逆回転が元に戻った時が“買い”とは?週1回リアルタイム連載「誠倶楽部」

» 2007年08月27日 22時54分 公開
[高橋暁子,Business Media 誠]

第1回:持ち金100万円!超ビギナーとダメ投資家が株に挑戦

第2回:1週間が経過。超ビギナー3人が買った株はどうなった?

第3回:「誠倶楽部」に指南役が登場! 「銘柄選びは難しくない」

第4回:「リア・ディゾン銘柄は手放すな」の意味とは?

第5回:要注意! “叶姉妹銘柄”には手を出すな

第6回:“株主優待”狙いで株を買う場合の狙いとは?

8月10日までの結果。高橋1人が持ち金100万円を超えていたが、再びマイナスに転じてしまった

 7月から始まった素人集団のバーチャル株取引企画「誠倶楽部」。超ビギナーとダメ投資家が「持ち金100万円」「期間3カ月」の制限内で気になる株を買い、運用してみるという特集連動企画だ(7月9日の記事参照)

 誠倶楽部のメンバーは土肥義則、真野裕章、高橋暁子の3人。第3週、真野は「業績が好調な銘柄」として、任天堂(7974)を買った(7月23日の記事参照)。ニンテンドーDSやWiiが好調で株価は上昇を続けたが、残念ながら第5回で下落(8月6日の記事参照)。第6週では、株主優待の優待目当てで権利確定日直前まで株価が上がるかもしれない、ということで牛丼の吉野家ディー・アンド・シー(9861)を購入したがどうなったのか(8月13日の記事参照)。高橋はモバゲータウンで人気を集めるディー・エヌ・エー(2432)を保有し、7月20日から8月3日の2週間で20%ほどの上昇率、念願の持ち金100万円を突破したが、8月10日で再びマイナスになってしまった。土肥は7月末からの不安定相場に恐れを感じ、第4週目に取引を中止(7月30日の記事参照)。8月3日から再び株取引を始め、三菱商事(8058)とニコン(7731)を3週連続保有している。さて、それぞれの結果はどうなっただろうか?

誠倶楽部メンバー紹介

Business Media 誠の編集部員、土肥義則・持ち金84万4000円(左)、Business Media 誠の営業部員、真野裕章・持ち金87万9200円(中)、フリーライター、高橋暁子・持ち金98万9100円(右)、いずれも持ち金は8月10日現在

企画概要

 週1回(金曜日の午後3時東京証券取引所終了後)、誠倶楽部のメンバー3人が集まり、その週に買った株の値段の動きをチェックし、翌週どの株を買うかを決める。自分が保有する株に関するウンチク、来週に向けての意気込みを語る。その議論の模様と銘柄の価格、各自の資産状況(折れ線グラフ)は、翌月曜日に記事を掲載する。期間は7月〜9月の3カ月間。

ルール

  1. 最初の持ち金は1人100万円。
  2. 1度に持てる株は、1人2銘柄まで。それぞれをどういう割合で持つかなどは、個人の裁量に任せることとする。
  3. 原則的に金曜日に清算する。翌週に同じ銘柄を持ち越すことも可能。
  4. 売る場合、終値(市場取引で最後についた値段)で売り、別の銘柄を終値で買ったことにする。そして、その銘柄を月曜日から1週間保有し、金曜日に清算する。
  5. 空売り(他人から借りた株券を用いて売却を行う取引)は禁止とする。あくまで買いだけ。信用取引(株式投資の資金を証券会社から借りて行う取引)もナシ。
  6. 実際には売買の際に手数料がかかるが、証券会社や売買方法などによって違うので、本企画では考えに入れないものとする。

日経平均株価、急激な下落後に反発。新指南役は?

