私の母が亡くなってもう30年以上が経ちましたが、私にはいまだに母に対してあることをしてしまった後悔があります。母が亡くなったと聞いた夜、頭に浮かんだのもそのことでした。
母が苦労をしたことは当時から分かっていたというのに、学生の頃に何かのはずみで母と口論になり、つい心にもなく母に「バカなんだから」と口走ってしまったのです。母も気の強い性格ですから、いつもなら「うるさいッ」とか負けずに言い返してくるはずなのですが、その時はなぜかシュンと小さくなって落ち込んでしまいました。そんな4、5年前の姿を、亡くなったその日の深夜に不意に思い出したのです。
母に悪態をついたことは今でも急に思い出します。謝ることをせずに母を亡くしたことはまだ引っかかっています。
母は53歳で生涯をまっとうしたと私は思っていますが、母にしてあげられなかった後悔は、ほかにもたくさんあります。母を海外に1度も行かせてあげられなかったこと、リウマチを治してあげられなかったこと。まだ独身でしたから、妻も、もちろん孫も見せてあげられなかったこと……。
私は母の死に立ち会えませんでしたが、だからといってそれを後悔はしていません。
そんなことよりも大事なのは、話ができるときに大切な人と語り合うことではないでしょうか。生きている間に語り尽くすことのほうが、死に立ち会うことよりもよっぽど大事なことだと思います。
死に立ち会えないのが親不孝なのではありません。生きていろうちに、謝るべきことを謝っておかなかったほうがずっと親不孝だと私は思います。謝りたいことがあれば、相手が生きているうちに謝るべきです。
(次回は「やりたかったことができなかった」について)
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