家庭で格安SIMを導入して見えてきた、MVNOの課題とは――IIJ佐々木氏:ワイヤレスジャパン 2014
文字どおり「格安」で使えるのが格安SIMの魅力だが、いいことづくしではない。格安SIMはどんな人におすすめできる/できないのか? またMVNOが直面している課題とは?
フィーチャーフォン(従来のケータイ)を使っている人が格安SIMでスマホデビューすると、どんなメリット/デメリットがあるのか? 料金は安くなるのか、高くなるのか?
インターネットイニシアティブ(IIJ) ネットワークサービス部 モバイルサービス課 担当課長の佐々木太志氏が、自身の家庭でIIJmioの音声通話付きサービス「みおふぉん」を導入した事例を、ワイヤレスジャパン 2014のIIJスペシャルセッション「@iijmioの中の人より〜舞台裏から見たMVNOへの期待感」で紹介した。
佐々木氏は、2013年はMVNOのビジネスが拡大した年だと認識しており、2014年は、この流れがさらに加速し、「MVNOのサービスの高度化と料金の低廉化、認知度拡大が進む」とみている。MVNOが提供するSIMはデータ通信専用のものが多かったが、最近は音声通話対応のサービスも増えている。IIJも2014年3月から先述の「みおふぉん」を提供している。
一方で、これまで格安SIMを使ったことのない人が、そのサービス内容を見ても「お分かりになる方はいらっしゃらないのでは。(そういう人は)“音声機能付きSIM”といわれても何のことか分からない。普通のケータイと何が違うの? と疑問を抱かれると思う」と佐々木氏は話す。
そんな格安SIMのメリットは、文字どおり「格安」であること。例えばIIJのみおふぉんなら、音声通話込みで月々2052円(税込)から利用できるが、通信キャリアのスマートフォンで音声+パケット通信を利用すると、ある調査では月平均6826円かかるという結果も出ている。
スマホを安く使いたいなら格安SIMは最良の選択となるが、キャリアのスマートフォンならではのサービス(メリット)もある。その1つが「キャリアメール」だ。格安SIMでは「〜@docomo.ne.jp」などのキャリアメールは利用できない。最近はSNSやGmailなどで代用している人も多いだろうが、それでも「キャリアメールは携帯電話の契約者とリンクしている。利用者のキャリアメールアドレスの登録が必要なサービスもあるなど、社会的な信用が高い」と佐々木氏。「キャリアメールは、通信キャリアの長年の信頼によって調整されてきた努力の結晶。我々が今日から参入しますという世界ではないので、なかなか頭の痛い問題だと思っている」(同氏)
MVNOが提供する音声通話の通話料は各社一律で21.6円(税込)/30秒となっている。無料通話分を用意するサービスもあるが、ドコモの「カケホーダイ」のような通話定額サービスや、それに準じるサービスはMVNOにはないので、通話の発信回数が多い人にも格安SIMは向かない。
逆に、キャリアメールの利用頻度が低い/使っていない人や、通話は待受がほとんどだという人には、格安SIMを使うメリットの方が大きいだろう。
このように、メリットとデメリットが共存する格安SIMだが、実際に導入すると何が変わるのか。佐々木氏が家庭でみおふぉんを導入したケースを紹介した。導入前は、佐々木氏はD社のフィーチャーフォンとIIJmio+SIMロックフリースマートフォンを使用。奥さんはD社のフィーチャーフォンを使い、無料通信分の1000円を使い切らない程度の通話は利用している。自宅ではWi-Fiでタブレットも使用している。毎月の通信費はD社が約6000円、IIJmioが約2800円の計8800円だった。
佐々木氏は通信料金を削減するため、奥さんにスマートフォンを使ってもらうため、また将来的には子どもの安く携帯を持ってもらうために、みおふぉんの導入を決意した。
まず、佐々木氏はD社のフィーチャーフォンを解約。続いて、奥さんのフィーチャーフォンのパケット通信サービスを解約して音声専用に。白ロムのスマートフォンを購入して、IIJmioでデータ通信を行うことにした。キャリアメール(恐らくドコモメール)はスマホのアプリで利用することにしたが、家族間の連絡はSNSで代替した。これにより、毎月の通信費はD社が約1300円、IIJmioが約4000円の計5300円になり、導入前から月3500円を削減できたという。
ここまでを聞く限りは、「お金を節約できた、いいハナシ」なのだが、「(奥さんの)みおふぉんの契約は非常に大変だった」と佐々木氏は感想を話す。
「これまでの携帯電話の常識では、すべてキャリアさんが携帯電話に関連するすべてのサービスを提供していて、キャリアショップに行って相談をすればよかった」(佐々木氏)が、MVNOには専門のショップがないところが多く、初心者にはハードルが高い。佐々木氏は「ショップがない中で、利用者の悩みや不満を解消できるのか? これがMVNOが直面している課題」と話す。日本の携帯電話回線のうち、SIMカードを提供するMVNOは1%に過ぎないとはいえ、ユーザーとの接点をどう増やすかは重要な問題だろう。
商品やサービスを取り入れる層(早い順に「イノベーター」「アーリーアダプター」「アーリーマジョリティ」「レイトマジョリティ」「ラガード」)のうち、格安SIMは「ようやくアーリーアダプターに利用者が生まれようとしているが、マジョリティやラガードには到達していない」と佐々木氏はみる。「いかに新しいマーケットを作っていくかが重要だと思っている。ご質問、クレーム、激励の言葉をいただけるのはありがたい。IIJでは公式技術ブログ(てくろぐ)もやっているので、利用者との接点を増やしていきたい」と意気込みを話して締めくくった。
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