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CESで話題になったディスプレイ技術を一挙レビュー、製品化の見通しは?CES 2016(2/2 ページ)

» 2016年01月14日 14時07分 公開
[本田雅一ITmedia]
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「Backlight Master Drive」登場でOLEDは不要になる?

 一方、ソニーに関しては昨年モデルの「X9400」を超えるような上位モデルは、今回は発表されていない。もちろん、これは”今年発売しない”という意味ではないが、もともとソニーの液晶テレビはローカルディミング制御が優秀で、ピーク輝度も1200nits以上まで出せる、いわば”HDRの準備がもっともできていた”液晶テレビだ。

昨年5月に発表した75V型の「X9400」

 ファームウェアアップデートでHDRに対応した「X9400」は、そのまま他社上位モデルと互角に戦えるだけのHDR画質をすでに備えている。分割数がやや少ないと思われる「X9400」でも、時折見える“ハロ”を除けば充分にいい絵を出していることから、年末に向けて発表されるだろう上位モデルにも期待できそうだ。

 さて、別記事でも紹介したBacklight Master Drive(BMD)は、直下型LEDバックライトの配置密度を高め、格子フィルターで分割領域からの漏れ光を抑え込むことで、ローカルディミングの分割数を常識外れに高める技術だ。

 すでに伝えていたように、新タイプのLEDと前出の光学系を用いることで、最高4000nitsの超高輝度を実現する。4000という数字は、UHD BDでコンテンツグレーディングの目安とされる1000nits前後の4倍となり、ドルビーラボラトリーが開発した高輝度HDRマスタリングモニター「Pulsar」と同等レベルになる。こうしたシステムで問題となりやすいLEDの発熱問題に関しては、ペルチェ素子や水冷といった特殊な手法を用いずに対応できているとのことだ。

 デモシステムは85インチサイズで、分割数は非公開だが横方向に1000〜1200ぐらいあるのでは? と想像されるほど、バックライトだけで”ほんのり映像が分かる”ぐらいの解像力がある。サイズを小さくすると、LEDの配置密度が詰まってくるためめ、より熱の問題が大きくなるが、ソニー側は“課題”とは認識しつつも、解決できると考えているという。

バックライトだけで”ほんのり映像が分かる”ぐらいの解像力がある

 ソニービジュアルプロダクツとソニービデオ&サウンドプロダクツの社長を兼務する高木一郎氏は、「米中の大型テレビ市場では、75インチ以上に人気がシフトしてきている」と発言している。完全な推測だが、ソニーが力を入れているプレミアムクラスのテレビも75インチ程度をメインと考え、BMDの適用もそれ以上を想定しているのかもしれない。現地では「50インチまで小さくしようとすると難しい」という言い方もしていた。

 さて、発熱が抑えられているのは”全体の消費電流を増やさない”ように、ローカルディミング制御で集めた電力を高輝度部に割り当てているためで、こうしたバックライト輝度制御の中で、熱密度の極端な上昇を抑えているのかもしれない。

 ソニーの説明によると、画素ごとに対応したディミングを行えない液晶の場合でも、眼球内で発生する光の拡散により、光源周囲に明るく見える部分が発生するため、BMDぐらいの分割数となれば“ハロ”は感じられなくなるそうだ。

 HDR時代の業界標準となりつつあるマスタリングモニターにソニー製「BVM-X300」がある。RGBそれぞれに発光する画素構成のOLEDパネルを採用し、色の正確性や色再現域の広さ、それに最大1000nitsまで伸びるHDR表現など、HDR映像制作に欠かせないアイテムとなっている。

 ソニーには昔から「神」と呼ばれるモニターがある。歴代のBVMシリーズの中でも、完全に調整しきって管理もしっかりした社内の基準となるモニターのことだ。今でいえば「BVM-X300」(の中でも社内リファレンスとしているもの)が神様になるため、”神の領域に近付く技術”とソニーは表現していた。その煽り文句はともかくとして、「BVM-X300」と比較しながらBMD搭載モデルを見ることができたため、その長所が見えてきた。

”OLED+BMD”がソニーの戦略か?

 CESを取材している中で「BMDが実用化されれば、OLEDは不要になるのでは」という意見も聞かれたが、筆者はそうは思わない。それぞれに長所が異なるからだ。

 BMDの長所は、なんといっても既存技術である液晶パネルを使えることだ。大型液晶パネルはOLEDに比べて圧倒的に安価に調達できる。中国では第11世代工場への投資が始まっており、将来はさらに価格が落ちていくだろう。

 先に高木氏が発言していたように、米中の大型テレビが75インチ以上にシフトしているのなら、OLEDがのサイズまで追いつくにはかなりの時間がかかる。65インチを超えるOLEDパネルは経済合理性を考えて”ない”と考えるなら、そこはBMDが活躍できるフィールドだといえよう。

 しかし、LED配置密度が極端に高いこともあり、BMD採用テレビの小型化にはハードルがある。ソニーとしては65インチ以下のプレミアムモデルに関しては、”将来は”というただし書きが付くものの、LGディスプレイが作るOLEDパネルの品質を確認しながら、しかるべきタイミングで製品化すると考えられる。ソニーの高木氏も「合理的といえる条件がそろえば、OLEDを将来使うこともある」と話しており、取材を通した全般のニュアンスとしても”前向き”と捉えられる反応だった。

 そのタイミングはいつか? というと、今から予想するのは難しいが、筆者は2017年秋にOLEDテレビとBMD採用液晶テレビがラインアップに混在していても驚かない。また、BMDではローカルディミング制御を行うマス目に合わせて格子状のフィルターを用い、また導光を工夫することで光利用率を高める工夫をしていることから、年内に発表されるだろう上位モデルも高いHDR性能を持っていると予想される。一歩先に投入されるパナソニックの「DX900シリーズ」とともに、BMDのノウハウを注入したソニーの次世代上位モデルも今年後半の注目製品になるだろう。

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