データ通信のオフロードにも貢献――公衆無線LANに簡単接続できる「Passpoint」
IDやパスワードを入力せずに公衆無線LANへ簡単に接続――Wi-Fi Alianceが推進しているプログラム「Wi-Fi CERTIFIED Passpoint」により、ユーザーが積極的に無線LANを利用し、より多くの通信をオフロードできることが期待される。
スマートフォンやタブレットの増加に伴い、公衆無線LANサービスも増加しており、サービス提供者は簡単に使ってもらうために工夫を凝らしている。例えばNTTドコモの「docomo Wi-Fi」やauの「au Wi-Fi SPOT」は専用アプリ、ソフトバンクの「ソフトバンクWi-Fiスポット」はプロファイルをインストールすることで簡単に接続できる。ただ、利用開始時にアプリをインストールしたり、ID・パスワードを入力したりといった“一手間”がいる。また、海外ではブラウザからIDやパスワードを入力して公衆無線LANを利用するサービスも多い。こうした公衆無線LANを利用するためのハードルを下げるべく、Wi-Fi Alianceが6月26日にサービス提供者や端末メーカー向けに「Wi-Fi CERTIFIED Passpointプログラム」を発表した。
同プログラムは主に公衆無線LANサービスでの利用を想定したもの。Passpoint認定のアクセスポイント(AP)が設置された公衆無線LANエリアに入ると、ネットワークを自動で検知、接続してくれるので、ユーザーがWebブラウザでIDやパスワードを入力する必要はない。また、ブラウザを備えない/アプリをインストールできないデジタルカメラなどの無線LAN対応機器からも、簡単にWi-Fiを利用できることが期待される。通信事業にとっては、より多くのデータをオフロードできるというメリットがある。さらに、サービス提供者側がID検証や請求処理などに関する相互ローミングを結ぶことで、Passpoint経由で異なる公衆無線LANサービスをシームレスに利用できるようになる。Wi-Fi Alliance マーケティングディレクターのケリー・デイヴィス フェルナー(Kelly Davis-Felner)氏は「無線LANサービスのシームレスな接続性を高める上で、Passpointは大きなマイルストーン(画期的な出来事)になる」と話す。
セキュリティについては、Passpoint認定機器ではWPA2レベルのセキュリティが自動で有効化される。対応機種については「具体的なものは把握していないが、既存のスマートフォンやタブレット、アクセスポイントもWPA2をサポートしていれば、理論的にはソフトウェアアップデートで対応できる。新規でハードウェアが必要なわけではない」(フェルナー氏)とのこと。Passpointを利用している端末は、SIMカードや電子証明書などユーザー自身を証明する情報にひも付けることで認識される。
Cisco Visual Networking Index Forecastの調査によると、モバイル端末のデータ通信量は2015年までに10倍以上に膨れ上がるという結果が出ている。モバイル端末の需要も増しており、ABI Researchの調査によると、2011年にWi-Fi端末の販売実績が12億台であるのに対し、2015年までには22億台まで増加するという。公衆無線LANサービスも急増しており、Informa Telecoms & Mediaの調査では、2011年に約130万スポットが設置されているWi-Fiスポットは、2015年までに580万に増加することが見込まれる。こうした状況下のニーズを見据えてWi-Fi AllianceはWi-Fi CERTIFIED Passpointを発表。すでにアクセスポイントや端末(スマートフォンやタブレット)の認定テストも開始し、サービス提供者の参画を募る。
Passpointは「ユーザーが受け入れる準備もできている」とフェルナー氏は話す。中国、英国、フランス、日本、韓国で18歳以上のスマートフォンおよびタブレット利用者向けに実施されたWi-Fi Alliance Passpointに関する調査によると、「別のプロバイダーがPasspointサービスを提供し、現在のプロバイダが提供していない場合、プロバイダを切り替えるか」という質問に、日本では56%が「すぐ切り替える」または「契約の更新時に切り替える」と回答したという。また公衆無線LANサービスに無制限にアクセスできるとしたら、日本では56%がデータ量の使用が「大幅に増える」「若干増える」と回答したという。
Passpointの利用料金は「現時点では分からない。プロバイダーによって課金するかどうか、課金の額は異なる」(フェルナー氏)が、調査で「Passpoint利用のために現在以上の料金を支払う」と回答したユーザーは、日本では48%に上ったという。ただし同じ質問に対し中国では82%、米国では72%と回答しており、日本の方が比較的低い。これについてフェルナー氏は「日本はモバイル接続の品質が非常に高く、現状の経験値が高い」とみる。それでも半分近くのユーザーがPasspointにポジティブな姿勢を示しているのは特筆すべき点といえる。フェルナー氏は「Wi-Fi Alliance設立から12年ほどになるが、今回のプログラムに関わって開発してくれた企業は最大規模。端末・アクセスポイントメーカー、通信事業者など、さまざまな分野からいい反応をいただいている」と手応えを話す。
Passpointの導入時期については現時点では未定。「需要の高いことは分かっているが、まだテストが始まって認定されないと分からない」(フェルナー氏)が、NTT、仏France Telecom、英British Telecom、米Comcastはサポートすると公表しているという。通信事業者にとっては3Gや4Gのデータ通信をいかにWi-Fiへオフロードすることがトラフィック対策の1つとなっているが、Passpointがその一助になりそうだ。
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