KDDI系MVNOの動きが活発に――始動した「UQ mobile」と、改善を図る「mineo」の戦略:石野純也のMobile Eye(12月8日~19日)(1/3 ページ)
この2週間は、KDDIのネットワークを用いたMVNOの動きが注目を集めた。まず1つが、KDDIが子会社として設立したKDDIバリューイネイブラーが提供する新しい通信サービス「UQ mobile」だ。そして、同じくKDDI系MVNOのサービス「mineo」でも料金の値下げや新機種が発表された。
「格安SIM」や「格安スマホ」として注目を集めるMVNOだが、そのほとんどがドコモのネットワークを利用している。接続料の安さや、対応端末の多さなどが、その理由だ。このような状況の中、あえてau回線を差別化の武器にして、6月にMVNO市場に参入してきたのがケイ・オプティコムだ。同社の「mineo」は、au回線が利用できるMVNOとして注目を集め、順調に契約者数を増やしている。
とはいえ、全体としてみると、MVNO市場のネットワークはほぼドコモ一択。ユーザーの選択肢は非常に少ない。そこで、KDDIは新たな一手として、自社で子会社のKDDIバリューイネイブラーを設立。「UQ mobile」を立ち上げ、自らMVNO事業を行っていく。料金は2Gバイトで980円(税別、以下同)から。先行するmineoを上回る容量を打ち出した。これに対してケイ・オプティコムも値下げやデータの増量を発表。エントリー向け端末も新たに発表し、今後は矢継ぎ早にサービスを強化していく方針だ。今回の連載では、にわかに注目を集め始めたKDDIのMVNOを取り上げていきたい。
UQ mobileが始動、対応端末も2機種用意
KDDIは、8月にKDDIバリューイネイブラーを設立。この新会社が立ち上げた新たなMVNOが、「UQ Mobile」だ。ネットワークにはau回線を使用し、料金は2Gバイト、980円。1980円で300kbpsに速度を制限した使い放題のプランも用意する。当初から音声通話にも対応しており、そちらの料金プランはデータ通信のみのものより700円高くなる。通話料は20円/30秒。国際ローミングや、MMS対応のメールサービスも用意した。
SIMカードの単体提供に加えて、端末も用意。1つがLGエレクトロニクス製の「G3 Beat」で、価格は3万4800円。LGのフラッグシップモデルで、日本ではauの「isai FL」のベースにもなった、「G3」のコンパクト版という位置づけの端末だ。LGエレクトロニクスがMVNO向けに販売している「G2 mini」の後継機という見方もできる。もう1つの端末が京セラ製の「KC-01」で、価格は2万9760円。防水、防じん仕様に対応しており、ディスプレイそのものがスピーカーになる「スマートソニックレシーバー」を備える。京セラの海外モデルがベースになった1台だ。
サービス開始に伴い、パートナーも開拓。販路はWebや家電量販店を想定しており、発表会では、ヤマダ電機やビックカメラ、ヨドバシカメラなどの名前が挙げられた。UQ Mobileの目的は「KDDIバリューイネイブラーが自らMVNOになり、各パートナーが販売しやすいサービスの基盤を持つ」(代表取締役社長 菱岡弘氏)ことにある。UQ Mobileという存在が全面に出るのではなく、「提携パートナーが自社で持っているブランド的な資産、リアル店舗、タッチポイントを活用し、SIMのパッケージや販促物にパートナーのブランドロゴをつけていただき、あたかもパートナーが自社で運営されているような見せ方をしていく」(同氏)という方向に比重を置いていくそうだ。
料金プランの設定や端末の調達は、KDDIバリューイネイブラーが行う。“イネイブラー”という名前から、MVNOの事業を行う会社を支援するMVNEを想定しがちだが、(KDDIバリューイネーブラーの仕組みを)利用する会社の自由度はそこまで高くない。ドコモ系MVNOで例えるなら、ビックカメラの販売するIIJのSIMカードが「BIC SIM」というパッケージになっているようなものだ。
では、なぜKDDIは自らMVNOを立ち上げ、パートナービジネスを行っていくのか。大きな理由として挙げられるのが、MVNO市場がドコモのネットワーク一辺倒になっていたことだ。しかも、「格安SIM」「格安スマホ」というキーワードが生まれ、それが2014年のトレンドにもなっている。KDDI 代表取締役社長 田中孝司氏は10月の決算会見で、「ドコモさんがほとんどで、市場が健全ではない。遅ればせながら当社もやる」と述べていた。この遅れを取り戻すために自社でMVNOを作り、積極的に広げていくというのがKDDIの考え方だ。UQ Mobileとしては、「3年間で100万契約」(菱岡氏)が目標となる。
2社目となるKDDIのMVNOで、市場の広がりが期待できそうだが、まだこれからの部分もある。1つがサービス。現状では、2Gバイトプランでデータ量を使い切ると、その月はずっと低速通信になってしまう。容量追加については、「リアルタイムで制御するサービスの提供はなく、拡充予定。準備が整い次第対応する」(KDDIバリューイネイブラー 企画部長 門脇誠氏)とのこと。また、IIJやNTTコミュニケーションズが提供しているような、高速通信と低速通信をユーザーが自由に切り替えられる仕組みもない。使い勝手を考えると、この部分の強化が必要になりそうだ。
販路については、一気にパートナーの家電量販店をそろえてきた点は評価できる。また、「即日開通できるのは、一部量販店で店舗によっても変わってくる」というが、開始と同時にリアルな店舗で契約できるのもユーザーにはうれしいポイントだろう。ただし、店舗数はまだ非常に少ないそうで、今後の拡大に期待したいところだ。
自社でネットワークを持つKDDIが立ち上げたMVNOという点が、UQ Mobileの新しいところだが、海外でも同様の事例はある。例えば、ドイツでは、T-MobileがCongstarというMVNOを、本体とは異なるユーザー層にアプローチするための“サブブランド”として活用している。既存ユーザーを抱えるMNOが値下げに踏み切ると、既存のビジネスに与えるインパクトも大きい。より安価なサブブランドを作れば、本体とは違った属性のユーザーの受け皿になるというわけだ。このように考えると、UQ Mobileも事実上、auのサブブランドといえそうだ。
T-Mobileの場合、CongstarのSIMカードをT-Mobileショップでも販売している。ただし、あくまで取り扱っているだけで、T-MobileのSIMカードを買ったときのようなサポートは受けられない。分かりやすくいえば、MNOがMVNOに店舗の場所を貸しているということだ。コストが高い分きっちりとしたサポートを受けられるMNOと、安いが回線の開通手続きもすべて自分で行わなければならないMVNOというすみ分けになっている。このような事例をそのまま日本に当てはめるのは難しいかもしれないが、工夫次第では、UQ Mobileでもauショップを活用できるかもしれない。KDDIが自ら持つMVNOということで、従来にはない展開を期待したい。
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