「量子コンピュータを使うと素因数分解をめちゃくちゃ速くできる『ショアのアルゴリズム』がある。これを見て、素因数分解以外でも今まで困っていた計算が全て速くなるのではないか、と間違ったイメージが付いてしまった」
「量子コンピュータは材料科学や創薬といった、原子や分子のふるまいを量子ビットでそのまま扱えるコンピュータ。そういう意味では適用できる分野は限定される。これ以外の分野にも適用できるかどうか、研究者が頑張っているのが今」と、量子コンピュータの現状を解説する。
量子コンピュータで何でも速く計算できるわけではない。しかし、「省電力の計算については保証されている」と大関准教授は続ける。
「コンピュータは仕事をすると電力を消費して熱を発生する。ノートPCもスーパーコンピュータもそう。しかし量子コンピュータは超電導状態で動作する」
超電導状態では電気抵抗が0になるため、電流が熱に変換されずに流れ続ける。このため、超電導を利用する量子コンピュータではほとんど電力を消費しない。例えば、量子アニーリング方式の量子コンピュータを作るカナダD-Wave Systemsのマシンは超電導状態まで温度を下げるのに20kWかかるものの、一度の計算自体に使う電力はわずか20fW(フェムトワット)、つまり20Wの10億分の1のさらに100万分の1という極めて小さい電力しか使わないという。
「一つ一つの量子コンピュータは大したことがないとしても、たくさん作って並列させれば力押しできるかもしれないという期待が実はある」
大関准教授は、1台の量子コンピュータではなく、多くの量子コンピュータを並列させることで初めて革命的な結果を出せるようになるかもしれないとの考えを示した。
「量子コンピュータの開発が進むことで、自分のビジネスにどれだけ影響するのか、プラスになるのかマイナスになるのか不安な人もいるだろう。多くの新聞もそういうことを煽っている。しかし、どれだけ波及するかは実はよく分からない」と、大関准教授は冷静に見る。
「全然波及しない可能性もある。なぜなら適用できる分野が限定されているから」。むしろ、材料科学や創薬以外の分野で量子コンピュータをどう使うかという異業種からの発想が重要になると指摘する。
「量子コンピュータは全然分からないけれど、これをきっかけに一丁躍り出てやろう、という皆さんのアクションが重要」として、講演会場に集まる人々に訴えた。
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