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「ヤベェ本」2万RTで異例の重版、「有職装束大全」が絵師のハートをつかんだ理由(3/6 ページ)

» 2019年10月21日 07時00分 公開
[長浜和也ITmedia]

清田さん 竹内が「こんなツイートを見つけた」と言ってきたのが翌日。それまでは、何が起きているのか全然分からなかったです。でも、これってバズるツイートのセオリーですよね。著者名もタイトルも出版社名もない、宣伝にならない内容で。販売する側が読ませようとするツイートはバズりません。いちユーザーが自分たちに引き寄せて「こんなに便利な本がある」と言ってくれるのが、いまバズるツイートの“型”だなと思います。

 出版社や著者のツイートがバズることは、そうないんです。やはり、読者のツイートが一番影響力が大きい。創作畑の人のツイートは強いですよね。創作畑の人は情報収集に意欲があり、お金もかけている。有職装束大全の価格は税別で6800円ですが、それでもみなさんどんどん買っています。

──図書館需要は手堅いという話ですが、どれくらい数が出るものなのでしょう。

清田さん 有職装束大全は初刷りが3000部で、その半分以上は図書館で購入されています。書店の外商部が直接図書館に案内するんです。有職装束大全は資料性が高く、図書館が予算を使うタイミングに合わせて順調に販売を重ねていました。

──ということは、有職装束大全で個人向けの需要はあまり想定していなかったのでしょうか。

八條さん (質問の途中で勢いよく)いえ、個人も買うと思っていましたよ! 今回関心を持ってくれた人たちの需要は絶対あると考えていました。私も、そのような人たちとのお付き合いはたくさんありまして、彼らは絶対に欲しいだろうなと。

「絶対ある」と思っていた個人クリエイター需要

──八條先生は、個人創作者の需要を最初から想定されていたんですね。

八條さん イラストレーターというか、ものづくりの人たちに、この本はいいと思います。彼らはちゃんとした絵を描きたいと思っています。“本物”が何なのかを分かりやすくビジュアルで書いた本はこれまでなかったので、需要は絶対あると思っていました。

 映画やドラマだとイメージが優先されてしまいがちですが、正しいことを知っているとできるものが違ってきます。例えば、とある歴史解説番組で平清盛の継室で後に尼となる平時子――尼になると「二位尼」と呼ばれますが、その人を取り上げた回で、私は衣装の色について番組スタッフに助言しました。しかし、番組では私の助言が生かされず、例えば袴の色は派手な赤のままでした。

 実際には、喪に服した尼が着用する袴の色は淡い橙の「萱草(かんぞう)色」が正しいのです。その後、同じ番組で和泉式部を取り上げたとき、喪に服した場面で袴の色は萱草色、袿(うちぎ)は鈍色(にびいろ)になっていて、作法通りでした。すごく美しかったですし、喪に服しているのが画面から伝わってきました。これならきっと、作法が分からない人にも雰囲気は分かってもらえると思うんです。そういうところは侮ってはいけません。

有職装束において、色彩は非常に重要だった。男性装束では位を示し、女性の装束では気札や祝い事に合わせた色の組み合わせ(色目)が評価の対象とされた(画像は平凡社より提供。以下同)

──クリエイターは本物を求めているんですね。編集部では、そのような個人の需要を想定していましたか。

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