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「UltraViolet」の可能性と現状本田雅一のTV Style

» 2011年02月22日 05時27分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 前回のコラムで紹介したDECE(Digital Entertainment Content Ecosystem)の「UltraViolet」といった取り組みが米国で注目され始めている理由は、北米でデジタル配信ビジネスが今後(やっとというべきか)活性化すると言われているからだ。すべてがネット配信で解決できるわけではないため、パッケージビジネスがなくなるという話ではないが、今後、何らかの地殻変動があるのは間違いない。

UltraVioletは、DECE,LLCが推進するコンテンツ流通の新しい枠組み

 配信コストやネットワークインフラの問題が解決するなら、もともと北米はネット配信に向いた市場だ。毎年、大量のコンテンツがDVD/BD化している映像ソフトは、いくら面積の広い北米の店舗でもすべてをストックできない。いきおい、消費者はネット通販に走り、リアル店舗は北米からほとんど消え去ろうとしている。今、米国でDVDやBDを買おうと思っても、家電量販のベストバイ以外に売っている店は、地元に根付いたショップぐらい。一方、ネット配信なら、在庫の無駄を抑えることができ、検索性も高めることができる。

 というわけで、コンテンツオーナーたちは、パッケージ販売とネット配信をどう組み合わせるかを真剣に考え始めたものの、何かうまい仕組みを提供しなければ、ネット配信への移行を進めるどころか、映像パッケージの販売ビジネスそのものが危ういと考え始めている。なぜなら、”デジタル化”は時にユーザーに対して不便を強いるからだ。

 日本の例を考えてみよう。放送のデジタル化で何が起こったかといえば、放送局によるダビング規制の強化だった。当初は録画はしてもいいが、1つのコピーしか持ってはならないとされた。これは後に10コピー(ダビングは9回、ムーブが1度)に改められたが、ここではダビング10の妥当性について話をしようというのではない。以前ならば、多少画質が劣化してでもアナログでコピーすればなんとかなっていたものが、複製管理が厳密に行えるようになったものだから、それまで得られていた利便性がなくなってしまった。ここがポイントだ。

 同じようなことはたくさんある。デジタルコンテンツは、映像コーデックが違っていれば再生できず、同じコーデックでもコンテナ形式が違えばやはり再生できない。さらに同じコーデックとコンテナ形式でも規格外の解像度やビットレートになると正常に扱えない……などの問題が生じることがある。

 こうしたデジタル化による不便は、複数種類のデバイスあるいは異なる販売サイトのコンテンツの相互運用(例えばiTunesで買ったコンテンツが、アップル以外の機器でも再生できるかどうかなど)やコンテンツ形式の互換性に集中しており、ユーザーはデジタルワールドの中で映像に投資することが「映像を購入したこと」になるのかどうか、戸惑ってしまう。Ultravioletは、そうした問題に対する提案の1つだ。

 ソニーが積極的に推進しているUltraVioletでは、購入した映像がユーザーIDにひもづけられ、必要に応じて好きなデバイスで楽しめる。ユーザーが再生するデバイスや購入するお店(販売サイト)を自由に選べる環境を整え、安心して「映像を購入」できるスタイルを作り上げようという試みだ。

 この話、北米でもどのようなビジネスモデルに落とし込むかで意見が分かれており、DECEの取り組みも実を結ぶかどうかは不確定な状況にある。そもそも、DECEで何を決めようが、アップルが自社のコンテンツ流通システムを解放しない限り、かなり多くのユーザーを無視して展開することになる。

 では、日本ではどうか? というと、コンテンツオーナーたちはUltravioletについて情報収集中というのが現状だ。「放送録画の自由を簡単に奪った国だから、きっとコンテンツオーナーは無関心に違いない」と思いきや、実はそうではない。思惑が錯綜する中で牽制し合う米ハリウッドと異なり、日本の映像コンテンツ事業者は、IDにひもづけて複数デバイス、複数メディアで運用する柔軟なライセンス形態と販売を行う仕組みに対して、かなり前向きなのだそうだ。

 なぜなら、日本の電車通勤者の数はバカにできない。出先で映像作品を楽しむ機会を増やし、ユーザーのすそ野を広げたい……というわけ。一方で日本独自の運用フレームワークを作る方が良いのでは? という意見もある。そんな状況で、まだ行く末は分からないが、コンテンツオーナーが積極的なら、話が前に進む可能性はあるだろう。

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