ここで話は、iPad Pro 2021に戻る。Macと同じプロセッサ、HDR対応のLiquid Retina XDR ディスプレイが素晴らしいのは、言うまでもない。
だが、ペンでマンガを書くプロが今後「HDRマンガ」を書くかというと、そうはならないだろう。中版デジカメでRAWを撮りまくる人が現像に使うとしても、2TBのiPad Proに生データを入れて持ち歩かなければならない理由はない。Logで撮った4K動画のカラーグレーティングに使うとしても、iPad OS版DaVinci Resolve Studioの登場を待つしかない。
iPadがより速くより強力に、コンピュータでは到達できない領域へと突き進むのは、2015年から分かっていたことである。だがその結果、スペックが用途を追い越してしまったのが、今年、2021年のiPad Proだ。27万9800円出して映画見てメールチェックしてTwitterでケンカするだけでは、コストが合わない。
だからみんな、困っている。「これ、何に使うんだ?」と。
iPadは誕生以来、コンピュータよりも安く、コンピュータでやるほどでもないライトな業務がカバーできるマシンとして使われてきた。「それ、もうiPadでいいんじゃないか?」という落としどころである。実際今もそのレンジのiPadはよく売れている。
しかしiPad Proが価格もスペックもコンピュータを超えてくるとなれば、「それ、もうMacBook Airでいいんじゃないか?」という問いに変わる。
iPad Pro 2021は、新しいコンピューティングの扉を開くものかもしれない。だが本当に扉が開くには、まだしばらく、場合によっては何年も要するだろう。
2015年に平均的なコンピュータスペックを超える最初のiPad Proが出てきてからも、結局われわれは「コンピュータじゃもうダメだ、iPad Proじゃないと」というソリューションをほとんど見つけられなかった。キーボードやポート拡張デバイスをくっつけて、コンピュータっぽく使うことしかできなかった。
それでもコンピュータより安いうちはメリットがあったが、高くなったのなら話が違ってくる。iPad Proの真価は、Mac用アプリが動くといったド派手な革命待ちなのだと思う。
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