 連載スタート時には、ほとんど勘と希望だけで株を売買していた「誠倶楽部」。しかしビギナーズラックがあるほど相場の世界は甘くなく、1回目2回目とも全員マイナスという散々な結果に終わった。そこで指南役に「株取引の基本」から教わり、業績が良く株価が上昇している銘柄に絞った。そしてモバゲータウンで人気を集めているディー・エヌ・エーに目をつけた高橋は、持ち金100万円を超えたものの再びマイナスに転落。牛丼の吉野家ディー・アンド・シーを保有する真野は、持ち金90万円台を回復するか? 株取引の経験があるはずの土肥は、いまだプラスになったことがないという悲惨な状態が続いている。

 市場もここ2週間は荒れており、厳しい状況だ。米国のサブプライムローン(低所得者向け住宅ローン)問題に端を発し、日経平均株価は1万6000円台を割れ込んだ(8月22日の記事参照)。日経平均株価を振り返ると、8月17日には前日比874円81銭安で1万5273円68銭で引けたかと思えば、8月20日には一時650円を超える上昇となった。

 それでは今回(8月13日〜24日)の結果から見ていこう。結果は8月24日(金)の終値だ。

3人が買った銘柄の結果は以下の通り

土肥 ニコン(ミニ株) 3530円×100株=35万3000円→3370円×100株=33万7000円

三菱商事 2950円×100株=29万5000円→3060円×100株=30万6000円

持ち金合計 84万4000円→83万9000円

先週比 −5000円(−0.59%) 

真野 吉野家ディー・アンド・シー 18万9000円×4株=75万6000円→19万5000円×4株=78万円

持ち金合計 87万9200円→90万3200円

先週比 +2万4000円(+2.73%)

高橋 ディー・エヌ・エー 45万8000円×2株=91万6000円→48万9000円×2株=97万8000円

持ち金合計 98万9100円→104万7100円

先週比 +6万2000(+6.27%) 


 

誠倶楽部の成績に明暗が分かれた。高橋は再び持ち金が100万を超えたが、土肥は連続してマイナスが続いている

 

 波乱相場の中、高橋は“大健闘”とも言える結果を残した。ディー・エヌ・エーの株価が上昇し、持ち金は100万円を突破。真野も株主優待前の上昇期待で買った吉野屋ディー・アンド・シーが上がった。3人の中で唯一、これまで上昇したことがない土肥は、またしてもマイナスとなってしまった。

株の買い方のスタンス

 乱高下が激しい相場環境の中で、ビギナー投資家はどういった買い方をすればいいのか? サブプライムローン問題が引き金となり、世界同時株安となった金融市場について、マネックス証券投資情報部の清水洋介氏が分析した(8月1日の記事参照)

マネックス証券投資情報部の清水洋介氏

清水洋介

マネックス証券投資情報部長。慶應義塾大学法学部卒。1983年に大和證券に入社、以来、外資系証券会社などを経て現在マネックス証券で投資教育や相場解説に携わっている。営業やディーラーの経験を生かし、実践的なテクニカル分析に精通している。日本証券アナリスト協会検定会員、日本テクニカルアナリスト協会会員。

清水:まず、自分の株の買い方のスタイルを分かっていなければなりませんね。それから、どの株を買うのか、買うタイミングはいつなのかという問題もあります。株の買い方のスタイルには大きく2つあります。1つは投資で儲けるのが目的で買う株を探すスタイル。もう1つはここの会社が儲かっていそうだ、そこに投資をしようと意味で買うというアプローチですね。

土肥:企業の業績がいいから株価の上昇を期待する、つまり企業を応援して買うというスタンスです。

清水:投資をする人たちは目的やスタイルによって、4つに分けることができます。株を割安に購入して比較的長期間保有するのが「投資家」です。一般投資家の大部分は、この分類に入るでしょう。

 2つ目が短期間で株を売買する「投機家」。いわゆるデイトレーダーです。

 3つ目は「裁定取引」です。裁定取引とは、あらかじめ2つの銘柄を保有していて、割安な方を買い、割高な方を売って稼ぐスタイルです。2つの銘柄は同業他社を指す場合が多く、例えば電鉄会社で割安なA社を買い、割高なB社を売るという手法です。

 最後は「空売りヘッジ」で、中長期保有を目的に株を買い、下落しそうになれば株を担保に信用売り※をします。少し難しい話になりましたが、目的によって投資方法は違ってくるということです。

※信用売りとは、株を持っていない場合に、証券会社から株券を借りて売りを行う取引。売った時より株価が安くなっていれば、値下がり分が利益となる。

逆回転が元に戻った時が“買い時”

世の中の大きな流れを分析することが大切

真野:今後、どういった業種の銘柄を期待すればいいのでしょうか?

