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電子の歌姫誕生から10年 初音ミクが「キーボード」になった理由ボーカロイドキーボード開発秘話インタビュー(2/5 ページ)

» 2017年11月12日 09時00分 公開
[村田朱梨ITmedia]

ベースは「ピアニカ」

photo 左から順に企画の藤原さん、開発の濱野さん、営業の梅津さん

――まず、なぜボーカロイドキーボードを作ろうと思ったのですか?

濱野さん:楽器のように気軽にVOCALOIDを使えるものができたらいいな、と考えたのがきっかけです。作り始めたのは2011年あたりで、ちょうど「ボカロ曲」がどんどん作られ、ニコニコ動画を中心に盛り上がりが見えてきた時期。「VOCALOIDをやってみたい!」という人は多いものの、「作曲やDTM(※)はやったことがない」「買ってみたけど、やっぱり無理」という声も多かったです。

(※DTM:デスクトップ・ミュージックの略。PCを用いて作曲や演奏を行うこと、あるいはそのためのソフトウェアを指す。VOCALOIDもこの一種で、人間の声を録音せずにボーカルパートを作成できる「歌声合成ソフトウェア」として販売されている)

――キーボードの形にした理由は、気軽に使えて操作が分かりやすいからですか?

濱野さん:その通りです。ボーカロイドキーボードは「歌を歌う楽器」なので、どのようなインタフェースが良いか、いろいろ考え、最終的に鍵盤楽器になりました。その背景にあったのは「ピアニカ」です。日本人に親しみがあって、すごく分かりやすい。

photo 「ピアニカ」(ヤマハの製品ページより)

――確かに、従来のボーカロイドのようにPCの画面を見ながら悩むよりずっと分かりやすいですよね。試作の段階では、他にどんな形を考えていたのですか?

濱野さん:ベタなところでボイスコントロールとか、タッチパネルで音が出るものとか、他の楽器の形も試してみたり……いろいろ変遷がありました。でも入力のインタフェースとして採用したのは最初から鍵盤ですね。

――音の入力だけでなく、ボーカロイドキーボードは「歌う楽器」ということで、言葉の入力も必要ですよね。現在はスマホアプリで入力するようになっていますが、開発当初はどうなっていたんですか?

濱野さん:「PCソフトは難しい」というところから始まっているので、その線上にないものを考えていました。PCだと言葉を入力して、音を打ち込んで、レンダリングをして、ようやく音が出ます。気軽なものにするなら、それとは逆のものがいいだろうと考え、「音も歌詞も全部リアルタイムでやるもの」からスタートしました。

――だから初代や2代目の試作機は、片手で弾いて、もう片方の手で言葉を打ち込む形になったんですね。サイトで拝見した時、これは入力が相当難しいのではないか、なぜこの形になったのかと疑問でした

photo 右手で音を、左手で言葉を打ち込む2代目試作機

藤原さん:2代目は私も触ったことがあるんですが、「カエルの歌」が10%くらいの速度で弾けるか弾けないかくらいでしたね(笑) これを弾けるのは人間業じゃないなって思いました。

濱野さん:そうですね。キーボードも弾かなきゃいけないのに、歌う速度で入力するのは難しい。言葉の入力も、スイッチや予測変換などいろいろ試したんですが、やっぱり限界があって。練習するときにも入力ばかりすることになります。「それって楽しいのか?」と思って、歌詞の入力だけは先に済ませることにしました。

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