色彩表現の豊かさや動画性能など、日進月歩の著しい進化を遂げているフラットディスプレイだが、こと音声に関してはなおざりにされている製品が多い。これはいまさら僕が強調しなくても、皆さんすでに御承知のことと思う。
理由は簡単。薄型であればあるほど望ましいという製品スタイルの問題に加えて、最近は急激な低価格化という荒波が押し寄せているからだ。メイン機能である映像ならともかく、付加機能である(とメーカーに考えられやすい)音声は、コスト削減の対象になりがち。その結果、付属スピーカーでは映画を存分に楽しめない、お粗末なユニットが平然と取付けられるようになってしまった。もし音にこだわりたいのだったら、AVアンプと単体スピーカーを用意してくれ、ということのようだ。
ブラウン管テレビ時代に比べて、唯一の退化といってもいいディスプレイ内蔵スピーカーだが、それら従来の製品と「音質的に」一線を画す製品が登場した。いま話題の東芝「CELL REGZA」である。
大容量HDDに地デジ全チャンネルを録画、過去の番組を見返すことができる“タイムシフトマシン”や、白色LEDバックライトを512分割してエリア制御することで500万:1というコントラスト比を実現した美しい映像など、機能や映像の素晴らしさで大注目を浴びているCELL REGZAだが、音声に関しても、これまでのフラットディスプレイとは一線を画す提案をしてくれている。ここでは、あえて音声にテーマを絞り、CELL REGZAならではのアドバンテージを検証していこう。なお、画質や録画機能については、過去に掲載されたレビューや紹介記事を参照してほしい。
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CELL REGZAのスピーカーは、独立した横長のキャビネットをディスプレイの下部にレイアウトする構造が採用されている。アンプ部はディスプレイ本体に内蔵されているが、見かけは専用デザインの一体型サラウンドスピーカー、といったイメージだ。
セパレート構造を採用すること自体、音に関するこだわりがどことなく漂うが、近寄ってまじまじと見ると、これまでのディスプレイ内蔵スピーカーとは一線を画すものだということがよく分かる。
ヘアライン仕上げによって上質さを醸し出すブラック基調のキャビネットは、アルミの押し出し材をチョイス。強固なボディーによって、デザインだけでなく音質的にもアドバンテージが保たれている。その内部には、左右2つずつの8センチウーファーと、バスレフ構造を採用。小型ながらも、充実した中低域を期待できるチョイスだ。
加えて、4センチのソフトドーム・ツィーターが採用されていることにも注目。いまどきの単体スピーカーは、ツィーターを採用する2Wayあるいは3Way構成が当たり前となっているが、一般的なフラットディスプレイでは、チャンネル毎に1ユニットがせいぜい。ツィーターもダブル・ウーファーも、コストがかさむために採用されることはまずない。
しかも、ツィーターとウーファー、それぞれに1つずつ独立したデジタル・パワーアンプが接続されているというから驚きだ。いわゆる、マルチアンプシステムを採用しているのだ。DSPも活用して音場や音質もこと細やかに調整。明らかに「付属品」扱いでない力の入れようがうかがえる。
さらに増してユニークなのは、ツィーターが左右のほかに、ボディー中央にも置かれていること。これは、AVアンプや単体スピーカーを用いてシステムを構築した際、センタースピーカーとして活用するために用意されたもの。音質だけでなく、同時に便利機能も追求しているのは、東芝らしい配慮といえるだろう。
このように、外観からもかなりのこだわりがうかがえるスピーカーユニットだが、開発担当者を紹介されすべてが納得できた。こちらの開発には、東芝きっての音質派、桑原氏が関わっていたのである。
桑原氏と言えば、HDDレコーダーRDシリーズ開発の中心的存在だが、公私ともに音に対してのこだわりを持つ人物でもある。なにを隠そう僕も、音質的なメリットから2005年発売の「RD-Z1」を手放さず使い続けている人間の1人。今回の取材では、直接桑原氏本人から話を直接聞く機会を得たのだが、どうもコスト的な縛りはほとんどなかった様子だ。しかも開発には、いまや数少なくなってしまった貴重なスピーカー製造メーカーの1つであり、音質的にも高い信頼を保ち続けているフォスター電機と共同して取り組んだというのだから、そのクォリティーには大いに期待したくなる(→インタビュー:東芝「CELL REGZA」 “非常識”へのチャレンジ)。
そういった開発の経緯を先に聞いたこともあって、あえてハードルを上げて試聴をしてみたのだが、それでもクォリティーの高さには正直驚いた。
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