日本を代表するロックキーボードプレーヤーにしてSF作家の難波弘之氏が初音ミクに興味を持っているという話を「尻P」こと野尻抱介氏が聞きつけた。「どう転がるか全く読めない」座談会の話題は二転三転し……。
難波 僕も、元祖オタクのほうですから。10代の時に結局今の日本のアキバ文化みたいなものの最初のところを見てた人間なので。
野尻 第1世代オタク、みたいなもんですよね。
杜松 え、いくつくらいからになるんですか
難波 僕はね、中1のときに宇宙塵の会員になった、で、もうそん時すでに先輩に、荒俣宏さんとか、青土社の青木さんとかがいましたね。僕より上の大先輩といったらそりゃあすべてを作ったのは柴野拓美さんだと僕は思ってるんですけど。SF大会っていうものを作って、その頃の仲間から結局、スタジオぬえとかガイナックスができて。マスカレードからコスプレ文化が派生していった。だから、今のオタクカルチャーって日本固有の文化みたいに言われてるけど、ひょっとして俺達が作ったんじゃないのって。
※柴野拓美:小隅黎のペンネームでも知られる、SF作家・翻訳家。難波氏が参加したSF同人誌「宇宙塵」の主宰者。2010年1月没。
野尻 いやまさにそうなんですよね、爆心地におられた。割と受動的なほうのおたくっていうと、多分岡田斗司夫とかあのへんがまあ第1世代になると思うんですけど、難波さんとかはどっちかというと、その時の「センセイ」がたというか、クリエイター側にいた人たちだと思うんですよね。しかしSFはそもそもその境界が曖昧なので、受け手側か作る側かというのがかなり混ざってるんですよね。
難波 そうですよね、でもそう意味で言ってもボカロ界と似てるっちゃ似てる。
杜松 じゃあ一応そんなふうに、「遭遇」はしてたんですね。VOCALOIDシーンと。
難波 そうなんです、あとDE DE MOUSEやDaft Punkで、ボーカルになんか処理してるなっていうのを気がつき始めて。新宿ロフトにDE DE MOUSEのライブを見に行った時、ライブなのに、DJと打ち込みのやつしかいなくて、ロフト中でみんなが踊りまくってて、その絵がすごい完璧に面白くて。
野尻 じゃあニコニコ動画とかは普段は見られてはいない?
難波 そうですね。
野尻 YouTubeとかもあんまり見ない?
難波 それは割と見ますけど、それでいーえるPさんの動画見たりしましたよ。
杜松 じゃあもう普通にしていて、それで普通に難波さんのアンテナにひっかかってくる感じで一応知ってはいる、みたいな?
難波 そうですね。
杜松 で、自分でそれをやってみようっていうのは。
難波 完全にもう持ち込まれた企画からです。ちょっと受動的なんですよね僕。でももちろん、それで面白いんじゃなーいと思いまして。企画を聞いたら、結構自由にやらせてくれる感じだったので。
野尻 確かにボカロ曲って、作曲者作詞者が前面に出ますもんね、大抵それまでは歌は歌手が前面に出ますけど、ボカロの場合は歌手はもう決まってるから。
難波 今は逆に、人間のアーティストに作詞作曲する人たち、いわゆる作曲家作詞家の地位が、もうひどく低くなっちゃってかわいそうですよ見てると。昔みたいに、筒美京平先生とか、すぎやまこういち先生っていうような大先生がもう絶対成立できないシステムになっちゃってるんですよ。なぜかというと楽曲を全部、コンペで決めるから。
野尻 ああー。
難波 どんな大作家の先生だろうと、落とされれば、採用されなければオシマイ。だからもう、昔みたいに、是非うちの歌手に先生の作品を、みたいなことが全くなくなっちゃった。例えば、いろんな音楽制作会社に、はいEXILEのアルバム出すから曲だしてーとコンペが行われる。その中からさらに、じゃあAメロはこの人で、Bメロはこの人で行こうか、みたいなことを平気でやる。だから人間の作家の人格が認められてない感じで。それに比べたらVOCALOID作品は自分の作曲家としての自我は、もう遥かに満足しますよ。
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