「貯蓄から投資へ」と政府が旗振り役となって、国民の金融資産の偏りを変えていこうという動きがある。長く続く低金利の影響もあって、投資信託の残高は増加傾向にある。今、資産運用ビジネスの現状はどうなっているのだろうか。
公開データが少ないため謎の部分が多いなか、野村総合研究所は変貌を遂げている資産運用の実態を公表した。このほか今後3〜5年後、資産運用ビジネスの見通しについて、日系企業と外資系企業に分けて調査した。
日本の金融資産は約1500兆円と言われているが、大部分は預貯金が占めている。しかし金融資産残高の内訳を見ると、郵便貯金などが年平均20兆円ペースで減少する一方、投信などに資金が流入している。今後5年間で団塊世代の退職金が50兆円以上、家計に流れ込むという。
野村総研の金融ITイノベーション研究部の堀江貞之上席研究員は「退職金は一時的に、定期預金などに預けるかもしれない。しかし生活資金を確保するため、投信などに流れるだろう」と推測する。融資残高が伸び悩む銀行は、手数料収入を見込んで投信の販売を強化している。そのため個人投資家とのニーズが合致する可能性が高く、年間で15〜20兆円の資金が投信にシフトすると見ている。
投信は資産を運用する投資信託会社(投信会社)で作られ、証券会社や銀行などで販売する。そして個人投資家から集めた資金を、信託銀行が管理する。つまり販売・運用・管理、それぞれが分担して運営しているのが特徴だ。
投信の残高は、2003年3月末で約40兆円だったが、2007年3月末には106兆円と4年間で倍増した。さらに5年後の2012年には、240兆円に達するという。運用収入も2007年3月末は3700億円だったが、2011年3月末には8700億円と倍増を見込む。
日本の投信会社の特徴として、営業利益率※の高さがある。2006年度の営業利益率は34%だったが、米国は31%、英国は30%にとどまっている。利益率が高い上、「運用額が増えれば増えるほど儲かるビジネスのため、外資系企業が日本に進出する可能性は高い」(同)としている。
投信会社は過去最高の収入が続いているが、ここ4年間で運用額が多かったのは、大手の日系企業だった。投信販売の半分以上は銀行のため、同じ金融グループに販売会社を持つ日系企業のシェアは高い。「販売会社は都銀からゆうちょ銀行などすそ野が広がっている。しかし投信会社は、商品内容や販売方法など販売会社を支援しなければならない。そのため従業員が多い日系企業の大手がシェアを拡大した」(同)と分析する。
投信ビジネスは「日系企業が強い」と思われるが、シェアの高さはあくまで表面的なことにすぎない。外資系の投信会社は、投信の運用や助言などをする「サブアドバイザー」の役割を担っている。一般的にサブアドバイザーは表に出ないため、実態が分かりにくい。野村総研の調査によると、2003年3月末には投信残高の5%を外資系のサブアドバイザーが運用していたが、2007年3月末には45%と急成長を遂げている。
つまり外資系企業が運用する投信を、日系の投信会社は顧客のニーズに合ったものに商品化する。そして、同じ金融グループの銀行などが、投信を販売するという構図だ。
野村総研は「資産運用会社の経営課題」に関するアンケートを実施した。郵送による調査で、42社が回答(日系企業22社、外資系企業20社)。調査期間は2007年6月4日から6月25日まで。
「今後3〜5年間の資産運用ビジネスの見通し」について、「年率20%以上増える」と回答した日系企業は41%。一方、外資系企業は「年率20%以上増える」が58%と、日系企業を上回った。
その理由として外資系企業の26%は、年2割以上のペースで人員を増やす予定で、資産運用ビジネスに積極的な姿勢がうかがえる。半面、人員を年2割以上増やす、と回答した日系企業は0%だった。
日系・外資系企業ともに投信に力を入れていく、という結果が出た。中でも外資系企業の37%はサブアドバイザーで、年率20%以上の増加を見込んでいる。日系企業はサブアドバイザーに消極的で、年率10%以下が42%で最も多く、年率20%以上の増加は0%だった。
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