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家庭向け3Dプロジェクターの基礎知識(2)本田雅一のTV Style

» 2010年11月15日 11時13分 公開
[本田雅一,ITmedia]
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 最初に、とても大切な事なのでしつこいようではあるが、前回に続いて確認しておきたいことがある。それは3Dプロジェクターは、高品位な2Dプロジェクターだからこそ3D化できるということだ。3D映画を投影するためのプロジェクターなのではなく、3D表示機能を盛り込むために改良が施されたことで、2Dプロジェクターとしてもより高いレベルの画質を得ることができている。

 このあたりはテレビでも事情は同じで、2D画質を上げることが3D表示に不可欠であるため、結果的に上位モデルから順に“3D表示機能”が入っている。3D表示機能による追加コストはさほど大きなものではないので、3D表示機能を持つ製品がやや高価なのは、上位モデルだからに過ぎない。

 さて、話がやや横道にそれたが、前回までに述べたように今年日本で発売されている3Dプロジェクターは、すべてアクティブシャッター方式のメガネを使ったフレームシーケンシャル表示であり、個人的にはまったく期待していなかった。

 4倍速表示液晶パネルを用いた3Dでは、片眼あたりの液晶シャッターが開いている時間は20%程度で、さらに透過率の低下や偏光フィルターによるロスなどもあって15%程度しか光が目に届かないという。さすがにそこまで暗ければ、とても映像作品を楽しめないと予想していたのだ。

ソニーの「VPL-VW90ES」は、フレームレート120Hz対応ながらもパネルとしては240Hz駆動をサポート。同じフレームを2回ずつ書き込むことで書き替えにかかる時間を短縮してクロストークを抑える

 実際、開発途中の製品は、かなり暗かったのだが、3Dメガネの特性に合わせて黒レベルを少し浮かせたり、トーンカーブを変えて明るく見せるなどの絵作りを工夫したり、光学回路の効率を高めることなどによって、かなり良いレベルにまで到達してきている。

 実は、三菱電機の製品は、まだ3D時の画質が最終確定したものを見ていないのだが、同じ4倍速SXRDを用いたソニー「VPL-VW90ES」の3D投影モードは、5〜6年ぐらい前の720P透過型プロジェクターの映画モードに近い明るさ感(ベストとはいえないが、真っ暗な部屋で映画を楽しむには充分)を引き出せていると思う。

 スクリーンに暗い0.8ゲインぐらいの幕面を使っている場合は、120インチ投影で暗く感じるだろうが、100インチ以下ならばやや暗いものの普通に見ることができる。もしゲイン1.5ぐらいのビーズ系スクリーンを使っているなら全く問題ない。

 しかし、さらに驚きを感じたのはビクター「DLA-X3」の3D映像だった(DLA-X7の3D投影機能はまだ画質調整が終わっていないため3D映像はDLA-X3しか見ていない。ただし両者の3D表示品質は同じとビクターは話している)。

ビクターの「DLA-X7/X3」は、120Hz駆動ながらデジタル駆動を生かした面書替方式でクロストークを抑えている。なお、ビクターの2機種はいずれも“3Dレディー”モデル。「3Dメガネ」(1万7850円)やメガネを同期させるための「3Dシンクロエミッター」(9450円)は別売になっている

 DLA-X3の3D投写映像は、VPL-VW90ESのそれよりも圧倒的に明るいのだ。ゲイン0.8のスクリーンでも100インチ程度なら全く問題にならないし、完全に遮光された環境ならば120インチクラスでも充分な明るさだ。この時点でSOHOシネマズなどに見られる一般的なXpanDの3Dシアターよりずっと快適だ。より明るいスクリーンになら、なおさらである。

 また、120Hz駆動ということで心配されたクロストークも極めて少ない。ソニーVPL-VW90ESもクロストークは少なめで快適だったが、DLA-X3も同等以上のクロストーク性能を持っている。

 では、なぜ120Hz駆動でもクロストークが少ないのだろうか?

 それは現在、民生用機器に使われているD-ILAデバイス(ビクター独自の反射型液晶デバイス)が、プラズマパネルと同じように面書替方式になっているからだ。プラズマは全画素の表示内容を書き込んだ後、面全体の画素が一度に光る。これと同じように、デジタル駆動型のD-ILAは、面全体が同時に動作する。このため120Hzでも3D表示が可能となり、メガネの液晶シャッターが開いている時間が長くなり、明るさを稼ぐことができているのだと想像される。

 デジタル駆動のビクター製プロジェクターは、デジタル駆動のため微妙な階調表現に粗さを感じていたが、3D表示に関してはデジタル駆動であることが有利に働いた格好だ。加えて今年は階調表現能力が4倍以上になったそうで、2D映像の映像が格段に良くなっている。

 なお、最初にDLA-X3の3D映像を見たときは、画面全体が明滅するように見える現象(フリッカー)が目立ち、長時間見るのは辛いと感じていた。メーカーによると、24コマの映画は96Hz表示にしているからではないかとのことだったが、最終的にチューニングの進んだモデルでは、フリッカー感が大幅に減り、あまり意識しなくて良いレベルに抑えられていた。

 3D映像は、画面が大きくなればなるほど楽しいものだ。まだ3Dプロジェクターの導入は遠いと感じていたが、このレベルにまで来ているのであれば、来年発売が多数予定されている3D製作の大作映画ソフトのために、手持ちのプロジェクターの入れ替えをしてもいいかもしれないと思い始めたほどである。

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