今でこそ人力とAIのハイブリッドでカラー化している渡邉教授だが、当初は人為的に手を加えることに抵抗もあったという。
16年に早稲田大の研究チームがAIカラー化ツールを公開したというニュースを見たとき、渡邉教授はその着色の自然さに「衝撃を受けた」という。試しに使い、その結果を自身のTwitterアカウントに投稿すると、一定の反応があったことから、その後も継続的にカラー化写真を投稿するようになった。
当初はAIの補正技術を紹介する観点から「恣意的な操作を加えていない」ということを前提に投稿していたが、次第に「実際の色とは違うのではないか」といった指摘が多く寄せられるようになった。
「AIに自動処理させるのはそもそも手作業と恣意性を排除するため。人為的な色補正はご法度ではないか」。渡邉教授は技術者出身ということもあり、活動の初期にはこうした固定観念を持っていたという。
だが、庭田さんとともに活動していく中で「戦争体験者が思い出した色や、当時の資料や人々との対話をもとに得られた色彩を反映し、真実の色に迫っていくというプロセスこそが重要ではないか」と考えを転換。現在の手法にたどり着いた。
カラーの再現に要する期間はさまざまで、ものによっては数年越しになる場合もある。
色補正はかなり手間がかかる作業ではあるものの、渡邉教授は「人々との対話は、実際の色をたどり、記憶を受け継ぐために必要なプロセス。効率化する必要はない。記憶を受け継ぐのは人であって、AIではないからだ。むしろ、手間と時間を掛けることが重要ではないか」と話す。
20年度からは新潟県長岡市との共同プロジェクトもスタートするなど、白黒写真をカラー化する活動は広がりを見せている。
渡邉教授は「これまで手掛けてきたデジタルアースを使ったアーカイブや、『記憶の解凍』でのカラー化手法は時代にあわせて生まれたもの。いずれも成熟しつつある」として、今後はさらに新しい表現技法を模索し、過去の出来事についての記憶を次の世代へ継承していきたい考えだ。
「戦争について自分の肉親から聞いたことがない人も多いはず。写真集を起点に戦争体験者と戦争を知らない世代の方が対話するような場が生まれると、作者としてうれしい」
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