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普及する「AIカメラ」 動画はAIが見てくれる時代に動画の世紀(3/3 ページ)

» 2019年12月27日 10時42分 公開
[小林啓倫ITmedia]
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一家に一台「マイ監視者」

 実はいま、欧州連合で「自動車の運転席にいる人物が、運転以外の行為に気を取られていないかどうか」を判断する装置の新車への設置を義務付けるべきではないかという議論が始まっています。要はニューサウスウェールズ州のAIカメラのような仕組みを、個々の自動車の中に取り込んでしまってはどうかというわけです。

 この発想は、自動運転技術とも関係しています。自動運転にはその難易度によっていくつかのレベルに分けられていて、各国の政府が「このレベルまでなら公道を走っていいよ」というようなルールの整備を進めています(参考記事)。そして近年、「運転席に人間のドライバーが座っていて、いつでも運転を機械から替われる状態にある」のであれば自動運転を許可するという傾向になりつつあります。しかしこのルールに従うためには、本当に人間のドライバーが運転を替われる状態にあるかどうかを判断しなければなりません。そこで何らかの形で、例えば車内に設置されたカメラや各種センサーを使って、ドライバーの状態をチェックする技術の開発が進んでいます。

 例えば歌手の矢沢永吉さんがハンドルから手を放すCMでおなじみの、日産自動車の「ProPILOT」技術は、2019年秋に「ProPILOT 2.0」にバージョンアップされ、新型スカイラインに搭載されることになっています。この技術では、一定条件下で「手放し運転」が可能で、同一車線内の自動走行や車線変更などをしてくれるのですが、車内に搭載したカメラがドライバーの様子をチェックしていて、よそ見や居眠りなどを検知した場合、警告をしたり自動的に減速・停車を行ったりといった対応が行われます。

 ただ自動運転に限らず、ドライバーの注意が散漫になっていないか、居眠りなど危険な状態に陥っていないかをチェックすることは、安全運転を守る上で重要なことです。そこで最近は車載カメラ、いわゆるドラレコに画像分析技術を組み込み、後付けの装置でこうした確認を可能にするという流れが生まれています。

 例えばVEZO 360という製品には、顔認識技術によってドライバーが居眠りしていないかを監視・警告する機能が組み込まれています。

photo VEZO 360

 同様の製品は増加傾向にあって、このVEZO 360と同じように、防犯など多彩な機能が実現されるようになっています。こうした機能を評価して買い求めていくのは、もちろん私たち消費者であり、政府や自治体などが押し付けているわけではありません。「AIカメラによる監視」などというと身構えてしまいますが、私たちにとっては、それはこんな受け入れやすい、むしろ歓迎できる場面からも浸透していくのではないでしょうか。

 そういえば冒頭の「笑顔を検知する」という技術ですが、最近では接客が発生する企業において、従業員の笑顔をチェックする仕組みとして応用されるケースも出てきています。人を便利にする仕組みと管理する仕組みは、意外と紙一重なのかもしれません。

著者プロフィール:小林啓倫(こばやし あきひと)

経営コンサルタント。1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院地域研究研究科修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米Babson CollegeにてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『テトリス・エフェクト 世界を惑わせたゲーム』(ダン・アッカーマン著、白揚社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP社)『YouTubeの時代』(ケヴィン・アロッカ著、NTT出版)など多数。

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