Androidは「イノベーションを重視したエコシステム」――Google ラーゲリン氏とNTTドコモ 阿佐美氏に聞く(前編):神尾寿のMobile+Views(2/2 ページ)
新しい機能を次々と取り込み、進化を続けるAndroid。その進化のスピードにはいい点も多いが難しい問題もはらむ。GoogleとNTTドコモは、日本のAndroidをどう進化・発展させていくのか。Googleのラーゲリン氏と、NTTドコモの阿佐美氏に話を聞いた。
Android 4.1最大の魅力は「ユーザー体験の向上」
―― 今年の夏商戦はAndroid 4.0搭載のスマートフォンが主流ですが、6月28日には“Jelly Bean”ことAndroid 4.1が発表されました。Androidは、まさに矢継ぎ早にバージョンアップをしていますね。
ラーゲリン氏 まずはAndroid 4.0がようやく市場投入されたばかりで、もう4.1の発表かと思われた方も少なくないかもしれません。私自身、かなりのガジェット好きなのですが、これほど(OSのバージョンアップが)速いと、喜びがある一方で苛立ちもあるのではないかなとも思います。最先端の(Androidを搭載した)スマートフォンが欲しいのに、すぐに新しいバージョンが発表されてしまうと(苦笑)。
GoogleはWebで生まれ育った会社なので、そのカルチャーが根強くあるのは確かです。Webでのイノベーションはブラウザを通じてすぐに広がっていく。(スマートフォンで)やりたいことは盛りだくさんで、うちのエンジニアはストップをかけられないのですよ。AndroidでもWebと同様のスピード感で進化を進めてしまう。このペースにつきあっていただいているメーカーやキャリアの皆さん、そしてユーザーの方々には深く感謝しています。
―― Androidの進化の早さは、Googleという会社の気質のようなものですね(笑)
ラーゲリン氏 ええ、そのとおりです。それでステークホルダーの方々にご迷惑をかけてしまうこともあるのですが、一方で、Androidのバージョンアップが早いことは「(お客様に)イノベーションが早く届く」というメリットがあります。
―― Android 4.0と、次の4.1の関係性はどのようなものになるのでしょうか。
ラーゲリン氏 Android 4.0ではスマートフォンとタブレットのOSを統一し、基本的な構成を見直しました。これはどちらかというと、メーカーやソフトウェア開発者にとって重要な進化だったかなと思っています。
一方で、次のAndroid 4.1に関しては、コンシューマーがスマートフォンの進化を実感できる機能を盛り込みました。ユーザーがメリットを感じる部分も多くなるでしょう。
―― Android 4.1で、もっともメリットを感じるのはどこになるのでしょう?
ラーゲリン氏 ユーザー体験の部分です。(Android 4.1では)“人間が触れてうれしいなめらかさ”をどのように実現するか。ここを最優先のテーマにしました。機能面だけで見ますと、Android 4.0でも十分な完成度になっているのですが、ユーザーが使っていて気持ちいいと感じるクオリティの部分では、Android 4.1の方が格段に上になります。
―― ユーザーエクスペリエンス(UX : ユーザー体験)というとAppleの「iOS」が強いという市場評価があるわけですが、次のAndroidでは、まさしくそこで勝負する、と。
ラーゲリン氏 そうですね。論理的にすばらしいものだけでなく、優れたユーザー体験をいかにオーガニックに実現するか。(Android 4.1に関しては)そこにこだわりました。
スペックや機能の面で見れば、Androidはずっとライバルをリードしています。今回はその優位性を維持しつつ、誰もが使いやすいもの、触って気持ちいいと感じるものを目指しました。
阿佐美氏 ドコモ側から見た時も、Android 4.1で基本的なユーザー体験がよくなるというのは期待しています。ご存じのとおり、我々はAppleのiPhoneを扱っていません。市場でiPhoneに対抗していく上で、Androidの使いやすさやユーザー体験が向上するというのは、とても重要なことです。
また、我々の経験では“UIがよくなるだけでサービス利用率が向上する”という傾向が見えています。例えば、dメニューはさまざまな機器で利用できますが、Webブラウザの使い勝手のよい端末の方がお客様の評価が高い。すなわち、OSの基本的なユーザーインタフェース(UI)やWebブラウザなどの基本アプリの善し悪しで、(その上で展開される)サービス性の部分の受け取られ方も大きく変わるのです。ですから、我々が手が出せないOS部分のUIが改善されるというのは、(dメニュー/dマーケットなど)ドコモのサービス利用率向上にもつながりますので、大きなメリットがあります。
―― 確かにWebブラウザなど一般ユーザーが“もっとも触れる部分”の基本的なユーザー体験の向上は、スマートフォン全体に対するイメージを左右しますね。
ラーゲリン氏 Webブラウザはとても重要ですね。一般ユーザーのスマートフォン利用を見ますと、重要なのは「メール」と「ブラウザ」の部分なのです。
Android 4.0になって初めてブラウザに「Chrome」が利用できるようになりました。このChromeのユーザー体験はとてもすばらしく、これによってブラウジングがPCからタブレットにかなりシフトし始めています。このChromeは、HTML5ベースで今後のWebの標準を取り込んだものであり、ドコモ(のdメニュー)などキャリアのサービスも利用できます。Chromeは今後のAndroidにとってさらなる強みになると考えています。
