凸版印刷は、10月28日から30日にかけて開催された「第1回 量子コンピューティングEXPO【秋】」(幕張メッセ)に出展し、同社の量子コンピューティング技術に関する戦略を公開した。量子コンピュータの活用を模索し、量子暗号の日本国内基盤の普及にも貢献していくとしている。
凸版印刷は具体的に、量子技術について何をしようとしているのか。同社の量子戦略を担当する鳥羽牧さん(DXデザイン事業部技術開発センター研究・開発企画室課長)に話を聞いた。
凸版印刷は出版印刷やビジネス向けの印刷サービスの他にも、食品パッケージや半導体、ディスプレイの製造など多様な事業を手掛けている。中でもICカードの開発や製造は、同社にとって重要な事業の一つだ。
「自社のICカードに関する知見が、『量子セキュアクラウド技術』の普及に役立つのではないかとNICT(国立研究開発法人情報通信機構)に期待されています」と鳥羽さんは話す。
NICTは現在、量子コンピュータが実用化されても安全な通信やデータ保管を保てる量子セキュアクラウド技術の構築に向けて、関係各社と取り組みを進めている。データの保管基盤には東芝やNECなどが開発する、原理的にどんな計算機にも破られないといわれる「量子暗号通信」を使う他、保管基盤への外部からのアクセスにも量子コンピュータによる解読に耐性のある「耐量子コンピュータ暗号」を使うことで安全を確保する考えだ。
この量子セキュアクラウド技術の構築はNICTの他、量子計算ソフトやアルゴリズムなどを開発するQunaSys(東京都文京区)、耐量子コンピュータ暗号の技術を持つカナダISARA、そして凸版印刷が連携して行っている。
「量子セキュアクラウド技術を日本全国に普及する上でどのように運用したらいいのかという、裏方的な役割を凸版印刷が担っています」と鳥羽さん。「例えば公開鍵認証基盤ではどんな手続きが必要になるかといった運用を凸版印刷ではずっと手掛けてきています。初めに運用の方針を決めておかないと、量子セキュアクラウド技術を普及する上でボトルネックが発生してしまうかもしれません」(同)
量子セキュアクラウド技術の中でも耐量子コンピュータ暗号は、通信機器ごと置き換えになる量子暗号通信とは異なり、既存のRSA暗号などを代替する可能性のある公開鍵暗号技術だ。耐量子コンピュータ暗号の秘密鍵などをICカードに載せることについても、凸版印刷はNICTらと取り組みを進めているという。
NICTらの取り組みは、内閣府が主導する「光・量子を活用したSociety5.0 実現化技術」の一環であり、日本での普及にとどまらず国際標準化も目指している。東芝やNEC、NTTなどが持つ日本の量子暗号関連の要素技術を世界に展開するに当たって、凸版印刷の運用・導入支援は重要な役割を持ちそうだ。
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