清水:それは、世の中の大きな流れを見ていく必要がありますね。例えば「これからは薄型テレビの時代だ」と思えば、薄型テレビのメーカーの株が買いだと判断できます。次は「じゃあ今買っていいのか?」と考えていくのです。メーカーでも、輸出が多いところは為替の影響を受けやすくなります。為替が円安になればそれらのメーカーの業績が良くなるので、これからどうなるのかを見ていく必要がありますね。

 お金は金利が高い国に流れる傾向があります。つまり、金利の安い日本でお金を借りて金利の高い米国に預けるというようなことが行われています。その結果、日本円を米ドルに交換することとなり、円が売られドルが買われる、つまり「円安ドル高」になります。このように、為替は金利の影響を受けるので、為替の動きを知る上では金利の動きを知っておかないといけません。

 また、金利を見るためには、それぞれの国の景気を分析する必要があります。各国の景気を把握するためには、その国のGDP(国内総生産)といった経済指標のほか、為替も見ます。金利が高く景気が良い国にはお金が流れるので、その国の通貨は高くなりやすいのです。

高橋:株と為替と金利は全部つながっているんですね。

清水:そうです。アメリカの景気が良いと言いますが、資金は経済発展が著しいブラジル(Brazil)、ロシア(Russia)、インド(India)、中国(China)の4カ国――それぞれの頭文字をとってBRICs(ブリックス)などの国から入ってきています。BRICsの景気が良くなってきていて、余ったお金が流れ込んでいるのです。

 中でも中国やインドの景気がいい。そのための石油が必要となり、石油産出国が儲かってお金が余る。そのお金がどこかに流入する。こういうふうに、お金は複雑にグルグルと回っていくものなのです。米国のサブプライムローン(低所得者向けの住宅ローン)は小さな問題ですが、それがめぐりめぐって世界に影響を与えているのです。

真野:サブプライムローン問題がなぜ日本に影響があるのだろうと思っていたのですが、そういうことだったんですね。

清水:そもそもは、円キャリー取引が問題視されていました。円キャリー取引とは低金利の円を投資資金として調達し、それを金利の高い外貨に投資するものです。例えば、米ドルなど高い金利をつけている通貨に投資をして、その金利差で稼ぐ手法です。しかし金融市場では「日本の金利が上がり、米国の金利が下がるかもしれない」という不安が増したため、お金の流れが“逆回転”を始めたのです。だから回転が完全に元に戻ったら、円高で下落した銘柄も買い時になるかもしれません。

人の心理を読んで売り買い

「不安だけで売られて、安心で買われている状態」だと分析

清水:為替の動きは、注意して見る必要があります。円キャリー取引が行われれば、円安が進行し、解消されれば円高になる傾向があります。つまり円高に進んでいる環境の中で、積極的な投資(円キャリー取引)を行う人が増えると円安になりますが、逆にリスクをとる人が少なくなると円高が進行するという環境ですね。

真野:そういうことだったんですか。

清水:ここ1週間(8月20日〜8月24日)の動きというのは、「リスクをとる人が減少した」と見ることができます。このような環境の時には裁定取引のほか、買いと売りを同時に持つ「ロングショート取引」が多くなります。ロングとは株を買って保有している状態で、ショートとは空売りを指します。通常の株式投資では、ある銘柄を買って値上がりを待つことが多いでしょう。また、信用取引で空売りする場合も、下がると予想する銘柄を空売りするのが普通です。しかし、ロングショート取引では、その両方を同時に行うのです。裁定取引もそうですが、ロングショートも一般的に「リスクが少ない」と言われています。

 サブプライムローン問題でヨーロッパのBNPパリバ銀行が営業停止に追い込まれたため、大騒ぎとなってしまった。しかし、多くの投資家がリスクの少ない取引として、裁定取引やロングショート取引を選ぶようになった――こうした動きが世界中で一斉に起きたので、株価は下げ止まってきたわけです。企業の業績が悪化したわけではないのに株価が下がって割安となったため、株が買われて株価は上昇しつつあります。要するに不安だけで売られて、安心で買われている状態なのです。

