「通信キャリアの新料金プランとガチで比較してほしい」――クーポン増量で攻めるIIJ:MVNOに聞く(2/2 ページ)
MVNOの老舗としてモバイル通信サービスを提供しているIIJ。最近は3つの料金プランで、フルスピードのLTEが使える「クーポン」を倍増したことが話題を集めている。そんなIIJが目指すのは「既存の通信キャリアに並ぶ存在」だ。詳しい戦略を聞いた。
既存キャリアに並ぶ存在として十分やっていける
―― そのプラン改定は、コスト面では大変だったのではないでしょうか。
佐々木氏 コストの問題はもちろんありますが、僕らとしては、まず契約を増やさないといけません。今までの1〜3Gバイトというラインアップは、全体的にライトユーザーの方を対象としていましたが、キャリアさんはこれまで7Gバイトのパケット定額サービスを提供されていました。一方で、キャリアさんの新料金プランではパケット定額が2Gバイトからなので、2、4、7(Gバイト)という(IIJmioの)新しいラインアップの中で、キャリアさんとガチで比較をして、通話が少なければリーズナブルなMVNOに、という流れを加速させたかったんです。
―― 「ミニマムスタートプラン」のクーポンを2Gバイトとしたのは、ドコモ、au、ソフトバンクの新料金プランのパケット定額が2Gバイトからだったことを意識したからなんですね。
佐々木氏 そうです。「ファミリーシェアプラン」は(3Gバイト→7Gバイトなので)倍増以上ですが、あえて7Gバイトにしたところも、「MVNOも選択肢として検討いただけるんですよ」というメッセージを込めたかったからです。
堂前氏 7Gバイトというのは象徴的でしたね。お客様からの反応を見ていても、旧プランが各社さん7Gバイトだったので、それと同じプラン(クーポン)が出るのは、皆さんピンと来たのではないかと。
―― 音声プラン込みでも、キャリアさんより安いですよね。
堂前氏 (IIJmioは)7Gバイトで3260円(税別)からです。キャリアさんは、5Gバイトで7〜8000円。そのへんでけっこう差が出てきますよね。
―― キャリアさんと真っ向勝負するということですね。
堂前氏 勝負というと、ケンカを売っているように聞こえますが(苦笑)、(ドコモ、au、ソフトバンクに並ぶ)4つ目の選択肢として十分にやっていけるのではないかと。とはいえ、ここだけしっかり伝えたいのは、「ないものはない」ということ。無料通話やコンテンツ、また野菜が配送されるとかありますけど、そういったものはありません。ただ、ベーシックな通信サービスではキャリアさんとは遜色がなくなってきていると思います。
一方で、私も会社と関係ない知り合いから連絡をもらったりするんですけど、まだまだIIJやMVNOは、十分に知られていないと感じます。MVNOという言葉は広がっていますけど、サービス内容は伝わっていないと思いました。知り合いから「実はこっちの方がいいじゃん!」と言われることもあります。僕らがどんなことをやっているのかを、広くお伝えする取り組みは、今後もずっと続けていく必要があるとあらためて感じました。
―― 最近は各社さんともに多種多様なプランを提供しています。NTTぷららさんは3MbpsでLTEが使い放題になるプランも出してきました。2段階プランを提供しているところもあります。IIJさんはプランを提供するうえでどんなことを重視していますか。
堂前氏 1つ言えるのは、プランを増やしすぎないことですね。あまり複雑にしても混乱するので、今のところは、3つのプランの中で良いものを出していくという考えです。
―― 3つのプランは当面変えずに、容量や値段を調整していくということでしょうか。
佐々木 「当面変えずに」というところをお約束するかは明言できませんが、3つのプランを「松竹梅」で変えずにやっていることにはこだわってきました。今後もそのこだわりを持ち続けていくのか、4つ目を加えた方がお客様にメリットがあるのか、状況によって検討していく形になると思います。いずれにせよ、今の3つのプランが自信を持ってお勧めできるものであることには変わりありません。
―― MVNOを使うあらゆる方は、この3つのプランでカバーできるということですね。
佐々木 そうです。あともう1つ大事なことは、プランを改定していくことです。新しいプランを作るのではなく、これまでIIJをお選びいただいた方々に「選んで良かった」と思われるように、サービスを改善していきたいですね。
―― 第三者機関の調査で、IIJがMVNOの満足度1位に選ばれたこともありました(→低価格SIMカード利用者の69.2%が満足、IIJが満足度トップ――MMD研究所の調査)。当たり前のことだとは思いますが、顧客満足度を上げることを重視していると。
佐々木氏 1位は結果に過ぎないので、そこを目指したわけではありませんが、プラン改善も「てくろぐ」の活動もそうですが、利用者の方に「IIJを選んでいると安心できる」と思っていただけることを目指して日々取り組んでいます。
堂前氏 我々自身もある意味で利用者ですので、自分たちが使っていて極端に不都合があるのはいやだな、と思うことは改善するように取り組んでいます。その感覚が一般の方と合っていると、大変幸せなことだと思います。
―― 中の人もユーザー目線で厳しく見ているということですね。
堂前氏 どうしても仕方がないというのは、今後あるかもしれませんが、通常の考え方で、使っていて嫌だというのは避けたいですよね。
クーポンを使えば3日で366Mバイトの速度制限はかからない
―― 特に利用者が多いプランは?
