以前にもこの連載で触れたことがあるが、この話題には定期的に取り上げなければならないのかもしれない。それは薄型テレビの音質について、である。
例えばテーブルサイドや寝室に置く小型のテレビに、迫力ある立体感に富んだ音を出せとは筆者も言わない。リビングに置く42V型以上のテレビに関しても、デザイン面での制約を考えるならば、オーディオ機器並みの音を求めることはできない。スピーカーというデバイスは、その特性上、前面投影面積や全体の容積を大きく取らなければ、性能を出すことはできないからだ。
例えば、過去において最も音質の良かった薄型テレビはパイオニアの「KUROシリーズ」だったが、これは別体式の容積もたっぷり取られた縦型サイドスピーカーと、音質を考えて設計された内蔵アンプがおごられていたからだった。コストもさることながら、単独のスピーカーとして良いものに仕上げなければ、薄型テレビの音はなかなか良くならないことが分かる。
昨年末に発売された東芝の「Cell REGZA」にしても、サイドスピーカーとアンダースピーカーの違いこそあれ、別体式としたスピーカー部や音質にも気遣いをしたアンプ部などのコンセプトは近い。とはいえ、安価に販売される現在主流の薄型テレビでも同じ対策をしろというのは酷というものだ。
薄型テレビが主流になり、誰もがデジタルハイビジョン放送を楽しむようになったことで、映像に関しては大画面にも耐えられるものになってきたというのに、それに反比例するかのように薄型化、デザイン重視の流れの中で音質は犠牲になり続けてきた。
せっかく最新のテレビでデジタルハイビジョンを楽しむというのに、音が携帯電話の呼び出し音のようでは、あまりに安普請でアンバランスさに悲しくなってしまう。
とはいえ、昨今は音質を少しでも上げようという努力はしているようだ。先日、40V型クラスの各社製品を評価する機会があったが、シャープの「AQUOS」が意外にも良くて(といっても高音質というのではなく、あくまで聴きやすいという意味)驚かされた。エンクロージャーの容積を大きめに取っているのが功を奏しているのだろう。日立製作所も決して良いとは言わないものの、さりとて他製品に比べればかなりいい。CELL REGZA以外は、少々情けない音質だった東芝「REGZA」も、最新のZ1シリーズでは大きく音質を改善し、特別な価格が付けられていないテレビとしてはトップクラスといえる音になった。
このように着実に音質が良くなっている一方、残念なことに、とても音質の悪いテレビも残っている。ソニー、パナソニック、三菱電機は、各製品ともに要改良だと感じた。もちろん、同時にスピーカー付きラックシステムを購入するなど、テレビ本体以外のオーディオシステムと組み合わせて使うのであれば、本体内蔵スピーカーの質などどうでもいいという意見もあるだろう。
繰り返しになるが、オーディオシステム並みの音質を期待しているわけではない。テレビなのだから、テレビらしく人の声が聴きやすい音で聴けることが大前提。その上で表情豊かにセリフが聞こえ、さらに音域も拡がり、音圧も余裕をもって大きく取れるようにしてくれれば合格点だ。オーディオ的な音質を求めることがあるとしても、それまでに改善しなければならないことは他にたくさんある。
薄型テレビの一般家庭への本格普及が始まり、かれこれ10年が経過する。地上デジタル放送の開始からも7年だ。いよいよアナログ停波まで1年を切り、これから雪崩を打ってテレビが買い替えられようとしている。内蔵スピーカーの改良に、ユーザーからも声を上げていくべきだろう。
それとともに、今後流行する可能性のある商品が“サウンド・バー”と呼ばれているものだ。主に北米で売れ始めている商品カテゴリで、薄型テレビの下に置く一体型のスピーカーシステムである。次回は、このサウンド・バーについて話を進めていこう。
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