吉本興業は9月11日、元ソニー会長の出井伸之氏が代表を務める投資会社による株式公開買い付け(TOB)に賛同すると発表した。友好的TOBの結果、同社は上場を廃止し、新たに在京民放キー局各社と電通、ソフトバンク、ヤフーなどが出資する株主構成で生まれ変わる。メディアとの連携を強化して収益基盤を安定化させ、アジア市場への本格進出で一段の成長を狙っており、非上場化と株主構成の簡素化で、短期的な業績に左右されない迅速な経営判断が行える経営体制を構築するのが目的だとしている。
TOBは、出井氏が代表を務める特別目的会社(SPC)「クオンタム・エンターテイメント」が実施。在京民放キー局5社と電通、ソフトバンク、ヤフー、フェイスなど13社がSPCに出資し、TOB成立でSPCが吉本興業を子会社化した後、SPCと吉本興業が合併。SPC出資各社が吉本興業の株主になる──というスキームだ。
TOB期間は9月14日から10月29日までの30営業日。買い付け価格は1株1350円(11日終値は49円高の1341円)で、総額506億円。TOB成立後、同社株式は東証・大証の上場が廃止される見通し。
都内で開いた会見で、出井氏は「ファンド主体で短期的な利益を目指す買収でもなく、経営陣による買収(MBO)でもない。非公開化で新しい吉本が生まれるということだ」と説明した。
番組制作で関係が深い民放各社に加え、携帯電話で専用コンテンツ「S-1バトル」などを展開するソフトバンク、動画配信で協力するヤフーというネット系企業と新たに資本関係を締結。メディア企業とコンテンツ制作会社で関係を緊密化し、メディア環境の変化とエンターテイメント業界の競争激化に対応する。
国内市場が成熟化する中、吉本が中長期的に大きな成長機会とみて狙いを定めているのはアジア市場だ。藤原茂樹取締役は「大阪の吉本が東京にも拠点を持ち、全国に発信できるまでに成長した。大阪発祥の日本のエンターテインメントをアジアに広げることで、逆に日本のエンターテインメントも充実し、さらにアジアに広がるという好循環になれば」と期待する。
中長期的な戦略実現のために、短期的な業績に左右されない非上場化と、経営判断を迅速化できる株主の再構成という経営判断に至った──という説明だ。一部に創業家の影響を弱める狙いがあるのでは、という報道もあるが、現筆頭株主で創業家が経営する「大成土地」もTOBに応募した上でSPCに参加し、今後も大株主としてとどまるため、「そういうことはないとお分かりいただけるのでは」(吉本の渡邉宙志法務本部長)としている。
出井氏は現在、コンサルティングなどを行う企業「クオンタムリープ」を率いており、SPCは同社の100%子会社として設立。TOBスキームは「前職(ソニー会長)でエンターテインメント業界と関わりがあり、メディアにも関係深い方が多く、話し合ううちに自然にこういうスキームになった」と話した。
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