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東芝「CELL REGZA」 “非常識”へのチャレンジ開発秘話(2/2 ページ)

» 2009年12月11日 15時34分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]
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本村氏:デザインを考えればアンダースピーカーのほうがバランスが良いのは確かでしょう。しかし、デザイン優先では従来のインビジブルスピーカーと同じです。『じゃ、アンダースピーカーのメリットは何?』(本村氏)。『ないよ』(桑原氏)といったやり取りを繰り返すうち、1つのアイデアが浮かびます。

 つまり、『マルチチャンネルのセンタースピーカーとして使うなら、明かなアンダースピーカーのメリットになる』(桑原氏)。『それだ!』(本村氏)。実は、2人とも置く場所に困るセンタースピーカーがキライだったんです。ネットの書き込みを見ても、センタースピーカーがジャマをしてリモコンが効かないなんて話も多くありました。

桑原氏:センタースピーカーのメリットがあり、アンダースピーカータイプで新しいことをやる面白みもあったので、アンダースピーカーで進めることに決めました。そこからは、音質の向上だけにフォーカスを合わせて突き詰めていきます。

――一番こだわった部分はどこでしょう?

桑原氏:アルミ引き抜き材のエンクロージャーです。アルミというとぜいたくに感じるかもしれませんが、木材で作ると容積がとれません。アルミなら、このサイズで約2.5リットルの容積がとれるうえに、コストターゲットには収まると分かったので決めました。正統派のバスレフポートを付けて、Hi-Fiライクな音を目指しています。

 次は良質なソフトドームツィーターを入れたいと考えました。テレビのスピーカーでは、普通は使いません。ネオジウムかフェライトかといった選択がいくつかありましたが、そこはするすると決まりました。

photophoto ソフトドームツィーターとウーファー。ユニットはフォスター電機との共同開発で、ウーファーにはフォスター独自の“二重抄紙コーン”を採用している

 それに見合うウーファーも必要です。スピーカーユニットはフォスター電機さんと共同開発したのですが、実際に何十種類も試作してもらいました。何度もやり取りしているうちに『良質なユニットを作りたい』という本気が伝わり、試聴しに行くとテーブルの上に試作ユニットを何十個も並べて待っていてくれました。

 最後には「これはいいモノができた」と実感しましたね。

――課題はなかったのでしょうか

桑原氏:はじめはノイズが多くて音圧が出ませんでした。しかしアンプの出力を上げることはできない。

本村氏:テレビというのは、壊れてはいけない商品(家電)です。何百ワットも出せるオーディオやAV用のアンプとは、もともとの考え方が違う。しかも、この時期にエコポイント対象にならないのはまずいでしょう?

――そうですね

本村氏:電圧を上げることは無理でも、電流なら流せるじゃないかと。それならマルチアンプシステムだ、ということになりました。デジタルアンプなら、小さな音でもしっかり出せます。

桑原氏:せっかくマルチアンプシステムをやるなら、新しいことやりたい。そこで、フィルターには「リニアフェイズフィルター」を使用しました。メーカーの担当者に「遮断特性はどのくらいとれるの?」と聞いたら、「凄すぎて、なんて表現していいのか分からない」と言われました。実際に試してみたところ、0.5オクターブで100dBも落ちた(=200dB/オクターブ)。垂直な壁のように落ちるんです。なおかつ位相はくずれない。

 また低域と高域を分けるチャンネルデバイダーには、AVアンプにも使用される32bitのDSPを用いました。

――ぜいたくな仕様です

photo 東芝デジタルメディアエンジニアリングの桑原光孝氏

本村氏:そうですね。センタースピーカーとして使うため、独立した20ワットのアンプを設けていますが、これは使い方によっては一生駆動しないアンプです。しかもステレオのチップなので、片チャンネルはもともと使わない。最初はリレーで切り替える方式も考えましたが、アンプを追加するほうが安かった。しかも大規模なアンプの割に発熱も少なかったので、結果的には良かったと考えています。

――音作りの作業はどのように進めたのでしょう

桑原氏:コンセプトは、画と音の一体感。実際の作業では、やったことがデータに出るような作りを心がけました。そして最後は耳で微調整します。その結果、f得(周波数特性)は50Hzをマイナス6dBで再生できる、ヘタな大型システムよりすぐれたものができました。

本村氏:われわれは「期待値理論」とよく言います。お客さんの期待値を超える製品を出すと喜んでもらえる。しかし、今回のスピーカーは想定外でしたね。テレビの音がこんなに良くなるとは思いませんでした。試聴の際には技術のトップも音に感動していましたし、今回のチャレンジは大成功でした。

――今回のチャレンジは、今後のREGZAシリーズにも影響しますか?

本村氏:すでに、次のREGZA製品を考えている時期です。せっかく作った音ですから、また桑原に入ってもらい、プロパーのREGZAも音を強化するつもりです。そういう意味でも、このチャレンジは意味のあるものだったと思います。

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