映像をフィルムテイスト化する最も簡単な方法は、トーン、すなわち色調である。かつてビデオカメラでしかビデオ撮影できなかった時代、フィルム撮影のように見せるには、色調を調整するしかなかった。全体的にアンバー(琥珀色)に倒したり、マゼンタに倒すことで、柔らかい色調になる。輪郭をキープしたまま色味だけ少しデフォーカスするなど、フィルムっぽい映像の作り方にはさまざまなテクニックが存在したものだ。
しかし現在のデジタルカメラでは、もっと簡単にフィルムトーンを楽しむことができる。フジフイルムのXシリーズは、フィルムメーカーとして長年の研究成果を行かし、多彩なフィルムモードを備えている。特に映画用撮影フィルムをシミュレートした「ETERNA」(エテルナ)は、落ち着いた発色とシャドウ部の階調の高さが特徴だ。
またソニーのFX6やFX3、α1、α7S IIIで搭載されている「S-Cinetone」も、デジタルシネマ用カメラVENICEで得られたノウハウを注ぎ込んだフィルムトーンとして注目を集めている。筆者も実際にこれで撮影してみたが、色乗りがいいので、ちょっといじっただけで高コントラスト感や華やかさが出るトーンで、使いやすいと感じた。
フィルムトーンはカメラ内の処理なので、撮影時に内蔵モニターでその効果が分かる。「撮ってる時にすでに楽しい」、これはコンシューマーでは重要な要素である。苦労してHDRやRec.2100に手を出すより、SDRになってしまうもののフィルムトーンを使う方が、簡単にフィルムテイストを楽しめる。さらにSDRなら、SNSなどにアップしてもディスプレイを選ばず、みんながバリッとした絵として見ることができるので、評価も高まる。
かつてのカメラ内蔵フィルターは、色味を派手にいじるものばかりで実用性に欠ける、いわば「おもしろ機能」でしかなかったため、評価が低かった。しかし現代のフィルムトーンは、同じフィルター的なアプローチでありながら、アマチュアではどうにもならない領域の絶妙なトーンが得られる。これまでフィルター効果を敬遠してきた方も、一度トライしてみる価値はある。
コンシューマーにおけるフィルムテイスト的表現は今後、浅い被写界深度+30fps以下のフレームレート+フィルムトーンという方向に落ち着くのではないだろうか。
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