分かりにくいけれど面白いモノたち

紙にもiPadにもそのまま書ける驚きのペン、ゼブラ「STYLUS 2WAY」開発秘話 “失敗”を逆手にとったアイデアとは?(6/6 ページ)

 「そういう議論が当時ありまして、紙に書く場面と、スタイラスペンとしてタブレットに書く場面、両方のシーンがあるというのを思い浮かべていたんですけども、結局、タブレットを持ってないとこの場面って生まれないよね、ということになったんです。そうすると、タブレットを持ってない、紙にだけ書く人には直接手に取ってもらうシーンがないんじゃないかと。この製品を広めるためには、入り口としてタブレットを持っている人を対象にするべきかなというのがあって、デザインも、iPadへの吸着が出来るようにするための細い軸といった方向に寄せていったんです」と岩間さん。

全長160mmとやや軸が長いので、ノック時の指の動きを少なくするため、クリップをノックすると芯が出るようにしている。このノックで電源オンオフも同時に行われる

 対象ターゲットが、大学生などの授業でiPadを使いながらノートも取るという層だということを考えても、最初の製品として、その方向は間違っていない。iPadにしか使えないのだから、iPadに吸着できるようにした方がいいに決まっているのだ。ただ、それはそれとして、例えばクリップを長めにして、この少し長い軸でも胸ポケットにさせるようにしたり、軸の両サイドをカットしていたり、ノックボタンをクリップノックにして、ノック時に持ち替える動作を最小限にしたりと、筆記具メーカーとして譲れない部分はしっかりデザインに反映させている。

 面白いのは、「黒軸」を作ってほしいという要望をゼブラから出したという話。アップルペンシルのイメージもあるのだろうが、スタイラスペンというと「白」というイメージがエレコムにもあったそうで、「高級文具は黒だよね」的な発想は、筆記具メーカーならではのものだったらしいのだ。

 そういう話を聞いていると、このペンが「書く」ためのスタイラスペンなのだということがよく分かる。スタイラスペンといえば、何となく、筆圧感知機能やペンの傾きで線の太さが変わるといった機能があって当然という気もするが、普通、ボールペンは筆圧を掛けても線は太くならないし、傾けても線の太さは変わらないものだ。意外に誤解があるけど、万年筆でも均一な線が書けることが、本来の機能なのだ。つまり「書く」道具。筆圧や傾きで線が変わるのは筆記具ではなく、むしろ筆などの画材なのだ。そういった機能を入れなかったことで、ペアリング不要、つまりペンの貸し借りが簡単にできるスタイラスペンになった。これもまた「筆記具」的だ。

 これ、iPhoneに対応してればもっとよかったのにと思っていたのだが、使っていて思ったのは、やはり、メインはiPadで使って、さっとメモしたい時などにノートやメモ帳を使うという流れにとても向いていることに気がついた。iPhoneで使えるようになると、その流れは多分逆になって、ノートに書くことがメインで、そのままiPhoneで筆記というより操作するのにペンを使うといった感じになりそうなのだ。となると、このデザインでは使いにくい。それはそれで別の製品になるのだろう。世の中にいろんなボールペンがあるのは、そういう理由だし、その意味ではスタイラスペンはまだまだ選択肢が狭いということなのだろう。

筆記データがパーキンソン病診断に応用可能かを探るプロジェクトで使われている、筆記時の筆圧・角度・速度などのデータを取得し、「かく」行為をデータとして可視化できる独自開発のセンサー搭載ペンは同チームが開発したものだ

 スタイラスペンもボールペンも身近な製品だけに、その両方を行き来できると聞くと、それぞれの機能に目が行きがちだし、電子製品だけに、どうしてもスペックが気になる。しかし、これ「書く」道具として、すごく新しく珍しい製品なのだということが、自分で長く使って、さらに開発者の方にお話を伺って、「なるほどそういうことか」と理解できたくらい、実はニッチで変な製品なのだった。便利というより「書く」の領域を広げる可能性を提示する製品。ボールペンとして失敗であるはずの「つる抜け」からアイデアが具体化したというのは、要するにそういうことなんだなと思うと、なんだかとても愛おしい製品に思える。

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ITから文房具まで幅広く活躍するベテランライター、納富廉邦さんが言語化しづらいけど面白いガジェットやサービスを分かりやすく解説します。

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