格安SIMの市場拡大に向けて“選べるワンストップ”を目指す――IIJ島上氏:ワイヤレスジャパン 2014
MVNOの老舗としてサービスを提供しているIIJ。格安SIMの市場は年々規模を拡大しつつあるが、IIJは今後どのようなビジネスを展開していくのか。常務執行役員 ネットワーク本部長の島上純一氏が語った。
2008年からMVNO事業に参入し、2012年にMVNOでは初めてLTEサービスを開始したインターネットイニシアティブ(以下、IIJ)。MVNOのお客様満足度調査で「IIJmio高速モバイル/Dサービス」が1位、MVNOのシェアでもIIJが1位を獲得する(いずれもMMD研究所調べ)など、高い評価を得ている。格安SIMのユーザー層が拡大していく中で、同社は今後どのようなビジネスを展開していくのか。常務執行役員 ネットワーク本部長の島上純一氏が「MVNOを取り巻くビジネス環境とIIJの取り組み」というテーマで語った。
MVNOが通信キャリアよりも安価なサービスを提供することで、ユーザーにとっては選択肢が増えるというメリットが生まれる。IIJmioの場合、パケット通信と音声通話をあわせて月額2052円(税込)から利用できる。パケット定額サービスだけで5000円を超えるケースもあるMNO(既存の通信キャリア)の料金と比べると、この時点でもMVNOの方がお得だ。
料金面でのメリットが明確な格安SIMだが、「MNOとの格差」「端末の確保」「法律、制度、オペレーション」など、まだ解決すべき課題は多いという。
NTTコミュニケーションズが、マツコ・デラックスさんを起用した「OCN モバイル ONE」のCMを展開するなど、格安SIMの情報はお茶の間にも広がりつつあるが、島上氏は、認知拡大はこれからだと考える。
「調査によっては半数近くの人がMVNOを認知していると言われているが、IT業界と関係ない友人と話していると、本当かなという感覚を得る。一方で、70を超えた父親から『MVNOというのがあるらしいな』と言われて面食らったが(笑)。まだまだ通信キャリアの認知には及ばない」(島上氏)
MVNOのSIM製品を購入できる店舗や、利用できる端末を入手する方法も消費者に伝わっているとはいい難い。「お客さんはドコモの中古端末や数少ないSIMロックフリー端末を使ってくださっているけど、不安がある。分かっていないと使っていただけない」(島上氏)
総務省が2014年4月14日に公表したデータによると、2013年12月時点で、日本の約1.5億の携帯電話回線のうち、MVNOの回線はau端末で利用できるWiMAXやソフトバンク端末で利用できるイー・アクセスの1.7GHz帯など、通信キャリアがグループ内で回線を借りているケースを含めても全体の9%(1375万回線)。これらを除き、IIJなどSIMカードを提供するMVNOに限ると、全体の1%(138万回線)に過ぎない。それでも、MVNOの成長率が年々上がっていることは事実で、2020年にはMVNO全体で5500万回線に達するという観測もある。
海外では欧州でMVNOの回線が10%を超える国もあり、日本よりもMVNOの普及が進んでいるケースが多い。例えば、ドイツではSIMを無料にする代わりに広告を差し込む、英国ではスーパーと携帯キャリアが提携して店舗と連動したポイント制によって通信料を割り引くなどの施策を行っている。MNO自身がセカンドブランドという形で低価格なプリペイドサービスを提供している国もあるという。
ここ最近は「MVNOのサービス=格安SIM」という認識が強まっているが、島上氏は「格安SIMという言葉は嫌い」と話す。「分かりやすいけど、言葉としてはいやだ。我々は安いものを出しているのではなく、価値に見合った正統なものを出している。格安と言われるのは不愉快だねとおっしゃるパートナーもいる」と同氏。余談だが、フリービットの石田宏樹社長も「格安スマホという言葉はあまり好きではない」と話している(→「格安スマホという言葉はあまり好きではない」――フリービット石田社長)。とはいえ、通信キャリアと比べてMVNOが安いのは事実で、キャリアが値下げをしない限り、今後も格安SIM/スマホという言葉は広まっていきそうだ。
IIJはMVNOとして、携帯ユーザーの多様なニーズに応えていく構えだ。通信キャリアは料金プラン、端末、音声通話、アプリなどを「最低利用期間」「2年縛り」といった条件のもと、「これがあれば誰も困らないというフルスペックを画一的に提供してきた」(島上氏)。ただ、もっと短い期間で使いたい人もいるだろうし、毎月7Gバイトも通信量はいらないという人もいる。キャリアのサービスは不要という人もいるだろう。「いろいろなニーズが出てきたところに、問題提起をした」というのがIIJのスタンスだ。これは他社のMVNOも同様だろう。
一方で、音声サービス込みの「みおふぉん」に最低利用期間を設けている(12カ月以内に解除すると、利用月数に応じて解除料がかかる)のは、「これを付けないと、結局MNPを助長するだけではないかと考えたため」と島上氏は説明する。「みおふぉんを始めたころは各社のキャッシュバックがひどかった」(同氏)
端末や通信をワンストップで提供ている既存の通信キャリアに対し、ユーザーの細やかなニーズに応えるサービスを提供しているのがMVNOだが(島上氏は「セパレート化」と説明する)、購入方法や端末選びなどで、スマホ初心者にはハードルが高くなることが多い。そこでIIJは、「量販店で格安スマホとSIMをセットで販売する」といった“選べるワンストップ”型でサービスを提供することで、さらなる市場拡大を目指す。
「パッケージを買えることで、安心感を提供したいが、すべて我々自身が独自でできるわけではない。販売店、コンテンツベンダー、端末メーカーさんたちとタイアップしながら、使いやすいものを作っていきたい」と島上氏は意気込みを語った。
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