iPodが発見したブルー・オーシャンとは――「戦略キャンパス」「4つのアクション」で分析岡村勝弘のフレームワークでケーススタディ(3/3 ページ)

» 2009年02月18日 07時00分 公開
[GLOBIS.JP]
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 さて、iPod発売後の快進撃については多くを語るまでもないだろう。

 2001年11月、初代iPodはMacintosh専用で、約1000曲を格納できる5GB HDD搭載、重さ185グラムのモデルとして399ドルで発売された。翌7月、第2世代iPodはWindowsにも対応、10GB(399ドル)、 20GB(499ドル)と容量を格調した。2003年4月には、“ultrathin”の第3世代を発表、価格も10GBで299ドル、15GBで399 ドル、30GBで499ドルと、更に引き下げた。

 このように市場を開拓した後には、製品の競争力を上げるために、急速に性能の向上、価格の低減を図り、世代交代させていった。また、ユーザーのセグメントに合わせ、「iPod nano」、「iPod shuffle」などシリーズを拡充。国際展開も急ぎ、日本でも後発ながら首位になった。音楽だけではなく写真や動画にもカバー範囲を広げ、これら技術を引っ下げ、2007年6月には「iPhone」を発売。携帯電話市場に参入するに至った。クラスで、1999年代のアップルコンピュータを描いたケースなどを学んだ人から見ると、信じられないほどの復活劇ではないかと思う(このケースから、その後のアップルの大躍進を言い当てられる人は、まずいないだろう)。

 この間、競合はどうしていたのか。ソニーは1979年のカセットプレイヤー「ウォークマン」の発売来、携帯音楽プレイヤーの市場で長くリーダーとして君臨していた。デジタルプレイヤーにも1999年にはフラッシュメモリー内蔵のウォークマンで、いち早く参入。同時期に音楽配信サービス「bitmusic」を始めていたことは先にも述べたとおりだ。

 2004年には、アップル追撃に向けて米国にコネクトカンパニーを設置。オーディオ製品同士を接続して付加価値を創出することを目指し、ハードウェアだけではなく、コンテンツ配信ビジネスにも本腰を入れた。しかし現時点では、まだ充分な結果が出ているとは言いがたい状況だ。日本でもアップルに大差を付けられているものの、昨年よりシェアを伸ばし始めており、復活の萌芽が見られないわけではない。

フレームワークは考える一助となるツール

 今回は、iPodという身近で分かりやすい商品について「ブルー・オーシャン戦略」で検討してきた。携帯音楽プレイヤーという、一見すると参入障壁の非常に高い製品群を、新たな捉え方をすることで従来にない市場開拓につなげ、他社と血みどろの戦いをすることなく勝ち続けているという意味では、非常に適切な事例だったと思う。しかし一方で、実際に手を動かして「戦略キャンパス」を作成してみると、このツールによって本当にブルー・オーシャンを発見できるのか、「4つのアクション」だけでビジネスプランを精査していくことには無理があるのではないかと、疑問も残る。

 ただ、もとより「フレームワーク」というのは、そうしたものなのだ。どれほど有名なものであっても、既存のフレームワークだけで現実のビジネスを完璧に説明することは難しい。フレームワークは、物事を整理し、考えるためのツールに過ぎず、まずは既存のフレームワークを使って何が分かるか、説明できるか、逆に何が分からないか、おかしいところはどこか、と検討しながら、徐々に結論に近づく一助として活用していくことが肝要だ。本連載で行っているように様々なフレームワークを取り上げ、実際に当てはまりそうなビジネスの事例を探し、個々のフレームワークの長所・短所を体得していくことも、良いトレーニングになるだろう。著名なフレームワークを知識として覚えるだけではなく、日々、考えるツールとして使ってみること。その過程こそが、新たな視点の獲得、経営力向上につながるものとして重要と、筆者は考えている。

著者プロフィール:岡村勝弘

静岡県生まれ。京都大学農学部卒業。農林水産省、リクルートののち35歳で独立起業。Y&Kカンパニーズ代表取締役(ソフトウェア企画制作販売)、アクセス(iModeのブラウザ開発)、Amazon.com(日本進出)、Apax Globis Partners(ベンチャー・キャピタリスト)。現在、有限会社トレジャークエスト代表取締役。丸の内ビジネス人勉強会主催。著書に『ロンおじさんの贈りもの―30日間ビジネス・レッスン』『ビジネス・バカを極めろ』。


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