野尻 シンセサイザーを使ってることの全能感、みたいなものがあるのかなあって。どんな音でも作れる、みたいな。
難波 うーんやっぱり、ぼくらの世代ってちょっと古すぎちゃったんですよ。僕らミュージシャンやプレイヤーの発想を超える人達がシンセに関して出てきたなって思ったのは、テクノの時は実はあんまり思わなかった。テクノのあとの'90年代のトランスとかが出てきた頃ですね。さっきも言いましたけど、本当にあの安い機材であれを作るっていうのは、なるほどこれは僕たちにはない発想だなと。こりゃあノンミュージシャンの方が面白いことやるなと思いましたね。
杜松 今のVOCALOIDのPに、ボカロで音楽を始めたという人たちが結構な割合でいるようなんですよね。そういう人たちは本当に自由だし、VOCALOID以外のDTMソフトを全部買っていたらお金かかりすぎるからと、フリーのものを選んで、でもそれで楽しんで曲を作っている。
難波 そうそう。あとね、既存の古い音楽界だと音域っていうものをすごくうるさく言われるんですよ。例えば、ビッグバンドのオケなんかを書くときに、普通にプロだったらこのへんまで出せるだろっていう音域以外をうっかり書いちゃったりすると「お前どこで音楽勉強してきたんだ!」みたいな、いわゆるイビリというか叱責をうけるわけですね。
作曲家がプレイヤーと親しくて、あの人ならハイノート出せる、メイナード・ファーガソンならこの音を出せる!みたいに確信犯的に書くのはいいんだけど。ところが今のボカロって、明らかに女性の音域以外の音でも出るじゃないですか。
杜松 そうですね。
難波 そうすると今まで勉強してきた各楽器の音域とかそういうものを全く無視できるし、そもそもキーボードでもって鍵盤にアサインした状態ですでに発音域超えたとこまで出ちゃうわけですよね。そうしたら音域のタブーっていうのがもうなくなっちゃう。新しい楽器として使っちゃってもいいんじゃないっていう音域まで出ちゃうから。そうするとやっぱり、なまじ音楽の知識があって邪魔してる人よりも、いきなりソフトを買っておもちゃ感覚でいじれる人のほうが強い。
デジタルのドラムマシンが出て古くなったTR-808が質屋かなんかで売られてたのを、ハーレムの黒人が買ってラジカセにつないで鳴らしてるうちにヒップホップができちゃいました、みたいな、そういう文化のでき方っていうのは絶対あるんだなーって思います。
杜松 今まさにそれができてるとこだと思います。
※TR-808:1980年代はじめに販売されたローランドのドラムマシン。使いやすいデジタル入力方式を採用しているが音源はアナログ。
(続く)
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