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自動バックアップ、5年間オフのまま 東証システム障害、富士通のマニュアルに不備

» 2020年10月20日 15時13分 公開
[樋口隆充ITmedia]

 東京証券取引所(東証)は10月19日、終日売買停止の原因になったシステム障害の詳細を発表した。富士通が作成した製品マニュアルに不備があり、バックアップ機への自動切り替えが5年間オフになっていたことが分かったという。10月中に証券会社らと協議会を立ち上げ、再発防止に努める。

photo 10月1日にシステム障害が発生した東京証券取引所

製品マニュアルに不備、自動切り替えのテストも行わず

 システム障害は10月1日に発生。富士通製の株式売買システム「arrowhead」(アローヘッド)の共有ディスク装置(NAS)の1号機で異常が発生したが、本来であれば自動で行われる2号機への切り替えが何らかの理由で作動しなかったと、東証は当初説明していた。

 これについて、東証は「(富士通側の)マニュアルの不備により正しい仕様が把握できなかった」と釈明。システム構築時に富士通側と検討した際、マニュアルには自動切り替えが動作すると記載されていたことから、実際の稼働テストを行わなかったという。

 テストを行わなかったのは、これまでのアローヘッドの稼働実績を鑑みた結果だとしている。東証の担当者によると、製品マニュアルから自動切り替えの発動パターンをメモリやCPUの故障、ネットワークの切断と想定していたという。ネットワーク切断については切り替えテストを行ったが、メモリなどの故障については「NASの設定値とマニュアルの整合性については富士通内の製品出荷プロセスで検証されている前提だった」とし、テストを行っていなかった。

 マニュアルに不備があったのは、機器を製造した米国企業の仕様変更が原因だという。2010年1月に稼働を始めた初代アローヘッドでは自動切り替えが「オフ」でも、トラブルを検知すると15秒後に予備に切り替わる仕組みだったが、2015年9月に導入した2代目からは「オフ」時にはバックアップが作動しない方式に変更されていた。

photo 2代目以降、製品の仕様が変更されていた(出典:東証のプレスリリース)

 これを富士通が把握せず、初期設定を「オフ」にして東証に納入。マニュアルにも反映されていなかったため、東証も気付かないままシステムを運用していたという。システム障害を受け、10月5日から設定を変更した。

 東証は「市場開設者としての責任は東証にある」とし、富士通に損害賠償を請求しない方針を改めて示した。東証の経営陣の責任については「何らかの結論が出れば、発表する」と述べるにとどめ、明言を避けた。

3月までに取引再開時のルールを策定

 東証は併せて、「システム障害による売買停止後の再開に向けたルールが整備されていなかったことも問題」として、証券会社など市場関係者で構成する「再発防止策検討協議会」を設置することも明らかにした。システム障害への対応や取引再開時などのルール整備の在り方について検討を行う。事務局は東証が務め、協議会には金融庁もオブザーバーとして参加する予定。10月中にも初会合を開催する。

 1日のシステム障害発生時に東証は手動で切り替えが成功したが、市場の混乱を懸念し、株式の終日売買停止を決断していた。

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