なまじ知識がある人より、おもちゃ感覚でいじれる人のほうが強い：難波弘之 対 野尻抱介（2/6 ページ）

[杜松百舌，ITmedia]

杜松　そういうことに疲れてVOCALOIDに入ってきた人とかいますもんね。

難波　1曲ヒットをだしても、全く自我の満足も得られない。その後の仕事も続かない。次の仕事来るかなって思ってると、次もコンペで出してくださいって言われるらしいですよ。

野尻　うわあ、悲惨だ……。

難波　常にコンテストに送り続けてる感じなんですよ、プロになってもね。

野尻　ですよねえ、うわあ……。

難波　そうするとやっぱり人間の創作意欲っていうのは著しく低下すると思うんですよね。やっぱりある程度、認めてもらうとか、安定した環境がないと。僕もそういう環境がないと絶対今後どうなるんだろうって思います。今や大河ドラマでもデモを提出させられるらしいですよ。

松尾　ええー？

難波　AタイプBタイプ2つ書いてください、って。オーケストラですよ。自分で打ち込むんですよ。えらい手間ですよ、ぐったりするって言ってましたもん。フルオーケストラで2曲分打ち込みさせられるんだよ、たまんないよって。でもそれができると思われちゃうと、作曲家って追い詰められちゃう。まあほら小説でも今は作家も月に1冊文庫本書かないと飯が食えないとか言うじゃないですか。

野尻　僕なんか恵まれてますね。1人もので持ち家だからこそ、まあのうのうとさぼってられます。

難波　だめですよさぼってちゃ。工作ばっかりやってちゃだめですよ。

野尻　ははは、すいません。

難波　野尻さんの工作動画、面白かったですけど。

※野尻さんの工作動画：ニコニコ技術部の重鎮としても知られる野尻氏（ニコニコ動画では尻P）の工作動画としては、「【そらのおとしもの】空飛ぶパンツのようなもの【実体化】」を挙げざるを得ない。（飛んだぞパンツの大群が　「空フェス！」大盛況）

野尻　わはは、すいませんすいません。

野尻　難波さんはいわゆるパソコンとかは、Mac使いなんですかやっぱり。

難波さんが「新・プログレ十戒」を記したMacUser1996年9月号

難波　そうですけど、別にそんなに詳しくもなく。この雑誌（MacUser）に書いてる時も手書きで原稿書いてたくらいですから。

　いいんですか僕なんかが連載して、って思ってました。僕はやっぱりずっとプレイヤーなんですよ。音楽制作は1985年から今まで、四半世紀僕についてやってるプログラマーの人がいて、今でも作業は事務所でその人と共同作業でやってるくらいです。もう携帯電話なんていまだに自分の持ってないですよ。今日持ってるのは嫁さんの2号機。

野尻　まさに電話するだけ。メールとか打たない？

難波　全然。メールはもうパソコンでしか打たない。

杜松　なんだかボカロPの人達の話とすごくかぶります、今のお話。PCで曲を作って打ち込みとかするけれど、俺PC詳しくないっていう人が結構多いんですよ。

難波　あーなるほどね。

杜松　技術の先端のガジェット好きではなく、やっぱり音楽のプレイヤーとして、こういう技術に関わっている。

野尻　ああそういうことですかー。

難波　ある種だから、トランスを作った人たちとかと似てるんでしょうね。あの人達も安いローランドとかコルグのシンセを、あれだけはめちゃ詳しくて、あれだけでものすごいことをやる。えっそんなことできるんだ、そんな音出るんだ、みたいな。極めちゃってて、もうそれだけでOKできちゃうものをつくる。

杜松　ある意味、パソコンていう箱から出てくる結果が大事で、その過程っていうものを重視しない？

難波　そうかも。

杜松　その過程でもっと良いやり方があるよと言われても、自分で見つけたそのやり方でやっちゃう、んでしょうね。

難波　だから面白いのかもしれないですね。