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» 2021年02月28日 09時18分 公開

AI利用を後押しする新たな取り組み その一方で生まれるブラック・ギグワークウィズコロナ時代のテクノロジー(3/3 ページ)

[小林啓倫,ITmedia]
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ブラックな仕事を新たに生み出さないために

 前述のAppenは、同社のホームページによると、AIトレーニング用のデータを作成するために、正社員のほかに、世界170カ国で100万人以上の請負作業者と契約を結んでいるそうだ。彼らが使う言語は、合計で235以上に達しており、用途に応じてさまざまなデータを生み出している。

 機械学習が「適切なデータに基づいて、機械が自ら学習する仕組み」である以上、その「適切なデータ」を誰かが用意してやらなければならない。多くの場合、それはAppenのように、人海戦術で行われる。信頼できる人物をオンライン/オフラインで大勢集め、作業してもらうわけだ。

 例えば画像認識を実現するためのトレーニング用画像データであれば、集めた大量の画像データを作業者に見てもらい、そこに何が写っているかをテキストで入力して、オリジナルの画像に紐づけしてもらうといった具合である。また手書き文字を認識するAIを開発する際などは、大量の作業者を集め、指示された内容の文章を手書きしてもらうことが行われる。

 Appenはそれを、きちんと契約を結んだ作業者に依頼して、適切な業務として取り組んでもらっている。しかし人海戦術であるだけに、極めて低い賃金(場合によっては法で定められている基準以下の)を提示するなど、劣悪な条件で作業者を働かせるというケースも生まれている。

 もちろんデータの準備作業は誰かがしなければならないことであり、実際にそうして生み出されたトレーニング用データによって、高度な判断を行うAIが実現されている。しかしウェストバージニア大学ヒューマン・コンピュータ・インタラクション研究所の所長、サイフ・サベージ氏は、このような事態を見逃すべきではないと訴えている。

 MITテクノロジーレビュー誌に掲載されたインタビュー記事において、サベージ所長は、オンライン上で集められて低賃金でデータ生成作業を請け負う人々を「見えない労働者」と呼び、極めて低い賃金(無給の場合すらある)や、(単純労働に従事することによる)スキルアップする機会の損失といった問題を抱えていると指摘している。そして「AIコミュニティーは、こうしたギグワーカーの労働力のおかげで研究を進めることができている」ことを認識し、問題に目を向け、改善する道を探るべきだと述べている。

 しかしCOVID-19による景気低迷により、オンライン上での「ギグワーク」(音楽のギグ、すなわち短いセッションのように、長期的に雇用されるのではなくごく短い時間の作業を請け負うという形で進められる仕事)に参加する人々はむしろ増えると予想されている。企業を解雇されたり、請け負っていた仕事が減ったりしたことで、ギグワーカーとして生活費を稼ごうと考える人々が増える一方で、企業はAI導入を始めとしたデジタルシフトを進めており、ネットを通じた短期的・単発的なデジタル作業を利用しやすくなっているためだ。このままでは、新たなブラック企業ならぬブラック・ギグワークが生まれてしまいかねない。

 いま企業は、機械学習型のAIを導入する機会が増えたことで、前述のAppenのアンケート結果で示されているように、データ管理を適切に進めることに改めて注目し始めている。そこで議論されているのは、経営に役立つデータをいかに適切に集め、保管し、利用可能な状態にしておくかといったテーマだが、今後は「トレーニング用データの生成・入手に問題はなかったか」という視点が含められるようになることも考えられる。

 理想論に聞こえるかもしれないが、実際に製造業の世界では、外部から仕入れる原材料や半製品が人権に配慮した形で作られたものかを確認することまで、最終製品を製造するメーカーや取り扱う小売業者に求められるようになっている。トレーニング用データも一種の「原材料」のようなものと捉えれば、同様の動きが起きる(あるいはそれに進んで対応する)ことも考えておく必要があるだろう。

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