ITmedia NEWS > 社会とIT >

人はなぜ“言わなくてもいいこと”を言ってしまうのか 「日本人の国民性調査」からネット炎上が止まらない背景を探る小寺信良のIT大作戦(3/3 ページ)

» 2021年08月17日 11時12分 公開
[小寺信良ITmedia]
前のページへ 1|2|3       

「逆マジックミラー号」の中で踊る

 そして2008年以降、この「場合による」は、「世間のしきたりに従った方が間違いない」と拮抗状態になる。リーダー不在でも回る状態になったということだろう。過去に決めたことで問題がなければそのままだし、何か変化があるなら勝てそうな方に乗りたいという、曖昧な状態である。

 この傾向から見れば、上記DaiGo氏の発言に反対した人たちには、2パターンあるように思う。一つは、差別発言は許されないという「世間のしきたり」に従った人たち。もう一つは、この場合は倫理的に正しい方が議論に勝てるはずと判断した人たちである。純粋な気持ちで差別問題と戦っている人たちもいるはずだが。

 先の調査で、「物事の『スジを通すこと』に重点をおく人と、物事を『丸く収めること』に重点をおく人では、どちらがあなたの好きな“人柄”ですか?」という設問がある。全体を見ると、各年代を通じてあまり比率が変わらないように見えるが、年齢別に見ると印象が大きく変わってくる。

photo 「好きなひとがら」年別の調査結果
photo 「好きなひとがら」2013年の年齢別調査

 スジを通す人を好む傾向は、年齢層が若くなるに従ってきれいに上がっていく。スジとはすなわち「正しさ」だろうから、若い人ほどスジにこだわるのは、分かる気がする。若くてもスジが正しいのであれば、勝てるからだ。

 DaiGo氏の差別発言も、発信した当初は「正しい」と思っていたのだろう。それは、同じような考えを持つ人が周りにもいて、その中では正しかったのかもしれない。あるいはイエスマンばかりで、DaiGo氏に意見できる人が周りにいなかったのかもしれない。

 これを「フィルターバブル」と表現するのは簡単だが、その考えをもう少し進めると、「逆マジックミラー号の中で踊る」のと同じだといえる(若い方はご存じないかもしれないが、マジックミラー号とは中からは外が見える、外からは見えないというハーフミラー貼りの車両で、一時期アダルトビデオでヒットしたシリーズである)。

 人気YouTuberはこの逆、外からは丸見えだが中からは自分たちしか見えないという、逆マジックミラー号で踊っているのと変わりがないのではないか。DaiGo氏は弁明の中で「自分の無知」を反省していたが、これは情報産業の開拓者ともいえるYouTuberが意外に「透明な時代」であることに気付けない「無知」でもあるだろう。

 小さな集団では、とがった意見でも通用することがある。それは、小さな集団が社会全体の利益、公共の福祉を考える必要がないからである。その集団が外から丸見えになっているのが、「透明な時代」だ。1人の人間の発言でも広く社会に伝われば、その時点で公共の福祉に照らし合わせ、出るクイは打たれる。

 しかし、この先行きが暗い時代に意見を一本化し丸められると、イノベーションは生まれにくくなる。今度はそのことが、社会全体としてはデメリットとなる。問題の解決方法を探すなら、どこかに閉じた空間で自由闊達な意見の場はあっていいはずだ。

 インターネットにも一部そうしたサービスが流行した時期もあったが、われわれは「広く周知する力」の虜になってしまった。それならば、ネットのどこかにまた場所を作るか、「インターネットの次」を探さなければなるまい。「インターネットの次」が何かは分からないが、時代の行き詰まりは、インターネットの行き詰まりでもあるようだ。

前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.