佐々木氏 ミニマムスタートプランが圧倒的ですね。家族でファミリーシェアプランを使って、家庭の通信費を削減しているといった人も最近は増えています
―― クーポンオフの200kbpsでも、ちょっとした通信なら快適に使えるのもいいですよね。
佐々木氏 よくMVNOで抱かれる大きな誤解は、「MVNOって低速サービスだから安いんでしょ?」ということ。単純にトラフィックの理論を考えれば、低速だから安いわけではなくて、低速だと保留時間が長くなったり、長くなった保留時間は積分になるので、データ通信が速かろうが遅かろうが、足していくと同じになるので。僕らのコストの考え方というのは、通信速度ではなくて、お客さんの利用方法によって、コストを変えさせていただくこと。例えば、200kbpsで動画を何時間も見られると、コストが上がってしまうので、それ以外のコンテンツについては、可能な限りお客様の体感速度は上げていきます。
―― 200kbpsはペナルティという考え方ではないんですよね。
佐々木氏 そうです。動画の長時間視聴や、巨大なファイルをずっとダウンロードするといった行為には、申し訳ないですけど、速度制限をかけさせてもらっています。帯域を長時間占有するような使い方でなければ、快適にお使いいただきたいです。
堂前氏 あと、実はクーポンを使っているときは、3日間で366Mバイト以上通信しても、速度制限がないんですよ。極端な話、クーポンをオンにして1日で2Gバイト使っても、制限されません。クーポンを使っている分は、ちゃんとお届けするというポリシーなので。Twitterなどを見ていても、「こんなにクーポンがあっても、どうせ3日で366Mバイトまでなんでしょ」という反応がけっこうあるんですけど、実はそうじゃないんです。
―― なるほど。3日で366Mバイト以上通信して速度制限されるのは、200kbpsのときだけなんですね。
堂前氏 はい。あと、うっかり200kbpsでたくさん使って規制されても、クーポンをオンにすれば規制は無視されます。クーポンはプレミアムなものなので。
―― 通信規制をする、しないというのはMVNOの一存で決められるものなのでしょうか。
佐々木氏 はい。合理的な規制であり、規制していることをユーザーさんに説明をして、ご理解いただいたうえでご契約いただければ、規制については僕らが自由に決められます。クーポンというものはお買い上げいただくものなので、それに対して規制をするのはナンセンスじゃないですか。
堂前氏 バースト転送や、クーポンで規制回避できること、あとクーポンは翌月まで繰り越せることなど、IIJmioには、説明しきれていないメリットがたくさんあると、我々自身が痛感しています。
通話料金の値下げやIP電話の提供は「検討中」、MNPが増えている
―― 通話サービスについてもお聞きします。IIJmioの通話料は一律20円/30秒で、無料通話などはありませんが、今後はいかがでしょう?
堂前氏 (現状のドコモとの契約だと)けっこうハードルは高いなと。せめて、こういう風に使うと、よりお得に通話ができます、ということはIIJmio meetingでは説明していきます。
―― 例えば、IIJさんがIP電話アプリを作るといったことは検討していますか?
佐々木氏 もちろんいろいろなお話をしていて、具体的なことは今はお話できないのですが、何らかの形で、IIJならではの料金プランを30秒20円の世界に持ち込めればとは思っています。すぐにやろうと思えばできることもあるんですが、IIJならではというところを考えると、もう少しお時間がかかるかなと。お楽しみにしていただければと思います。
―― IIJmioはオンラインや量販店などで販売されていますが、一番売れているのはどの販路ですか?
佐々木氏 オンラインは少ないですね。イオンさんやビックカメラさんなど、提携している店舗は非常に販売力が強いので、実数で言えば、オンラインよりも店舗の方がはるかに多い。ただ面白いのは、オンラインの販売数は、クーポンの改定をしたり、IIJmio meetingやてくろぐで記事を載せたりとか、そういう取り組みによってかなり変わりますね。反応の速度がすごく高いんです。
―― ユーザーとのタッチポイントは今後も増やしていく。
堂前氏 ビックカメラのカウンターは有楽町、新宿に2店舗、池袋、川崎にあります。名古屋、大阪、札幌も予定しています(詳細はこちら)。
我々は、MVNOとしてはMNPの転入が非常に多いと思うんですよね。そんな中で、オンラインだと待ち時間が長いので、店舗にお越しいただく方が増えています。(ビックカメラでは)ドコモさんのカウンターがあってauさんもあって、IIJがあるという感じで、同じなんですよね。IIJのカウンターに行って、30分待ったらMNPできている……みたいな。そういうところの受けがよいですね。
―― MNPの比率はどれくらいでしょうか。
佐々木氏 カウンターで音声契約をする人は、新規が4割、MNPが6割ほどです。最初はMNPの方が少なかった感じですけど、今は伸びています。
―― 既存のキャリアでは、やはりドコモショップ、auショップというのは大きいと思います。困ったらそこに行けばいいという駆け込み寺のような役割もあると思います。“IIJショップ”のような専用店舗を作る計画はありますか?
堂前氏 路面店ですか……。ネタで下のテナントを借りるという話はしているんですけどね(笑)。
―― 店舗はフリービットさんが積極的に進めていますよね。
堂前氏 あれはあれで尊敬する取り組みだと思います。私たちは、ビックカメラさんが強力にタッグを組んでいただいています。夢としてはあるかもしれませんが、東京に1店舗だけでいいのかという話になってくるので、路面店は、もう少し先のことになるでしょうね。
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