真野:不安心理の影響って大きいんですね。

清水:その通りです。株取引をしているのは人間なので、不安の影響はとても大きいのです。チャートを見る時も、みんなが何をしているのかを見るようにするといいですね。不安が取り除かれたら買う傾向にあるので、不安がいつ取り除かれるのかを追っていくと、売り時買い時が分かるでしょう。日々の細かな動きまでは読めなくても、この先上昇するか下降するかを予測するのは比較的難しくありません。

高橋:人の心理って分かるようで難しいですよね。

清水:そうなんですよ。冷静に考えれば分かるはずだけれど、行動が伴わないものなのです。私自身も、かつて後で考えたら「ここで売る馬鹿はいないだろう」というところで売ったことがあります。岡目八目という言葉通り、他人ごとなら絶対に分かるはずのことが、当人になると分からなくなるものです。それを冷静に分析するツールとして株価チャートがあるのです。

 例えば、最近の高値や安値は注意してください。株価が最高値や最安値で止まるケースは多いので、1つの目安となるでしょう。逆に言えば、高値まで上がり、安値まで下がる可能性が高いということです。こうした株価の動きの背景には、以前に買い損ねていた人が買ったり、売り損ねていた人が売ったりするため、株価がもみ合う※ことが多いのです。

※もみあい……売り手と買い手が拮抗しているため、株価が小幅な値動きを繰り返すこと。

土肥:来週(8月27日〜8月31日)の相場はどうなるでしょうか?

清水:来週の1週間は底入れ感が出てきたと思うので、これからの日経平均株価は1万6000円を固めた動きをするでしょう。ただし、為替次第というところはありますね。円と日経平均株価の動きは連動するケースが多く、円高が1円進むとと250〜300円ほど日経平均株価が下がるというデータもあります。株価の値動きを分析することも大切なことですが、為替の動きも必ず追いかけてください。

3人はどの銘柄を買ったのか?

新日本製鐵の株価チャート新日本製鐵の株価チャート(1年:縦軸の単位は円)ブリヂストンの株価チャートブリヂストンの株価チャート(1年:縦軸の単位は円)

土肥:ニコン(7731)は、デジタル一眼レフカメラの最上級機種と、中級機を11月に発売すると発表しました(8月24日の記事参照)。しかしキヤノンも新製品の投入を発表しているため、競争がますます激しくなるでしょうね。オリンパスやペンタックスの動向も気になりますし、売ろうかなと考えています。

真野:ニコンの代わりに何を買いますか?

土肥:円高の時は輸出に頼りすぎていないところがいいので、鉄鋼メーカーの新日本製鐵(5401)を買おうと思います。7月下旬から8月上旬ごろまでもみあっていた900円まで上がってほしいですね。三菱商事(8058)は継続して保有します。

真野:思った通り株主優待券確定日で吉野家ディー・アンド・シー(9861)が上がりました。ここで吉野家ディー・アンド・シーは売って、タイヤ業界のブリヂストン(5108)を買います。海外でのタイヤ価格の引き上げや、高機能タイヤの販売が好調なため、業績の上方修正が予想されているので上がることを期待しています」

高橋:前回はかなり下がって迷いが出たんですが、また上がってきたのでディー・エヌ・エー(2432)はこのままキープします。携帯初の3Dポリゴンを利用したオンラインPRGも始まるので、今後の株価に期待しています(8月20日の記事参照)

土肥 三菱商事(継続保有) 3060円×100株=30万6000円

新日本製鐵 804円×600株=48万2400円

真野 ブリヂストン 2395円×300株=71万8500円

高橋 ディー・エヌ・エー(継続保有) 48万7000円×2株=97万4000円


 果たして3人が買った株はどうなるか? 真野・高橋は日経平均株価上昇の波に乗って更にプラスを増やせるか。次回、いよいよ土肥初のプラスなるか? 8月31日(金)の結果をお楽しみに。今回3人が買った銘柄や、買い方についてご意見・ご感想はこちらこちらから。また記事へのトラックバックもお待ちしています。

今回学んだこと

清水さんからのアドバイス

  1. 世の中の大きな流れを見て、銘柄とタイミングを考える。
  2. 株価チャートを見て「みんなが何をしようとしているのか」と分析すれば、今後の株価を予測することは難しくない。
  3. 為替と日経平均株価の動きは連動する傾向にある。

※同企画は株式投資に当たっての参考情報です。投資判断は自己責任でお願いします。

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