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メーカーはやっと“だれでも高画質を楽しめる”テレビを目指し始めた(2)本田雅一のTV Style

» 2009年07月17日 20時50分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 日立製作所が2009年春のWoooシリーズに組み込んだ「インテリジェント・オート高画質」は、その表層だけを見ると、パイオニアが開発した「リビングモード」や東芝の「おまかせドンピシャ高画質」と同じだ。センサーオートに設定をしておけば、あとはテレビが勝手に映像を調整してくれる。

 しかし、その動作はかなり異なる印象だ。どのメーカーのやり方が良い、というよりも、自動調整のアプローチが異なるのである。画質をその場に合わせて最適に……といっても、人によってやり方はさまざま。テレビの画質調整を行うエンジニアも、メーカーごとにノウハウや手法は異なる。そうした考え方の違い、手法の違いが、自動画質調整機能の動き方にも関係しているのである。

 日立のやり方は、センサーで検出した環境条件に合わせ、ガンマカーブと色温度を最適なもの(設計時に想定した見え味)に近づけるというやり方だ。このためにWoooシリーズは明るさだけではなく、色温度も検知できるセンサーを装着している。

 薄型テレビを既に購入したことがある読者は、自宅に設置してみると存外に明るく、まぶしすぎると感じた人もいるのではないだろうか。機種やメーカーによっても異なるが、店頭用に作られた、もっとも明るいモードではなく、標準的な画質モードであっても画面輝度をかなり明るく調整している。

 なぜなら輝度が不足していると、コントラストが不足して感じられるからだ。ここでのコントラストは“感”であり、実際の数値ではない。周囲が明るいのに最大輝度が低いと、白く輝くべきところがグレーに見え、コントラストが低下したように感じられる。

 多少のまぶしさは短時間ならさほど悪い印象を与えないが、コントラスト感の不足はパッと見だけでも印象を悪くする。そう見る人に感じさせてしまうと店頭での売り上げに響いてしまうので、メーカーはやや明るめにバックライトや最大輝度を設定しているのだ。昨今は画質モードを標準にした上で評価しようとする人も多いので、メーカーもそのあたりをかなり気にしているのだろう。

 やや話が横道にそれたが、周囲の明るさに応じてバックライトの輝度、あるいはプラズマの最大輝度を最適化し、その明るさの中でガンマカーブが本来の設計値に近づけるという処理をセンサーオートでは行っている。

 しかし、明るさに応じて動的にガンマカーブを変化させる処理は行っていないという。このため、明るい場所では暗部の見通しがやや悪くなる傾向があるが、画面輝度が最適化されているため、映像全体の印象は良好に保たれる。明るい場所で見る映像(たいていは通常のテレビ番組)は、暗い場所で見ることを想定して作られていないので、これでも充分との判断だろう。

 一方、色温度調整は照明の色温度に対して+3000度に調整するのが良いといわれている。これに対して日立は、ランダムにピックアップした被験者に対して、各照明条件の中で、どの色温度が最も見栄えが良いかを調査した。

 その結果、確かに環境光の色温度によって心地よい白のバランスは変化するものの、条件によって色温度差は変化し、必ずしも+3000度とすることが正しくないと結論づけたという。具体的には電球の場合は+5200度、一般的な蛍光灯では+4300度、3波長蛍光灯では+3200度程度が良いとの結論を得て、それぞれ8000度、8500度、9000度に設定。色温度センサーの変化に応じて追従するのではなく、どの光源なのかを類推して切り替えるようにしているという。

 意外に高めの色温度という印象を持つ方もいそうだが、一般的なテレビ番組はHDTV規格の6500度よりも高めの方が良く見えるように作られているので、妥当な数値ではないだろうか。

 ただし、これらの自動調整手法とは別に、映画に関しては特別なモードで動作する。映画を見ているかどうかの判別は、映像ソースがフィルム(24pあるいは60iでも2-3プルダウンを検出した場合など)であり、さらに周囲が50ルクス以下といった低照度の場合にのみ、映画モード(Woooでいうところのシネマティック)に近い映像に調整する。

 実際にテレビ番組、ドラマ、映画などを多数見たが、それぞれ非常に良好な結果が得られた。部屋の明るさや色温度を変化させてみても、見た目の明るさ感やホワイトのバランスに大きな変化を感じない。手動で各画質モードを切り替えるよりも、自動画質調整機能におまかせした方が、たいていの場合で良い結果が得られ、その上、動的な画像処理を行っていないため副作用も見られない。

 なかなか優れた結果を引き出せていた。調整のあんばいが的確であるだけでなく、押しつけがましくなく、さり気なく、しかし適切な条件で見せるのだ。店頭のすさまじい明るさになると、この微妙なあんばいが分かりにくいが、自宅に導入して使い始めれば、いつしか手放せない機能になっているはずだ。

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