Android 4.1以降は「PDK」を提供、バージョン問題も解消へ
―― Android 4.1への期待は高まりますが、一方で、Androidはバージョンアップがとても早く、今回のAndroid 4.0と4.1の関係もそうなのですが、“店頭に新バージョン搭載のスマートフォンが並ぶ頃には、次のバージョンが発表されている”ということがままあります。
さらに、もう1つの問題として、メーカーごと・機種ごとに将来的なバージョンアップの対応がまちまちで、せっかく買った新機種が購入後1年もせずに旧バージョン搭載機になり、バージョンアップ対応も遅れて歯がゆい思いをすることも少なくありません。
これらAndroidの「バージョン」をめぐる問題は、ユーザーにとってとても悩ましいもので、消費者心理を冷え込ませてしまうこともあると思います。この点について、今後どのように改善していくのでしょうか。
ラーゲリン氏 そうですね……。まずNexusプログラムに関しては、必ず最新のバージョンが使えるようになります。日本市場でも(ドコモ向けの)「GALAXY NEXUS SC-04D」が入手できます。
では、それ以外の端末はどうなのかと言いますと、これはメーカーさん次第になります。ハイエンドユーザー向けのモデルでしたら、いち早く最新バージョンに対応することにプライオリティが置かれるでしょう。一方、初心者ユーザー向けのスマートフォンのように、かなり(メーカー側で)カスタマイズが施されているようなものであれば、最新バージョンに対応するよりも安定性が優先されることになります。例えば、ドコモの「らくらくスマートフォン」などは、そういった例になります。こういった考え方は、PCの世界に似ていると言えます。
―― AppleはハードウェアとOSを1社で手がけていますのでバージョンの管理がしやすいというのは当然です。他方で、Microsoftが「Windows Phone」において、ハードウェアの仕様をかなりしっかりと策定し、ハードウェアメーカーの開発をコントロールするような形で、(メーカーごと・機種ごとで)OSバージョンの足並みをそろえやすくするという施策を行っています。Androidでも、Googleがハードウェア仕様を細かく策定してコントロールしていくという考え方はないのでしょうか。
ラーゲリン氏 GoogleはインターネットのDNAを持つ会社なので、ユーザーやメーカーを縛るという発想はありませんね。ユーザーがどのバージョンのOSやWebブラウザを使うかとか、(ハードウェア仕様や利用環境を)一律にコントロールするというのは、妥当なエコシステムではないと思っています。クリエイティビティとイノベーションを推進していくには、やはり自由度のバランスを取らないといけません。息苦しさを感じさせてしまうエコシステムは、よくないと思いますので。
―― なるほど。ドコモから見た時も、バージョン問題に対する見解はGoogleと同様なのでしょうか。
阿佐美氏 エコシステム全体として見れば、ベースとなるOSが柔軟性を持ち、進化していくことは大切だと思います。しかしその一方で、アプリやコンテンツの充実を考えますと、(OSバージョンの分断に関して)きちんとサポートしていくこともまた重要です。ドコモではAndroidスマートフォンのリモートテスト環境を用意するなどして、この問題のケアをしています。
ラーゲリン氏 あと、Androidのバージョン問題に関しては、iOSと比較するばかりではなく、過去とも比較していただきたいですね。フィーチャーフォンの時代には、メーカーごとのOSバージョンの違いどころか、搭載する機能やWebブラウザもバラバラで、国ごとやキャリアごとのポリシーも違って、(Androidスマートフォンよりも)もっとプラットフォームの分断が起きていました。グローバルで、アプリやサービスを展開することは事実上、無理だったのです。その時代と比較して、Androidスマートフォンはよい方向になっていると言えるでしょう。
それから、これは業界内部での取り組みになるのですが、GoogleではAndroid 4.1から「Platform Development Kit(PDK)」というものを用意していまして、新OSの開発中からハードウェアメーカーや主要サプライヤーにプレビュー版を広く試していただけるようにしました。これによりAndroidの最新バージョンが正式リリースされてから、実際の各スマートフォンがバージョンアップされるまでの期間が大幅に短縮されるのではないかと期待しています。
―― スマートフォンメーカーを取材していると、「新OSの情報開示がもっと早ければ、すばやい対応ができるのに」という声は多く聞きます。Android 4.1以降はそれがPDKという形で提供されるというのであれば、Androidのバージョン分断の問題も次第に解決していきそうですね。
ラーゲリン氏 今まではリードデバイス(であるNexus)を作っているメーカーには先行して開発中OSを提供していたのですが、PDKではそれが全メーカーで利用できるようになります。ですから、新バージョンへの対応がリードデバイスメーカーと同じようにやりやすくなるでしょう。Android 4.1以降は、この取り組みをしっかりとやっていきます。
―― 逆説的に言えば、PDKが用意される4.1以降は、メーカー側が「開発中のAndroidがなかなか提供されないので、最新バージョン対応やバージョンアップへの準備が難しい」という言い訳言いわけがしにくくなるかもしれませんね。メーカー各社の最新バージョン対応への努力に期待したいところです。
(後編へ続く)
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