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薄型テレビ新製品でみえた各社の“持ち玉”本田雅一のTV Style

» 2011年03月28日 12時58分 公開
[本田雅一,ITmedia]
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 地上デジタル放送の停波、それにエコポイント期限とイベントの続くテレビ業界は、駆け込み需要が多いと見込まれていた。ところが、東北地方太平洋沖地震の影響が関東だけでなく関西にもひびき、今のところエコポイントの駆け込み需要がほとんど見込めない状態という。しかし市場が冷えこんでいるものの、商品の方は非常に面白い素材がそろっている。地デジ商戦最後の数カ月を戦うために、各社はさまざまな“持ち玉”を用意した。

 シャープは毎年、春にミドルクラスの製品、年末に上位モデルというサイクルで新製品を投入しているが、今年の春は高速応答性を高めた新技術「ハイスピードUV2A」採用の新しいクアトロンパネルを採用した。従来のクアトロンが4ミリ秒だった平均応答速度を3ミリ秒にまで速くし、120Hz駆動モデルで240Hz駆動と同等以上の性能を引き出そうと試みている。

シャープの「Z5シリーズ」は、新技術「ハイスピードUV2A」を採用したクアトロン液晶パネルで3D表示のクロストークを抑えた

 もう1つ注目しているのが、東芝とソニーだ。両社ともこの春に新世代の映像処理回路を投入している。東芝は“REGZA”ブランドが生まれる直前の「Z1000」シリーズに採用した「メタブレイン」の改良版以降、メインLSIのアーキテクチャを大きくは変えてこなかった。新エンジンの「レグザエンジン CEVO」は、実に5年ぶりのフルモデルチェンジとなる。ソニーも今年1月のInternational CESで発表した「X-Reality PRO」がいよいよ投入となる。

 この両エンジンは、それぞれに異なる特長や画像処理を行っており、必ずしも”同じようなもの”ではない。しかし、1つ共通する要素がある。それは両社とも複数枚超解像という処理を行っているところだ。

 本当に詳細な細かい処理ノウハウに関して、両社とも完全に公開しているわけではないが、おおよその処理のやり方は似ている。昨年までのテレビに搭載されていた超解像処理は、表示するフレーム(現在フレーム)に対して周波数特性を伸ばす処理を行っていたが、今回はさらに踏み込み、過去2フレーム、未来1フレーム、つまり4つのフレームを参照して1枚の情報量が増えた絵を創り出している。

東芝は複数フレームによる超解像技術「レゾリューションプラス6」を採用

 現在フレームの映像が、過去と未来のフレームのどの位置にあるかを検索し、同じと思われる映像を比較する。完全に静止した映像の場合、情報量は増えない。しかし、動いている映像の場合は、微妙に画素をまたぐ位相がフレームごとに変化するため、複数を参照することで解像度を高めることができる。

ソニーは、データベース型複数枚超解像

 ハイビジョン放送に対し、この複数フレーム超解像を行う意味があるのか? という素朴な疑問もあるだろうが、多くのハイビジョン映像は、その解像力ギリギリの情報が詰まっているわけではない。また、複数枚の映像を参照・補正する課程でノイズが緩和される効果もあるため、とくに地上デジタル放送での効果は目を見張るものになっている。

 さらに、放送波は1080/60iで放送されており、例えば細かな折り目の衣裳や瓦屋根の見える風景などでカメラがパンすると、ジラジラとしたノイズが出てくる。複数枚超解像では、前後のフレームに正しい情報を求めるため、I/P変換に伴うノイズがほとんど目立たなくなる。

 I/P変換に伴うノイズは、ハイビジョン映像の中でもMPEGノイズとともに、もっとも気になりやすいもので、該当する映像を見れば、誰もが一目見て分かるぐらい優れたものだ。

 しかも、フォーカスの合った部分は、より精細感のある描写で描かれ、大変にシャープな映像となる。輪郭強調の場合、映像ごとに質がばらついたり、全体にシャープ感が上がってしまうため奥行きが失われる傾向があるが、複数フレーム超解像では本来あるべき映像が浮き上がってくるため、輪郭強調のような弊害がない。

 今年は、この複数フレーム超解像の搭載と、メーカーごとの質の違いがテレビを選ぶ上でのポイントになってくるだろう。

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