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電子の歌姫誕生から10年 初音ミクが「キーボード」になった理由ボーカロイドキーボード開発秘話インタビュー(4/5 ページ)

» 2017年11月12日 09時00分 公開
[村田朱梨ITmedia]

「リアルタイム」の壁とこだわり

――開発時に最も苦労したのはどこですか?

濱野さん:ボーカロイドキーボードでこだわった部分がリアルタイムで歌わせることです。だから、鍵盤を押してから発音するまでの時間(レイテンシー)の調整が一番大変でした。

 普通のボーカロイドは、最初からどのタイミングで発音するが分かっているので、ちょっと手前から合成音が出ていて、実際のトーンのタイミングで言葉がちゃんと認識できるよう母音が出る……という風に合成できるんですね。でもこのキーボードの場合は、トーンがどうしても「ユーザーが鍵盤を押すタイミング」になってしまう。そこから合成を始めることになるので、レイテンシーは必ず発生するんです。でも、押してからちょっと遅れて音が出るとやっぱり「うっ」ってなるじゃないですか!

――なりますね……

濱野さん:だから、物理的にはどうしても間に合わなくても、それをいかに縮めるかにこだわりました。レイテンシーって実は発音の明瞭度とトレードオフになっていて、ズレを無くしたければ子音を短くすればいい。

 例えば「サ」なら「スーーッ」って音から始めて「ア」って出て「サ」になる。この「スーーッ」って子音が長い分だけ発音は明瞭になりますが、(ボーカロイドキーボードで子音を長くすると)鍵盤を押してから「ア」が出るまでが長くなってしまう。できるだけ「サ」を「サ」のまま、人間の感覚で「間に合う」タイミングになるようチューニングするのが一番大変でしたし、一番こだわったところかな。

――特に「この行が難しい」というのはありましたか?

濱野さん:やっぱり子音が長いサ行です。大変でしたね……1音素ずつ「これでいいですか」ってライセンシーさんと確認したので……。

藤原さん:相性が悪いライブラリだと何を言っているのか聞こえなくなってしまうんですよね。

濱野さん:それでも「初音ミクの消失(※)」をちゃんと歌わせることができるのを目標にがんばって調整しました。

(※初音ミクの消失:cosMo(暴走P)の有名な初音ミク曲。07年11月ニコニコ動画に投稿され話題を集め、08年4月に公開されたロングバージョンは数日で殿堂入りを果たした。テンポがとても速く歌いにくいことでも有名で、滑舌の練習に使われたり、動画には「歌ってみろ」というタグが付けられたりしている)

VOCALOIDでできること、キーボードでどこまでできる?

――ボーカロイドキーボードは歌うだけではなく、VOCALOID同様「しゃべる」こともできますよね。しゃべる時の音は、鍵盤のようにドレミファソラシドで区切られてはいないわけですが、細かな音の調整をしたりイントネーションを付けたりすることもできるんでしょうか?

藤原さん:ピッチホイールとイクスプレッションホイールで、声の抑揚や微妙な音の高低を付けられます。それからスキールというものがあって、こっちでしゃっくりやこぶしを割り当てることもできます。

photo 音や抑揚の調整は左手で

――なるほど。鍵盤を使わない左手で、声の調整ができるんですね。VOCALOIDの「調教」のほとんどが、PCを立ち上げなくてもできる

藤原さん:そうですね。より直感的にできるようになりました。

――どのくらいの音域をカバーできますか?

藤原さん:3オクターブ分の鍵盤に、切り替え機能でプラス1オクターブ。4オクターブは余裕ですね。ピッチ調整なども含めると6オクターブくらいまで出るかな。

梅津さん:実用的にはあれですが、ほぼモスキートみたいなのも含めると8オクターブくらい行くと思います。

――そうなると、VOCALOIDの音域はだいたいボーカロイドキーボードでもカバーできそうですね

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