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コロナ禍で音楽制作もリモートワーク 遠隔で「立ち会い編集・ミキシング作業」は可能か?(2/2 ページ)

» 2020年07月20日 16時36分 公開
[山崎潤一郎ITmedia]
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ハイレゾレベルのスペックでの再生が可能

 そこで試したのは、Audiomoversの「LISTENTO」というサービス。音楽制作者向けの音源送受信サービスで、特定の拠点に向けてDAWからの音を直接配信できる。受信側は、所定のURLをクリックするだけでブラウザ内で再生できるので、PCの操作に不慣れな関係者でもコラボ作業に容易に参加できる。

photo DAWのマスタートラックにプラグインとして設定することで、DAWからの音源を遠隔地に直接配信することができる

 DAWのマスタートラックに専用のプラグインを挿入することで、Audiomoversのサーバを経由して各拠点に向けて音楽を配信する仕組み。有料だが、1週間3ドル99セント、1カ月9ドル99セント、1年間99ドル99セントと3つの価格設定で提供されているので利用頻度に合わせて選べる。AAX、AU、VST、VST3の各プラグイン形式に対応しているので、主要DAWで利用可能だ。

 肝心の音質だが、図のように最高PCM32ビットからAAC96Kbpsまで通信状態により選択できる。ただ、さまざまな環境でテストしてみたが、受信側がWi-Fiの場合は、AAC96Kbpsでも音が途切れることがあり、安定してリスニングしたければ、有線(イーサネット)接続が必須だと感じた。光ファイバー経由の宅内有線接続であれば、PCM16ビットでも安定して再生可能だった。とはいえPCM32ビットは、有線でもブチブチと途切れ使い物にならなかった。

photo 遠隔地で音源をモニターする側は、配布されたURLをクリックしてブラウザだけで聴くことができる。サンプリング周波数44.1kHz/PCM16ビット(転送レートは1411.2kbps)で受信していることが明示されている

 実際の作業では、相手先のネット環境が、マンションの光ファイバーやケーブルテレビなどさまざまだったので、AAC192〜128Kbpsの間で適宜切り替えながら実施。それでも、音質的にはZoomよりはるかに良好で、「音質的にストレスを感じることはなかった」(アーティスト談)という。

意思疎通はGoogle Meetで実施。しかし問題も……

 さて、音を送信する環境は「LISTENTO」で確立できた、次は、双方向のコミュニケーション手段を考えなければならない。今回は、関係者全員が、Gmailのアカウントを所持していたこともあり、「Google Meet」を利用した。リスニング側は、ブラウザで「LISTENTOの聴取画面とGoogle Meetの両方を開いておけばいいので、簡単な操作で参加できる。アーティストの1人は、音源のモニターはPCで行い、Google MeetはiPadを利用する形でリモートに参加した。

 そして、実際の編集作業を行う側(筆者)は、iMacでDAWを走らせ、Google Meetは、手元のMacBook Proを使用した。筆者が使う「Pro Tools」というDAWは、GPUのパワーを意外に消費するので、Google Meetは別のマシンで走らせた方が、DAWへの負荷が減らせる考えたからだ。

photo iMac側でDAWを操作し、関係者とのコミュニケーションは、新しい13インチのMacBook Proで実施した。復活したシザー構造のキーボードは好調

 ただ、実際に始めてみると、1つの問題にぶち当たった。各人のGoogle Meetのマイクが、音源のモニター音を拾ってしまい、それがGoogle Meet経由で参加者全員に流れるという現象に直面した。考えてみれば当たり前で、スピーカーからモニターしていれば、当然起こりうることだ。

 そこで筆者は、ヘッドフォンを利用してモニタリングすることにした。他の参加者は、通常は、マイクをオフにしておき、発言するときだけオンにするというルールを作った。一般的なリモート会議でも、このような措置は、マナーとして定着していると思う。

 結局、前述のような微細にわたる編集作業を実施したことで、トータルタイムで約60分のCDのマスターを完成させるのに、1日あたり約9時間の作業を5日にわたって行った。コロナ禍において、とてもではないが、リアルに集合することがはばかられる状況だったことがご理解いただけると思う。

 ただ、リモート作業ゆえに、対面と比較して意思疎通等がスムースに進まず、余計に時間がかかったのではないかと問われればそれは「イエス」だ。とはいえ、リモートゆえの延長分は、おそらく1割程度だと認識している。

 クラシック音楽は、基本的に楽譜に忠実に演奏するので、「何小節の何拍目までテイク1で」「フェルマータまでは、バイオリンの音量を1デシベル程度上げて」などと定量的な指示で意思疎通が可能になる。その点はリモート向きだと感じた。

 次は、リモートデスクトップを駆使して、アーティストにDAW操作の負担をかけず、演奏に専念してもらう形のリモート録音に挑戦したみたいと考えているが、こればかりは、アーティスト側に録音機材がそろっているなどの条件が必要になるだけに、少しばかりハードルが高くなりそうだ。

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