もはや100円でも売れない……自販機不況に活路はあるか?郷好文の“うふふ”マーケティング(2/2 ページ)

» 2009年11月19日 08時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]
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男臭い飲料市場が縮小

 だが自販機の需要減は大口顧客の減少だけが理由ではなく、もっと根が深い。“お手軽から本物への変化”である。

 コーヒー豆を買って楽しむ“家コーヒー”が流行るのは、好きな味が選べるしカフェよりも安いから。用具をそろえてのコーヒー修行も楽しい。紅茶や日本茶にも波及して、ティー・バッグや茶葉が売れる。さらに街角に増えてきた生ジュースや野菜ジュース、タピオカミルクティーなどのドリンクバーは、高単価だがペットボトルや缶飲料には真似できない味を提供する。

 購入者の9割が男と言われる自販機市場。工場・現場・街角で買う姿は圧倒的に男ばかりだ。男の就業や収入が減る今、いつでもどこでもという“衝動定価購買”は縮小し、缶コーヒー業界だけの競合は終わりつつある。家コーヒーやドリンクバーに競合相手が変化したのだ。お客さんが女性やこだわりにシフトして、合理や効率で買う“男臭い飲料市場”は寿命切れしてしまった。

昔、自販機にはロマンがあった

 でも、ふと思う。昔(1970年代くらいかな)、自販機で買う体験は光っていた。

 街角の四角い機械の中の飲料が、先端的でキラキラしていた。お金を入れる。ボタンが点灯する。どれにするか決めていたのに、一瞬迷う。ええいと押すと、ゴトンゴトンとキラキラ飲料が降りてくる。お金だけが食べられて、思わずコブシで叩いたこともあった。夜中、自販機を蹴飛ばしているヤツもよく見かけた。釣り銭口に誰かが取り忘れた50円があって、もうけたこともあった。自販機で買う時に物語があった時代だ。

 機械にも驚きがあった。お湯の出るカップめん自販機や、中で棚が回転してスナック菓子を選ぶ自販機は傑作だった。買いもしないのに棚をぐるぐる回したものだ。今の自販機はあのころよりずっと便利に、ずっと故障知らずに、電子マネー対応にもエコにもノンフロンにもなったが、ロマンはなくなった。

のどが乾いていない時代の自販機ビジネス

 もう1つ、大きな変化がある。今はみんな“のどが乾いていない”のだ。

 昔、コカコーラがうまかったのは、のどが乾いていたからだ。真夏の道をてくてくと歩く。汗も出切ったころに、赤い自販機を見つける。カラカラののどに冷えたコーラが染みていく。実にうまかった。今は違う。“ビタミン補給”“体内バランス”“ダイエット”のために飲料を飲む。乾きを癒やすわけではない。

 だから自販機は、もはや飲料を売らずに“カラダにいいこと”や“ワクワク”を売るしかないのかもしれない。例えば、牧場脇の絞りたてミルク自販機(時価販売)とか、季節限定・産地直送の飲料とか。もはや100円でも売れない時代なのだから。

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