オタクビジネスを成功させる「商品のストーリー性」とは:オタクの心をつかめ(3/3 ページ)
2011年、ラーメン店「太陽のトマト麺」がアニメ映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』とコラボしたキャンペーンを展開した。ストーリーに沿ったアイテムや場所などは作品のファンに受け入れられやすい。アニメ本編に登場した事実を商品へとつなぐのは「オタクビジネス」を成功させる1つのポイントなのだ。
オタクの宗教的儀式「聖地巡礼」を活用した町おこし
キリスト教やイスラム教など、世界の宗教には聖地があり、巡礼という宗教的行為が存在する。そして、オタクにも「聖地巡礼」という独特の儀式が存在する。作品を神として崇め、その作品に登場する舞台を聖地として実際に訪れるというものだ。
例えば先述の『新世紀エヴァンゲリオン』であれば神奈川県足柄下郡箱根町、『涼宮ハルヒの憂鬱』(※2)であれば兵庫県西宮市、『千と千尋の神隠し』(※3)であれば台湾の九フン(フンはにんべんに分ける)が聖地となる。なお、作品に登場すれば全てが聖地となるので、聖地が複数の市や場所にまたがっている場合も多い。
ご当地限定グッズの威力
「エヴァローソン」を行った箱根町は現在も町をあげてエヴァンゲリオンとのコラボレーションを行っており、多くのファンを取り込むことで町の活性化を目指している。最近では「箱根補完マップ ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」を箱根山仙石原文化センターで先行配布し、郵便局で限定の『オリジナルフレーム切手セット 第3新東京市にようこそ ヱヴァンゲリヲン新劇場版(1500円)』を販売、箱根町の公用車を綾波レイの痛車にカスタマイズした。
また、『らき☆すた』(※4)で聖地とされている埼玉県久喜市鷲宮の鷲宮神社にも毎年初詣などに多くのオタクが押しかけている(鷲宮神社は『らき☆すた』に登場するキャラクターの実家という設定になっている)。
実はこの鷲宮こそが近年の、町ぐるみで作品を取り入れるという「聖地推奨型地域」のはしりなのである。鷲宮神社は鷲宮商工会と協力して『らき☆すた』の版権を取り、地域限定の木製のキーホルダーを7種類製作して、鷲宮町(当時。現在は合併して久喜市鷲宮)のいくつかの店舗で種類を分けて販売した。
これがオタクの興味を誘い、爆発的な巡礼者を獲得したのである。オリジナルキーホルダーは当然鷲宮町へ行かなければ手に入らず、その限定品を全てコンプリートするには各店舗をまさに“巡礼”する必要があった。また、巡礼に行ったオタクは、オタクコンテンツというものに半信半疑でありながらも自分たちを好意的に受け入れてくれる町の人に好感を持ち、町のファンにもなっていったのである。その後、鷲宮商工会は限定グッズが貰える飲食店のスタンプラリーを行ったり、「ツンダレソース」などの現地限定グッズを販売し、『らき☆すた』という作品を全力で取り込むことで町おこしに成功した。
2010年の『らき☆すた』による鷲宮町の経済効果は10億円以上で、以後3年間で22億円以上もの経済効果をもたらしたと言われている。また、日本の長寿番組である『サザエさん』も、オープニングに使われた地域が観光客で賑わうということで、水面下で各地域による争奪戦が行われている。ここ1年では『ガールズ&パンツァー』(※5)の影響で、茨城県大洗町が人気の聖地となった。2013年7月13日には町の派遣要請を陸上自衛隊が快諾、10式戦車と儀仗隊が大洗港に登場して大きなニュースとして取り上げられた。
関連記事
- 「ザクとうふ」に学ぶ、遊び心とオタクの作品愛
「ザクとうふ」という豆腐をご存じだろうか? アニメ『機動戦士ガンダム』に登場する「ザクII」の頭部を模した豆腐である。今回は、ザクとうふに学ぶ遊び心とオタクの作品愛について見てみよう。 - 外伝アニメ化も絵馬で発表、『らき☆すた』聖地の鷲宮神社に初詣に行ってきた
アニメ『らき☆すた』が放映されて以来、その舞台になったことから多くの観光客を集めている鷲宮神社。今年は絵馬で、『らき☆すた』外伝にあたる『宮河家の空腹』のアニメ化が発表されていた。 - 『らき☆すた』『あの花』の聖地に二年参りに行ってきた
アニメ『らき☆すた』放映後、“聖地”として人気を集め、正月三が日の初詣客が過去最高を更新し続けている鷲宮神社。2011年夏に放映された『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』ゆかりの寺社と合わせて二年参りをして、それぞれの盛り上がりを確かめてみることにした。 - 『エヴァ』から『009』まで――春夏よりアツイ秋冬劇場アニメを紹介しよう
定番作品が少ないことなどから、例年それほど盛り上がらない秋冬劇場アニメ。しかし、今年は『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』『009 RE:CYBORG』『魔法少女まどか☆マギカ』といった大作が公開されることもあり、いつもとは違う様相を見せているのだ。 - 20〜40代男性の過半数、「自分はオタクだと思う」
各研究所がその規模を調査するなど、消費不況の中で注目されているオタク市場。20〜40代の男性のうち、過半数は自分がオタクだと認識しているようだ。ハピネット調べ。 - 非オタク層も巻き込んだ!? 2011年オタク市場は前年比12.5%増
矢野経済研究所のオタク市場に関する調査結果によると、2011年は18分野のうち13分野で市場規模が拡大、前年比12.5%増の8920億円となったことが分かった。特にソーシャルゲーム市場の拡大が、全体をけん引したようだ。 - なぜ恋人ができないのか? 若者の間で広がる面倒な関係
若者の間で「彼女ができない」人が急増している。昔に比べ、「異性の人と話すのは苦手」といった人は減ってきているように思うが、なぜ恋人ができないのか。その原因について、若者事情に詳しい博報堂の原田曜平氏に聞いた。 - 「シャア専用オーリス」はクルマに新しい価値をもたらすか?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.