントは、一般に業界内では「ローカル・ディミング(局所減光)」と呼ばれている。バックライトの明るさを場所ごとに変えられるのだから、コントラストが改善され、黒が引き締まるのは当然といえば当然といえる。

photo ローカル・ディミング(局所減光)の例。写真はドルビーの「Dolby Vision」技術

 このローカル・ディミングによる効果を訴求するために、サムスンはLED TVというカテゴリーを販売店に作らせたといっても過言ではない。ローカルディミングはパネルのネィティブコントラストではないから意味がない、という意見を聞くことがあるが、正確には正しくない。なぜならローカル・ディミングのテクニックを使えば、同じ瞬間に同じ画面内でスペック通りの数万対1というコントラストを実現できるからだ。

 例えばプロジェクターなどで絞りやランプの明るさを制御する場合。この場合は画面全体の明るさを変えつつ、信号のゲインを制御しているので、瞬間ごとの画面のコントラストは上がらない。あくまで時間軸方向に見た時、一番暗い黒と一番明るい白の比率が上がるだけだ。

 しかしローカル・ディミングは、局所の明るさしか変えないため、近傍の画素同士のコントラストはパネルのネイティブコントラストに依存するが、異なる分割エリアにある画素同士は、同時にネイティブコントラストを超える輝度差にすることができる。このため、効果的に見えるのである。

 ただ、ローカル・ディミングならなんでもイイというわけではない。実はさまざまな問題がローカル・ディミングにはある。その欠点を目立たないよう、上手にコントラスト拡張効果を出すノウハウが重要。つまりメーカーの違いによる差が出やすい部分だ(以下、次回)。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.