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家庭用3Dプロジェクターの可能性(1)本田雅一のTV Style

» 2010年04月12日 07時49分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 3Dテレビがこれだけスポットライトを浴びているのに、ソフトの方はというと映画が中心だ。将来的にスポーツやコンサート、ドキュメンタリーの放送などで3D化が期待されている。とはいうものの、最初は手探りの状況。質の高い3D映像は、3D対応のBlu-ray Discとして提供される市販ソフトが当初、中心になっていくだろう。

 そんな背景を察してか、映画マニアの編集担当は「3Dプロジェクターの可能性について書いてください」とのメールしてきた。映画ソフトが中心なら、プロジェクターで見たいというのがマニア心理。もちろん、マジョリティーではないかもしれないが、その気持ちはよく分かる。筆者だって、質の高い家庭向け3Dプロジェクターがあるのなら、年末に向けて導入を検討したいと思うだろう。

 しかし、テレビの3D対応に比べると、プロジェクターの3D対応はとても難しい。「映画館ではちゃんと3D上映やってるじゃないか」という人もいらっしゃるだろうが、劇場用と家庭用では3D対応に関する事情が大きく異なるのだ。

 例えば、日本の映画館に多い「XpanD」方式の3D上映。スクリーンによって条件は異なるが、暗すぎて暗部がよく見えないし、左右チャンネルのクロストークも目立ったという意見をよく聞く。が、これはまったくその通り。重く赤いフチの3Dメガネを使う(横にロゴが入る)劇場がこの方式だ。

 左右映像を順番に投写し、それに同期させてメガネの液晶シャッターを動かすフレームシーケンシャルと言われる手法だ。ご存知の方も多いと思うが、現在、パナソニックから発売されている3Dテレビ、あるいは夏に発売されるソニーの3Dテレビも、同じくフレームシーケンシャル方式を採用している。

 この方法は技術的には実現しやすいのだが、家庭向けプロジェクターに利用するには問題がある。それは明るさの問題だ。片眼には片方の映像しか見せないのだから、それだけで単純に50%の輝度となる。さらには3Dメガネには偏光幕が施されているので、さらに透過率は良くてその半分(実際にはもっと少ない)。とすると、全体では25%以下の光量になるわけだ。実際には投影する素子の応答を待ってから、メガネの液晶シャッターを開け閉めしなければならないので、さらに減っていく。

 プロジェクターの中にはスペック値で1000ルーメンを超える明るいものもあるが、映画を鑑賞するための高画質なモードでは、明るくても500ルーメン、暗いものは300ルーメンぐらいしかない。それでも暗室ならば充分な明るさが確保出来るので通常は問題ない。だが、例え明るい映画投写時の実効500ルーメンというプロジェクターを使ったとしても、20%しか光を通さないのであれば100ルーメン相当だ。これではサスガに暗い。上記のXpanDが暗いのも、基本的には同じ理由だ。

photo ドルビー3D方式のメガネ。光の波長を多数の帯域に分割し、左右用の映像に割り振る方法を用いる。メガネのフィルター構造が複雑になるためメガネ代が高いといった弱点があるが、一方でReal D方式よりも明るく、専用スクリーンが不要という利点もある

 では、なぜ日本でXpanDの導入例が多いかというと、大手の映画館チェーンが採用したからである。しかし、なんでそんなに暗い方式を……と誰もが思うのではないだろうか。まったくその通り。だが、おそらくここまで3D映画が流行するとは予想していなかったのかもしれない。実はXpanDにも利点がある。スクリーンを従来通りのホワイトマット系のものを使い回せることだ。従って導入コストが安い。

 スクリーンの張り直しが利点になるということは、その逆も真。つまり、ほかの方法はスクリーンの張り直しが必要になるということだ(正確にいえば、ほかの方式中、ドルビー3D方式はスクリーンの張り直しは必要ない。ただし明るさが半分になるので輝度調整の面で対応が必要)。

 なぜなら、IMAX 3D、Real D。いずれの方式も左右用の映像を投写する際、異なる偏光をかけるからだ。ホワイトマット系スクリーンのように乱反射してしまうと、偏光が乱れてしまう。前者は縦横の直線偏光であるのに対して、Real Dは左右に回転方向の異なる円偏光を用いるという違いはある。IMAX 3Dは頭を傾けるとクロストークが増えるが、Real D方式は円偏光なので寝っ転がったって大丈夫。という違いはあるが、問題の本質は同じだ。

photo Real D方式のメガネ。Real Dは左右に回転方向の異なる円偏光を用いるので寝っ転がったって大丈夫。輝度は半分になるが、ゲインの高いスクリーンを使用することで明るさの問題もある程度は解決できる

 ただし質はこちらの方が高い。明るさにも問題はなく約半分の輝度になるだけ。スクリーンを掛け替えるのだから、ゲインの高いスクリーンにすることで明るさの問題もある程度は解決できる。だから急速に3D対応の劇場が増えている北米の映画館が使っているのは、そのほとんどがReal D方式だ。メガネも安価で3D映画を観ると、そのままお持ち帰りができる。

 したがって映画館で3D映像を楽しむならば、Real DかIMAX 3Dが、がぜんオススメである。おそらく想像以上にメガネのかけやすさ(偏光を用いるものは軽い)や画質に違いがある。

 が、家庭向けとなるとどうだろう? スクリーンを掛け替える? いやいや、そんなことはできない。それにたとえ3D用のシルバースクリーンに掛け替えたとしても、偏光が乱れないようマッチングを取るのは大変。よほど上手にインストールしないと、とても残念な思いをすることになるだろう。

 家庭向けなら、フルHDプロジェクターも安価になってきたので、豪気にも2台のプロジェクターを同期させて……と考えている方もいらっしゃるかもしれないが、実際に実践するのはとても難しい。では一部で発売されているという3Dプロジェクターはどうやっているのだろう?(以下、次回)

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