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“ノット”や”もっと”について考える、いくつかのお話(その2)本田雅一のTV Style

» 2012年04月17日 13時00分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 ”NOTやもっと”の話といいつつ、まだNOTの話しかしていないけれど、前回に続き、”NOT”のお話をしていこう。

 前回もお伝えしたように、NOTTVの評価に関してはさまざまな切り口があるものの、これまでのテレビ放送に対して何が変わったのか? という部分に関する反応が得られる前に、モニター機のトラブルが起き、ほかの部分に対する声がかき消されてしまった。

 だからといって、放送内容に対して肯定的な意見が多いというわけではないが、トラブルがなければ「こんな放送をやってほしい」といった声も、もっと上がってきていただろうし、Twitter、Facebook連動に関しても、コメントがもっとたくさん寄せられていたのではないだろうか。

V-Highマルチメディア放送(モバキャス)の概略。V-Highと呼ばれている帯域のうち、33セグメントを利用する(左)。モバキャスでは、多様な放送事業者が参入しやすいように“ハード”(基幹放送局提供事業)と“ソフト”(認定基幹放送事業)を分離した。BSやCSと同様のモデルだ(右)いずれも出典はmmbiの発表会資料

 さて、そのNOTTVの中身についてだが、準備不足のまま本放送が始まってしまったことで、放送規格としての”モバキャス”が持つ可能性を、まだ生かし切れていないという印象だ。本来なら試験放送を通じて視聴者からの意見を聞きつつ、より良い放送を目指すべきなのだろうが、いきなり本放送となって作り手側の戸惑いも若干感じられる。

 これらに加え、放送波の屋内浸透などの問題も絡んで、本来の内容の議論にまで到達していない。以前のアナログVHF放送と大差があるわけではないが、スマートフォンを対象としているだけに「携帯の電波は入っているのに、NOTTVは映らない(両者は異なる電波なので致し方ないのだが)」といった印象の悪化もあるだろう。

 とはいえ、番組内容に関していえば、まだこれからどうするのか、製作側の創意工夫を見守るべきなのだろう。私自身は今の放送内容そのものではなく、モバキャスの機能をどう生かすかの部分で、もう少し工夫がほしいと感じた。

 モバキャスでは一方向のデジタル放送+スマートフォンによる通信の機能を組み合わせたライブチャンネルと、端末のストレージにデータとして蓄積されるシフトタイム再生コンテンツの、大きくわけて2つの番組提供方法がある。前回も書いたように、シフトタイム再生用に配信されるデータは、必ずしも動画である必要はなく、データの利用制限を自由に行えるため、ある一定期間だけ動画、静止画、ゲーム試用版、電子書籍、電子コミックなどを利用者に公開し、期限が来たら使えなくなるといった運用も簡単にできる。

 これこそが、モバキャス最大の利点ではないか。

モバキャスでは、リアルタイム型放送、蓄積型放送、通信と放送との連携が可能。動画やゲーム、電子コミックなどを一定期間だけ公開するといった運用もできる

 モバイル端末向け”放送”を行うならば、番組という”場”を共有しながら、SNSで視聴者同士、視聴者と制作者がつながる、というのが王道だろうから、生放送が中心になってくる。あらかじめ作り込まれたコンテンツを中心にSNSで盛り上がるよりは、スポーツ中継などで他のファンたちと同じ時、同じ場で一体感を感じる方が楽しいに違いない。

 NOTTVのライブチャンネルが”生”中心なのも、上記のような背景を考えれば納得だ。ただし、これはこれで面白さや特長はあるものの、キラーコンテンツとはならない。移動時に見ることが多いNOTTVは、時間枠で視聴者をしばる放送との親和性が低いからだ。スマートフォンの画面を見ている機会が多いだろう、公共交通機関での移動時や職場、学校での休み時間に合わせて、番組枠が編成されているはずもない。

 利用者がスマートフォンをいつ利用するのか? と問われても、誰も応えることはできないはず。いつ使いたくなったとしても、すぐに手元の中にコンテンツが入っていて、選べば最初から楽しめるようでなければ、”生放送”以外の番組で魅力を引き出せないだろう。翻って、いつでもオンデマンドで放送品質の映像を選んで楽しめるというのなら、有料放送でもお金を払いたいという人はいると思う。

 シフトタイム再生可能なコンテンツが、いつでもアプリを立ち上げたときにズラズラっと並ぶようになれば、またNOTTVに対する見方も変化するのではないか。ライブチャンネルのTwitter連携の使いやすさなども改善する必要はあるだろうが、まずはモバキャスの良いところをきちんと伸ばし、訴求することから始めるのがいいように思う。

 本当は、このコラムが掲載されるころには「もう十分、タイムシフトコンテンツたくさんありますよ」なんて声が出てくるといいのだけれどね。

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